第56話 幼馴染みと体育祭①
九月末の秋晴れの今日。体育祭が行われる。
運動場にクラスごとに集まって、席についている。
クラス対抗で成績を競うので、クラスによって力の入れようが違う。
「いい?絶対に勝つのよ!」
朝から熱くなっている姫香が拳をあげる。それに同調してクラス中が盛り上がっている。やはり、このクラスの中心人物である姫香が引っ張っていくと、一致団結出来るな。
「隼君!元気がないよ!」
冷静に見ていたら、見つかって背中をばしっと叩かれる。
「痛いって」
そうやって文句を言いつつも、気持ちが昂ってくるから不思議。
「そうそう!もっと盛り上がらないと!」
同じように昂った穂乃果がそう言いながらなぜかおぶさってくる。
「何やってんだよ」
「こうしたら隼もやる気が出るでしょ?」
耳に息を吹きかけるな。
「出るけどさ」
こんなところで、クラスメイト全員が見ているのに何してんだ。
「あー。あいつらまたやってるよ」
「あれで付き合ってないとか言ってんのか?隠すの下手すぎだろ」
「どうせわざとだろ」
クラスメイトの男子たちに好き勝手言われるが、よそから見ればそう見えてもおかしくはないかもな。妬まれるだけだから下手に反論も出来ない。
「いいからおりろよ」
誰もいなけりゃそのままでもいいんだけどさ。
「もっと攻めちゃいなよ。穂乃果」
「ほらもっとくっついちゃいなよ」
恨めがましい男子たちの反応とは違い、女子たちは焚きつけてくる。この反応の違いは興味深い。
言われた穂乃果は一応背中からおりて隣の席に座る。
そんな穂乃果に近づく影。
「穂乃果、今日は隼君は私のパートナーなんだからね」
挑発するかのように言う姫香が、反対側の隣に座る。
「むー」
頬を膨らませ穂乃果が僕の腕をとる。
「ふふっ」
不敵に笑う姫香が反対側の腕をとる。
二人とも、感触が違うんだけど・・・。
「なんだよ・・・」
なんだこれ。二人が僕を取り合ってるみたいじゃないか。
「あ、あのヤロウ・・・」
「なんであいつばっかり・・・」
「和泉さんはいいとして、新内さんまで・・・」
妬み声が濃くなったような気がする。
勘弁してくれよ。
まあ穂乃果はともかく、運動部である姫香は出番が多いので、早速競技に向かって行った。
そんな姫香が最初に参加する競技は、障害物競走。
「姫ちゃん頑張れー!」
僕の隣に居座った穂乃果が声をあげる。なぜか最近対抗している——どちらかと言えば姫香が対抗していると言えるのか——とは言え、結局は仲のいい二人。
穂乃果の声援を浴びて姫香の体が躍動する。
他のクラスの選手が手間取る中、軽やかに跳び箱を飛び越え、忍者のように網を潜り抜け、余裕でトップでゴールテープを切る。
「やった!姫ちゃん!」
「いいぞー!新内さん!」
「サイコー!可愛い!」
「俺と付き合ってー!」
穂乃果の声援に別の声援が混じる中、姫香は金髪を揺らして手を挙げる。
そうして自信満々の笑みを浮かべる姫香は確かに輝いている。それは金髪だけが理由ではないだろう。まして、その存在感が隠しきれない巨乳のおかげでもない。
「まあ、確かに可愛いかもな」
思わずぽつりと漏れてしまう。
「むー」
「い、いや違う・・・一般論な」
不満そうな穂乃果の声を耳にし、慌てて言い訳するように取り繕う。いや、何で言い訳してんだか。いやいや、そもそも何で穂乃果が不満そうなんだか。
まさか、やきもちじゃないだろうな。
姫香と練習していた時も睨んでたし、姫香も『妬いてる妬いてる』言ってたし、お兄ちゃん取られるとか思ってないだろうな。
