第61話 幼馴染みは言われたい
体育祭の辺りから穂乃果の機嫌が悪い。
いや、怒っているとか当たり散らしているとかそんな事は一切ないのだが、どこかふてくされているような、そんな雰囲気が漂っている。
やっぱりやきもちなのか。あの後もちゃんと穂乃果が好きだと口にしたはずなのだが。
いつものように僕の部屋に遊びに来ている今日もそうだ。ジーンズにTシャツ姿とう何気ない恰好で、いつもの格闘ゲームで対戦しながらも、時折空気が滞る。
ローレライの操縦の練習と称して相変わらずぼちぼちと続けているらしい格闘ゲームだが、いつの間にやら以前よりも腕前が上達しており、何度かに一回は負けるくらいにはなっていた。
「うまくなってるな穂乃果。前は全然負けなかったのに」
機嫌をとるわけではないが、そう言って褒めてみる。実際にうまくなってるし。
「でしょでしょ!隼に勝つために毎日練習してるんだから!」
得意げに胸を張る穂乃果。おや、ローレライの操縦のためではなかったか。
こうして見ると決して不機嫌には見えないが、時折思い出したように拗ねたような顔を見せる。それがどういったタイミングなのかよくは分からなかったのだが、
「ねえ、隼」
自分が操るレスラーキャラで僕の操るくノ一キャラを追いつめながら、穂乃果が低い声で言って来た。
「どうした」
「隼ってさ」
一瞬息を飲み込んだ。なぜか僕も飲み込む。
「おっぱい大きい女の子が好きなの?」
「・・・何言ってんだよ」
唐突に何を言うか。何の脈略もないタイミングだぞ。
動揺したせいなのか、くノ一キャラが吹き飛ばされて画面には『K・O』の文字。
「ほら。この女の子も巨乳だし」
「そ、それは・・・」
無意識だった。本当に無意識に、いつもこのくノ一キャラを使用するのが習慣となっていた。確かに立派なものをお持ちであるし、やたらと揺れるエフェクトが制作陣のこだわりだか何だか知らないが、それが理由でこのキャラを使用している訳では決して無い。使いやすいからだ。まるで言い訳みたいだが。
「いや、これはだな」
「体育祭でも姫ちゃんのが当たって嬉しそうだったし、海の時だっておっきいお姉さん達に鼻の下伸ばしてたし」
「それは誤解だって」
始まった第二戦。動揺の止まらない僕のせいで、くノ一キャラが追い込まれている。
ここだけの話、姫香のがぽよぽよ当たって悪い気がしなかったのは確かだし、おっきいお姉さん達にあらぬ期待を抱いたのは確かだが、それらは巨乳だからという訳ではない。
かといって好きじゃないかと言われると難しいところ。好きじゃない男がいるんだとしたら教えてもらいたいくらいだ。
とは言え、巨乳か否かが恋愛感情に直結するかどうかは別の話。実際僕が片思いしている穂乃果はどちらかと言うと小さいし。
だから今穂乃果は、答えにくい質問を僕にしているのだ。
少し考えて、
「大きさとかはさ、どうでもよくないか?大きいから好きになるとか、小さいから好きにならないとか、そんなんじゃないだろ?」
答えをひねり出したのだが、
「でも、好きな人がおっきかったら、嬉しいでしょ?」
「そ、それは・・・」
「やっぱりそうなんだ」
また拗ねた顔をする。
「どうせ私は小さいし」
「そんな・・・関係ないよ」
たまたま好きになった人が小さかっただけ。大きかったりしても、きっと穂乃果の事が好きになったに違いない。
「本当?」
くノ一キャラを完膚無きまでに叩きのめした穂乃果が、僕の顔を覗き込む。
「私小さいから、女の子として見られてないと思ってた」
どうしてそう思ったんだか。
「何言ってだよ」
少しムッとする。いつもいつも穂乃果への恋心を口にしているのに、届いていないのか。僕だっていつも平然と言ってるわけじゃないんだぞ。
「だってさ、隼ってローレライに乗ってる時は言ってくれるけど、そうじゃない時は何も言ってくれないじゃん。ローレライから——ナントカエフェクトを出すために言ってるだけなんじゃないの?」
「・・・」
そうだったか。ローレライのコックピット以外で穂乃果に想いを伝えた事は無かったか。だから、僕の想いを素直に受け取れなかったって事か?口にしているのだから想いは伝わっていると考えていたのは、僕の思い上がりだったのだろうか。
穂乃果は時折言っていた不安って、そういう事なのか?
穂乃果への想いを口にするのだって僕の本意ではなかったんだけど、口にしてしまった今となってはその言葉に責任を持たなければならないのかもしれない。
ここは——口にするしかないのか。そうなるとただの告白。
悩ましい。悩ましいが、
「じー」
穂乃果がこっちを見ている。何かを期待しているみたいに。待っているみたいに。
「えーと。こほん」
わざとらしく咳払いして、コントローラーを離す。
穂乃果の方を見ると、同じようにコントローラーを置いて強張った顔をしている。
「えーと、改めてだけど」
「うん」
マズいな緊張してきた。
でもどうせなら、ちゃんと想いを伝えたい。
手を取って、まっすぐに目を見つめる。
「穂乃果さん。ずっと大好きです」
「なんで敬語?」
ふふっと柔らかい笑みを浮かべる穂乃果。愛されていると言う余裕なのか、菩薩のような穏やかな笑み。
「マーメイド・エフェクトって、こんなに温かいんだね」
喜んでもらえたのは幸いだが——これで後戻りが出来なくなった。




