第51話 幼馴染みと雨降り
今週の日曜日は二人でフェアリーランドへ行く。それを楽しみにしていた木曜日。
朝から気持ちよい天気の中、眠気をこらえながら穂乃果と学校に向かう。
「もうそろそろ涼しくなるな」
「寒くなる前にフェアリーランド行けそうだね」
心配なのは天気くらいだが、毎日のように確認しているが今のところは問題なさそう。
そんな訳で油断していたわけではないのだが——
昼休みに穂乃果とお弁当を食べてると、窓から確認できる空にだんだんと雲が広がって来た。
「雨降るんじゃないのか」
お馴染みのしょっぱい卵焼きを食べながら呟く。日曜日の天気は確認していたくせに、今日の天気は確認していなかった。傘を持って来ていないので、雨が降ってきてしまうとちょっと面倒。
「大丈夫!」
卵焼きを一口かじってしょっぱさを確認した穂乃果が、ご飯を口に運びながら自信ありげに言う。
「置き傘あるから問題ないよ」
置き傘——って言うと響きはいいけど、どうせ持って帰るのを忘れて置きっぱなしにしているだけだろう。
とは言え、それならば濡れなくてもいいだろうけど、
「相合傘になるんじゃないのか?」
「ん?隼、恥ずかしいの?」
言いながら焼き鮭を口にする。それにつられて僕も焼き鮭を口にするが、これはうまく焼けている。
「恥ずかしいとかは無いけど」
いつも腕を組んで帰っているんだから、相合傘したところでさほど違いはなからね。嬉しいけど。
穂乃果はにやにやしている。
「小さい傘だから、いつもよりくっついて帰らないとなー」
どういうわけか嬉しそうだな。
小さい傘だからくっついて帰らなきゃならないなんて、僕にとっては望むところだけどね。
天気は下校時間にもまだ持ちこたえていた。
今にも雨粒が落ちてきそうな曇天だが、このままなら傘も差さずに帰る事が出来るかもしれない。
それでも念のため、穂乃果は玄関にある傘立ての中を探っている。置きっぱなしにしている傘を持って帰るチャンスだ。
「あれ?置いといたはずなんだけど」
あれこれ傘を引っ張り出しているが、見つからない模様。
「持って来て無いんじゃないのか?」
「そんな訳ない。持ってきたもん」
「だったら持って帰ったんだろ。雨の日に」
「そんな事——あるかなぁ」
多分そんなところだろう。穂乃果はこういう勘違いはよくある。大抵最初はなぜか自信満々。
「だったらさっさと帰ろう。今ならまだ雨に降られる前に帰れるかもしれないし」
傘探してる間に降ってくるぞ。
とにかく雨が降って来る前に帰ればいい。
少し不満げな穂乃果を連れて正門を出ると、朝は感じなかった雨の匂い。
そしていつも通りそっと僕の腕を取る穂乃果。相合傘だったらもっとくっついていたのかと考えると、ちょっと残念。
「日曜日は天気大丈夫だよね」
「多分ね。毎日確認してるからな」
そこはぬかりない。複数の天気予報サイトを確認してるからな。
「だったら隼、風邪ひいたりしたらダメだよ」
「それは穂乃果にこそ言いたいな。涼しくなって来たんだから、お腹出して寝るなよ」
「えー!出してないよー!」
「いっつも出してるだろ。前にうちに泊まった時もへそ出して寝てたし」
パンツも丸出しだったし。
「うぐ・・・で、でも、こんな大事な時にかぜひかないよ!」
大事な時だって思ってくれてるのか。嬉しいな。
まああと三日だから、そう簡単に風邪をひくもんじゃないとは思うけどね。
なんて思っていると——
ぽつり、と。頭に冷たい感覚。
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、雨が——」
言い終わる前に、あっという間にバケツをひっくり返したような雨に襲われる。
「きゃー!」
「走るぞ!」
穂乃果の手を引いて走り出す。あっという間に前進ずぶ濡れ。
どうにか逃げ込んだコンビニの軒先。家と学校の中間付近にある。滝のように降り注ぐ雨を呆然と眺める。
「あーあ、濡れちゃった」
言いながら髪をかき上げる穂乃果。濡髪が色っぽい。それに、
「ピンクのブラジャー透けてる・・・」
「・・・えっちだな隼は」
濡れたブラウスが肌にはりついて穂乃果がいつもよりセクシーだ。両腕で胸元を隠している。
穂乃果から目を逸らしつつ前髪から滴り落ちる水滴を拭いながら、
「でも早く帰らないとな。それこそ風邪ひくぞ」
「フラグ回収ってやつ?」
怖い事を言うな。
「何にしろ、タイミング見て帰らないと——」
ビニョニョニョニョニョニョ
それこそタイミングよく鳴り響く気持ち悪い音。
薄緑色のデバイスを取り出す。
『ADMの転送前兆シグナルが確認されました。早急にしかるべき場所へ』
無感情なAIであるハルの声。
「せめてシャワー浴びてからじゃダメ?」
『和泉穂乃果サン、残念ながらそんな時間はありません』
「融通の利かないAIだな」
『AIですので』
嫌味だよ。
ともあれ、このまま引き下がるハルではない。無理やりにでも連れていかれる可能性があるので、
「仕方ない、早く終わらせるか」
そのコンビニと隣のゴミ捨て場の間。そんな隙間に穂乃果を連れ込んで、
『パイロット転送コード』
一瞬にしてローレライのコックピットの中。
濡れた制服が不快。
「気持ち悪いなぁ~」
びしょ濡れスケスケ穂乃果は可愛い。けれど、あまり長引かせてしまうと、それこそ風邪をひいてしまう。
『和泉穂乃果サンの体温が下がって来たので、急がなければなりません』
「そんなところも分かるのか」
『わかりますよ。しかし、柊木隼さんの体温は高いままですね。興奮しているんですか?』
「んな訳あるか」
「え?隼、何で興奮してるの?」
「してないって」
ともかく、 ローレライに乗ってしまえば簡単に下りるわけにはいかないので、転送されてきたADMを迎え撃つ。
しかし、このADMとローレライのいるこの赤黒い次元には雨は降っていないが、元の次元の雨ははっきり確認できるので、濡れないだけで雨の影響は受ける。視界が遮られる。
考え方を変えてみれば、この赤黒い次元だけで雨が降っている、という逆の現象も起こり得るのか。
ともかく、
「スケスケ穂乃果も大好き」
小雨になってきた雨を切り裂く優しい光。マーメイド・エフェクトはADMを包み込んで消滅させる。
「へくち」
返事をするような穂乃果のくしゃみ。
そんな穂乃果の顔を見る限り、フラグを回収してしまったような気がしないでもない。