お兄ちゃんかどうかはともかく、穂乃果がそんな感情を持っていた事は嬉しい。
不満そうに頬を膨らませながら、それでもじわじわくっついてくる穂乃果を眺めながら、そんな事を思う。膨れた穂乃果が可愛くて仕方ない。
そんな穂乃果と声を合わせてクラスメイトを応援したり、クラス全員参加の競技などで盛り上がりつつ、とうとう次は午前最後の競技。僕も参加する男女混合二人三脚。
正直気が重い。
「隼君!行くわよ!」
鼻息荒い姫香がやってきて、手を引かれる。
「焦んなよ」
焦るなと言うか、そういう安易な接触は控えてもらいたい。
「じーーーーーーー」
「じーーーーーーー」
「じーーーーーーー」
穂乃果を含め、様々な感情を孕んだ視線が突き刺さるから。
そんな視線の熱量に耐え切れず、姫香に手を引かれたまま選手の待機場所へ逃げる。
遠くからまだ視線を感じるが・・・
「あのさ姫、こういうのやめろよ」
繋いだ手を持ち上げて姫香に見せながら言う。姫香は悪そうな笑顔を見せる。
「なぁに?穂乃果とはしょっちゅうこうしてるのに?」
「穂乃果とは違うだろ」
あと、自分の人気を自覚してほしい。
不敵に笑う姫香をよそに、手を放して周囲を見渡す。
男女混合二人三脚。少し甘酸っぱい思い出になりそうな競技だが、そんな記憶を胸に刻み込もうとしている男女が数人。一クラス二組ずつ参加しているので、一年から三年までで全部で二十四組。
仲睦まじそうなカップルらしき男女もいれば、意識しているからか何なのか無関心を装っている男女もいる。かと言えばただの仲のいい友人同士らしき男女もいるし、見た目がそっくりな双子らしき二人もいる。そんな中気になるのは、
「最大のライバルは美潮達よね」
姫香も気になっているらしい、山中と健太のコンビ。仲良く柔軟している二人は幼馴染みだから息も合うだろうし、二人とも運動部。
そんな二人は意気揚々とこっちに近づいてくる。
「姫、負けないからね」
「ふふん。私だって負けないわよ」
「付け焼刃のあなたたちとは違うんだから」
「私と隼君のコンビネーションを甘く見ない方がいいと思うけど?」
普段は親友の二人が火花を散らしている。勝負事についてはシビアらしい。
それよりも、クラス対抗戦だから直接対決はしないはずだが。
「まあ、頑張ろうな、柊木」
そんな中呑気な健太。サッカー部のエースの割にはのんびりした雰囲気を持った奴なんだよな。
「でもな、負けないからな」
のんびりしてても油断するつもりはないらしい。
「お手柔らかに頼むよ」
そこまで気合を入れられない僕は気の抜けた返事しかできないけども。
「俺さ」
そんな腑抜けた僕に真剣な表情を見せる健太。
「この二人三脚で勝ったら、決めようと思うんだ」
「決める?何をだ?」
「ほら、シオとせっかくまた仲良くなった訳だし、もう一歩進めたい」
仲良くなって、もう一歩進める?それってまさか・・・
健太は拳にぐっと力を込める。
「ここで勝って、手を繋げるようになりたい」
「あ、あ、そうか。そうだよな、安心した」
何を宣言するかと思った。
とは言え、安心するような事か?高校生にもなって彼女(?)と手が繋ぎたいとか。
そうは思ったものの、『お前らに言われたくない』とでも言われそうなので、黙っている事とする。二人がゆっくりと関係を進めようとしている訳だし。
「まあ、頑張ってくれよ」
僕としては応援もしたくなったが——向こうで山中と火花を散らす姫香を見ていると、どういう結末になるのか僕にも分からない。
そうして、様々な思惑を胸に秘め、午前中最後の戦いの火蓋は切って落とされた。




