第60話 幼馴染みとリレー観戦
体育祭もつつがなく進み、あとは最終競技であるクラス対抗リレーを残すのみ。
僕の出番はもうないが、健太と姫香がクラス代表として参加する。しかしまあ、この二人はいったい何競技出ているのか。
「ちゃんと応援してね。女好きの隼君」
「そうだぞ。応援してろよ。女好きの柊木」
否定出来ないのが辛いところ。
二人にそうやってからかわれているうちに、そろそろスタートの時間。
と、
ビニョニョニョニョニョニョニョニョ
気持ち悪い音。
隣の穂乃果と顔を見合わせる。
そして音に気づいた健太と姫香。
「あーあー。隼君、もしかしたらさっき足捻ったんじゃない?足引きずってない?」
「え?さっき柊木はちゃんと走ってたぞ?」
気づいたものの、カンの悪い健太はともかく、
「ほら、アドレナリンが出てたりしてたんじゃないの?いいからいいから、保健室行ってきなよ。穂乃果、付き添ってあげて」
「あれ?隼、怪我したの?もしかしたら私のせい?」
穂乃果もカンが悪いものの、
「いや、アレだ。足捻って痛い気がするから、保健室に連れてってくれよ」
あとで説明しよう。
「わかった!じゃあ捕まって!」
「そこまでしなくても」
「ダメ!無理したらもっと悪くなっちゃう!」
そんな事を言いつつ僕の事を支えようとする穂乃果。カンが悪いのはいい事ではないかもしれないが、今はそれほど悪くない。
穂乃果の小さな体に体重を預ける。別に足は怪我していないが。
「あーあ。バカップルがまたいちゃいちゃしてる」
「消えろよ、女好き」
そんなざわつきもあったものの、穂乃果に肩を貸してもらって保健室へ向かう。いや、保健室に向かうふりをして人気のないところへ。
「隼君、リレーちゃんと見ててよ。上から」
「ああ。分かった」
「いいから隼、行くよ!」
穂乃果に引かれて生徒の波をかき分ける。
体育祭の最中、それに加えて体育祭の花形であるクラス対抗リレーがスタートするとあって、全校生徒は運動場に集まっている。体育館裏でサボっているヤンキーがいないとも限らないが、この学校にはそんな質の悪い生徒はいない、はず。
そんな考えもあって、体育館裏に向かう。
「え?隼、保健室はそっちじゃないよ」
まだ気づいてない。
「穂乃果、僕は足を怪我していないぞ」
「え?そうなの?」
目を見開く穂乃果。この反応もなんか可愛い。
「ほら、さっき呼び出されたから、あそこから離れやすいように姫香が気を使ってくれただけでさ」
言うと、はっと気づいたような反応の穂乃果。そして次の瞬間、むっと口をへの字に結ぶ。
「何で、私より姫ちゃんの方がよく気づくんだろう」
「それは仕方ないだろ。それより、穂乃果が心配してくれたのは嬉しかったぞ」
「私って全然姫ちゃんにかなわない・・・」
「気にするなよ」
気を落とす穂乃果の頭をぽんぽんする。姫香の思惑通りなのか、穂乃果は姫香を意識しているようだが、僕から言わせれば気にする必要はないんだけどな。
「むー」
頬を膨らませる。やっぱりやきもちなのかな。
遠くに歓声が聞こえる体育館裏。誰もいない静けさ。
ハルの声が響く。
『パイロット転送コード』
「お、スタートした」
号砲と同時に二年のクラス対抗リレーがスタートする。四クラスのそれぞれのスタートを担当する男子が、土煙をあげながら勢いよく走り出した。
ローレライのコクピットからその様子を見下ろす。三階ぐらいの高さなので、校庭のほとんどを見渡す事が出来る。
ADMの動きを抑え込みつつ、
「お、スタートは健太か」
「あ!トップに立ったよ!」
さすがサッカー部のエース。
他のクラスの連中も運動部であったり運動が得意な連中のはずだが、健太は他を寄せ付けないスピードで校庭を駆けて行く。
そのまま校庭一周走り抜け、余裕を持って次の選手にバトンリレー。次の選手はテニス部女子である樋口さん。普段はツインテールのふわふわ女子で、足が速そうには見えないが、
「おおっ!みっちゃん速い!」
見た目によらないダイナミックなフォームで、ぐんぐん前に進んでトップを独走。
「おっとりマイペースっぽいのにな」
「みっちゃんは結構熱血タイプだよ。そのギャップが男子は好きみたい」
なかなか意外な情報。そんな話も穂乃果は知ってるのか。
「隼もさ、ギャップのある女の子の方が気になる?」
「・・・別にそんな事はないぞ」
どういう意味だか。
「例えば・・・頭が良くて家庭的なギャルとか」
姫香の事かいな。やっぱりやきもちか。
「そんな事ないって」
言っているうちに樋口さんから次の男子へ。あれは陸上部の加賀山。
だが、
「あ!バトン落とした!」
穂乃果が声を上げた通り、緑色のバトンが地面を転がっているのが確認出来た。
加賀山がバトンを拾っている間に、一組と四組に抜かれて三位に落ちる。その上スタートダッシュに失敗したおかげで、四位の三組が背後に迫る。
「おい!加賀山、抜かれるなよ!」
ADMをどつきながら声を上げる。ADMにしてみればいい迷惑。
「あー!でも大丈夫そう!アンカーは——」
少し追い上げたものの、まだ三位にとどまったままアンカーにバトンが渡る。アンカーの新内姫香。金髪が翻る。
「姫ちゃん、頑張れー!」
轟く穂乃果の声に、思わず力が入る。ローレライが握ったADMの頭がみしみし音をたてる。
滑るようにトラックを駆ける金髪は、前を走る四組との距離を縮めて行く。その躍動する肉体がここからでも見て取れる。
風のように疾走する姫香は、あっさりと四組に追いついて追い越してゆく。現在二位。前にいるのは、あとは一組だけ。
みるみる距離が縮まって行く。
二年二組の応援席の盛り上がりが最高潮に達している。腕を上げる者、声を上げる者、どこから取り出したのか、鳴り物を鳴らす者。クラスの誰もが、トラック上の金髪ギャルに魅了されていた。
恥ずかしながら、僕もそう。
でも、ここで勝てば優勝もありえる局面。これは勘弁してもらいたい。
「あー!もうちょっと・・・」
もう一組に手が届く距離。大逆転までもう少し——
でも結果は無常で、二年一組とは鼻の差、胸の差で敗北となった。
とは言え、バトンを落とした事に落ち込んでいる加賀山を慰めている姫香を見ていると、勝負は勝ち負けではないなと思う。
目の前で変形したデバイスを手にする。
「やっぱり魅力的だな姫香は」
「むー」
不満そうな穂乃果の声を聞きながら、
「それでも、僕は穂乃果の事が好きだからな」
マーメイド・エフェクトの光を眺めながら、それだけは自信を持って言える。




