第65話 幼馴染みと長い夜③
その後、なぜかいかがわしいDVDを見ようと誘って来る穂乃果をいなして、当初穂乃果が見ようとしてたアニメのDVDを見始める。ベッドに腰かけて肩を寄せ合いながら。
このアニメは以前二人で映画館に見に行っていて、気に入ったので買っておいたものの今まで見る機会がなかったので、このタイミングで見ておこうと思ったらしい。
SF的な要素としてタイムトラベルを絡めながらもオーソドックスなラブコメで、主人公の男が様々な時代で様々な人々に出会いながら、ヒロインとの恋を進展させていく、という物語。
「どうしてこの主人公は他の女の子が気にちょっかい出すのかなー」
最終的にヒロインと結ばれる時の盛り上がりのために必要な演出なのだが、穂乃果は気に入らないらしい。一途な男に想いを寄せられているからか。なんてね。
「こんな浮気男のどこがいいんだろう」
対して一途なヒロインには同情している。
こうやって、フィクションに本気で怒ったり同情したりできるのが、穂乃果のいいところ。
そんなふうに暫くはぶつぶつ文句を言いながら見ていたものの、だんだんと入り込んでおとなしくなる。
真剣な横顔。それもまた可愛い。
それから紆余曲折を経て、主人公はヒロインに想いを届け、ずっと待っていたヒロインがそれに応える。
そして甘い空気が流れ、始まるラブシーン。気まずいかなと思いつつ穂乃果を盗み見ると、潤んだ目で真剣に見ている。
——この雰囲気、キス出来そう。
ふと思う。
出来そうな雰囲気だし、多分受け入れてもらえるような気がする。でも、だからこそここじゃない。
何せ二人とも初めてだし、もうちょっと雰囲気のいいところで——初めて、だよな?
あえてこんな事聞いた事はないし、ずっと一緒にいたからもし相手がいればわかるはずだから、未経験である事は確信しているが、一度考え始めると気になってしまう。
初めてじゃないからどう、って言う訳でもないんだけど。
「穂乃果ってキスしたことあるの?」
何気ない風を装って聞いてみる。画面の中で、主人公とヒロインが唇を重ねた瞬間。
穂乃果が大きな目を向けてくる。信じられない、みたいな顔。いい場面を邪魔されてムッとしたのかも。
それからしばらく僕をじっと見ると、
「あるよ」
そう答えたので、隕石が頭に落ちたくらいの衝撃を受ける。
「あ・・・あったんだ・・・」
なるべく平然としていよう。取り乱すのはダサい。
それにしても、いつの間に相手を作って、いつの間に済ませたんだか。僕はまだなのに。
と、
「隼だってあるでしょ?」
「?」
よくわからない事を言う。ともかく何で僕の事情を知っているのか。
「幼稚園の頃に、隼にキスした事ある」
「え?そんな事あったか?」
憶えてない。
「同じさくら組の加奈子ちゃんが、『隼君、大きくなったら結婚して』なんて言うから。私の方が先に約束してたのにさ」
「僕にそんなモテ期があったんだ」
最初で最後かもしれない。
「だからチューした。随分びっくりしてたから、憶えてると思ったのに」
不満そう。だからその顔なのか。
「私だけ憶えててバカみたい」
「いや・・・あの・・・ごめん」
好きなくせにキスしたの憶えてないとか、幼稚園の頃の話とは言え情けない。
穂乃果はラブシーンの終わったTV画面に向き直る。
「上書きしてくれないから、いつまでも忘れられないのに」
「ごめんなさい」
今日は謝ってばかり。
もうちょっと待って下さい。
微妙な雰囲気のままDVDを見終えて、若干機嫌の悪くなった穂乃果を気にして別のDVDをかける。あのいかがわしいやつじゃなくて——何も考えなくてもいいギャグアニメ。
「あはははー」
何も考えずに笑う穂乃果に一安心。
ひとしきり二人で笑い合って、その後穂乃果が机の中からトランプを見つけ出し、真剣勝負が始まる。ババ抜き。二人なのに。
「やたー!私の勝ちー!」
「僕の負けー!」
「むふふ・・・隼に何してもらおうかなぁ~」
「何か賭けてたっけ?」
罰ゲームを設定していた覚えはないが、腰のマッサージという健全な罰ゲームが執行される。うつ伏せになった穂乃果の太ももあたりにまたがって、腰をマッサージするのだが、
「穂乃果ってさ、お尻大きいよな」
「何よそれ」
Tシャツのその下のお尻は、胸よりも存在感がある。
「海で見た時さ、他の子に比べて大きかったし」
「ふーん。見てたんだ。いやらしい」
「そんな事言うなよ。好きな子の水着姿は見たいだろ」
「そうは言っても姫ちゃんとかのお尻も見てたんでしょ」
見てたけども。それを誤魔化すわけじゃないが、
「おお・・・こっちも柔らかい」
触れてみると、柔らかいものの胸よりも弾力があって揉み応えがある。
「・・・お尻は平気で触るんだ」
いやまあ・・・確かに簡単に触るような場所ではないけども、胸は触っていいのにお尻はダメとか、そんな事は無いだろう。と思う。
とは言え、下手するとお尻の方がいやらしく感じるのはなぜだろう。
変な気分になりそうだったので、腰のマッサージに戻る。引き締まっているものの華奢とは言えない腰。
あまりこってる感じではないので、腰から背中に手を移動させる。やっぱりあまりこってなさそう。柔らかくて小さな背中。
そこから手を前に滑り込ませ——
「すー」
ようかとも思ったが、穂乃果が寝落ちしてしまっている事に気づく。
「・・・」
やっぱり寝ている女の子のおっぱいを触るのは——やめておくか。
そんな訳で、場所を移動して穂乃果と壁の間に寝転がる。
スマートフォンで時間を確認。もう二時か。
いつもなら同じ部屋で寝る事はないが、今日はいいだろう。同じ部屋どころか同じベッドだけれども。ちょっと体が触れ合っていて、今さらだけどもドキドキする。
考えてみれば、ラブホテルに泊まる泊まらないと騒いでいたのがずいぶん昔に思える。いつの間にやら問題なくベッドを共にする事が出来るようになった。
リモコンで電気を消し、目を閉じる。同じ空間に好きな子がいる事は心がざわつくが、ある意味心地いい。
いつもより深い眠りにつけそうな気がする。




