第71話 幼馴染みと長い一日⑤
コックピットに拘束される二人。
さっきまで手を取り合って見つめ合って、現状で表現出来うる最大の愛情表現を示そうとしていたのに、世界のために離れ離れになって拘束される。星降る初恋の入り江と言う最高の舞台で、二人は結ばれる事はないと言われているよう。
ローレライと関わっている限り、これは変わらないのかな。
何とも言えない顔で穂乃果もこっちを見ている。
「ハル、どう言うつもりだ」
努めて冷静に。大人の対応を求む。自分に。
「一日に二度も呼ばれる事は無かっただろ。今日に限って何でまた呼ばれるんだよ」
「やっぱりわざとなの?」
穂乃果も抱く、不信感。僕らが世界平和を脅かす行為をしでかそうとでもしてると言うのか。もしそうだと言うのなら、もう我慢はしないぞ。
『わざとです』
はっきり言った。
『お二人の様子を見て、この危機的状況を打破する手段があるのではないか、と考えたのです』
「意味が分かんねえよ」
そんな回りくどい事言わないで、はっきり言ったらどうだんだ。
「そうは言っても、答えられる訳じゃないもんね」
拗ねたような穂乃果の声。さっき、と言うかずっと繰り返されていた事だが、ハルが発した言葉は予想とは違った事だった。
『そろそろ頃合いかと思いまして』
「頃合い?何がだ」
何のタイミングなんだか。意味が分からん。
『柊木隼サン、和泉穂乃果サン、マーメイド・エフェクトを発するために必要なエネルギーを覚えていますか?』
「愛と勇気と根性でしょ」
『内包型デルタエネルギーです』
ふてくされたように言った穂乃果の言葉を訂正するハル。
『抑圧されたレンアイエネルギーが必要です。これまでは柊木隼さんの内包型デルタエネルギーを使用してADMを消滅さえてきました』
そうだな。そのせいで何度穂乃果に告白をさせられた事か。そして、告白させられたせいで、気持ちを抑える事が難しくなったのだ。
『ですが、ここへ来てもっと大きな内包型デルタエネルギーが確認されました』
「何?また僕か?確かに抑圧された気持ちはあるけども——」
『いえ。和泉穂乃果サンです』
え?と言う顔をする穂乃果。
『柊木隼サンに想いを告げられ、答える事が出来ないまま内包型デルタエネルギーは募り続けています。爆発しそうなほどに大きなものです。そろそろ解放してもいい頃かもしれません』
内包型デルタエネルギーが募っている——それは、僕が伝えられなかった想いとは違って、僕に想いを伝えられていながら、答える事が出来ないという抑圧。
それを解放する、とハルは言っている。
ハルの言葉の意味。それを理解して心臓が暴れだす。
『今まで和泉穂乃果サンに我慢していただいたのは、この内包型デルタエネルギーをためるためです。そろそろ想定の量がたまりました』
ハルがそう言うと、目の前のデバイスががしゃっと変形する。ただ、僕の目の前のデバイスではなく、穂乃果の目の前のデバイス。
『和泉穂乃果サン、柊木隼さんのコクハクに対する答えを言って頂いて、マーメイド・エフェクトをお願いします』
はっきり言って、デリカシーの無い言い方。
「えっと・・・」
グリップと引き金だけの姿になったデバイスをじっと眺める。
「これを?」
指を差して確認。
『そうです。これを握って、引き金を引きながら、コクハクに対する答えをお願いします』
事務的なハルの言葉。やはりAIには人間の気持ちは理解できないらしい。
「あの・・・心の準備とかは?」
『多少の時間はあります』
「じゃあちょっと待って」
言うと穂乃果はデバイスをじっと睨み始める。ここで言葉が途切れてしまったので、気になる事を尋ねてみる。
「あのさ、ADMがいないみたいだけど、誰に向けてマーメイド・エフェクトを放つんだ?」
『特に何に向けなくても大丈夫です。ただただ放っていただければ』
「どういう意味だよ」
『以前、ADMの正体について説明したと思うのですが』
「ADMは元々ローレライだった、て話か?」
『そうです。これまでは、ローレライから変化したADMを消滅させるためにマーメイド・エフェクトを放っていましたが、それは根本的な対策には程遠いのです』
「その場しのぎって事か?僕の告白ってその程度なのか?」
『そうとは言いません。必要な対応です。ですが、根本的な対策を講じるには、エネルギーが足りないのです。ですから、答えを禁じる事でエネルギーの抑圧を行っていました』
僕が告白する裏で、答えられない穂乃果の気持ちを抑圧していたって事か。それもまた意味があったって事か。
『そして今、根本的な対策が出来うるほどのエネルギーが確保できましたので、今日解放して頂こうと思った次第です』
ハルはそう言って、一旦言葉を切った。
『和泉穂乃果サンが放つマーメイド・エフェクトによって、このローレライを消滅させられます』




