第49話 幼馴染みと誕生日①
夏休みも終わり、今日は始業式。全体集会とホームルームだけで終わり、いつものように穂乃果と帰る。
因みに穂乃果につけられたキスマークは、シャツのボタンを一番上まで留める事で露出は防ぐ事ができた。
何でそんなにしっかりボタンを留めているんだ、と新内には問い詰められはしたが、どうにかごまかして事なきを得た、と思う。
そしてようやく穂乃果の家に帰って来たので、首元を締め付けるワイシャツを脱いでTシャツ姿で穂乃果と昼食を共にしている。
今日は志保さんも仕事でおらず、二人きり。
「そう言えば、もうすぐ隼の誕生日だね」
協力して作った親子丼を食べていると、学校指定のTシャツとハーフパンツに着替えた穂乃果がそんな事を言って来た。
僕の誕生日は九月。もうちょっと言えば、来週。
「覚えてたんだな」
「当然でしょ」
穂乃果は胸を張ってそう言うと、親子丼をレンゲですくって口に入れる。幸せそうな笑顔。
「今年はプレゼントくれるの?」
尋ねながら僕も一口。甘目な味付けで僕好み。味付けは僕が担当したんだから当然だけれども。
「去年は何あげたっけ?」
「何だったかなー。漫画貰ったんじゃなかったっけ?」
「覚えてないんだー。ひどーい」
・・・そうだな確かにひどい。去年から僕は穂乃果の事が好きだったはずだが、誕生日に貰ったものを忘れるとは我ながらひどい。けど、確か別の買い物のついでに貰ったはずなので、特別感はまるで無かったのである意味仕方ない。
そう言えば誕生日会とか、しなくなったよな。
「私はずっと鞄につけて大事にしてるんだよ?」
「・・・僕だってずっと大切に本棚に入れてるぞ」
「ふーん」
怪しがるのは分かるけど。正直どれだかよく覚えてないし。
それが穂乃果は不満だったようで、
「だったら今年は忘れられないプレゼントあげないとね」
なんて言いつつレンゲの先を唇に挟む。煽情的に目を細めて、
「私の、『初めて』をあげようか?」
「えっ」
呼吸が止まる。心臓も止まったかも。
「初めての手作りケーキとか」
「あ、ああ、そうだよな、びっくりした」
「何想像したの?」
上目遣いで煽るように僕の顔を覗き込んでくる穂乃果。
「・・・何も想像してないよ」
してないしてない。邪な事なんて。
「本当かなー?」
分かってて煽ってるな・・・僕をドキドキさせたいって言ってたから、この前からわざわざ僕を勘違いさせるような事を言う。
心がざわざわしちゃうじゃないか。いつか穂乃果に大切な人が現れるまで、その日まで穂乃果を守るんだって思ってたのに、揺らぐじゃないか。いや、でも——そろそろ限界だって事は自分でも気づいている。
僕をドキドキさせっぱなしな穂乃果は、穏やかで優し気な笑みを浮かべる。
「フェアリーランドは行こうね。約束だもんね」
そう、穂乃果の誕生日の時にそんな約束したな。もしかしたら一緒に行けないと思っていたから、ホッと一安心。
「体育祭の準備が始まるからな。その前には行きたいな」
「九月末には始まるから、その前の日曜日かな?」
スケジュールが決まる。僕の誕生日のすぐ後の日曜日。
「今度は隼が乗りたい物に乗っていいからね」
「そうは言っても、この前ほとんど乗った気がするな」
「いいから。考えておいて」
そう言いながら親子丼を平らげる穂乃果。
僕が一番乗りたいのは、穂乃果の膝だけれども。そんなリクエストを聞いてもらえるのかな?
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明けて。
今日は僕の誕生日。
何事もなく学校に行き、普段通り帰宅中。
穂乃果の手作り弁当もいつも通り卵焼きがしょっぱかったし、特にハッピーバースデー的な事は何も起こらず、何も起こらないまま今日が過ぎようとしている。
「そろそろ体育祭だから、出たい競技決めておけって言われたけど、何に出る?」
そんな何でもない会話をしながら、それでも相変わらず腕をとってくる穂乃果と共に家に帰る。
これも、ある意味誕生日プレゼントなのかもしれないけど。
「今日もうちでご飯食べていくでしょ?」
当然のように穂乃果に言われ、当然のように快諾する僕。これもまた誕生日プレゼント。
「あら隼君。誕生日おめでとー」
結局今日初めての祝福の言葉を、志保さんに貰ってしまうというサプライズ。
いや、悪いわけじゃないんですけどね。せっかくなら穂乃果に言ってもらいたかったな、ってだけで。
「じゃあ待っててね!」
学校指定のハーフパンツ姿になった穂乃果がキッチンに向かう。リビングのソファで待たせてもらう事にして腰を下ろすと、隣に志保さんが腰かけた。
ん?
そんな僕の様子から何かを察した志保さん。
「今日は穂乃果が一人で作るんだって。隼君の誕生日だからかな?」
にこにこしている志保さん。
穂乃果が一人で——昨日までは志保さんも一緒にキッチンに立っていたから心配はしていなかったのだが、一人となると話が変わる。
「大丈夫ですかね。いろいろと」
不安が募る。未届け人のいない状態で、手綱から離れた穂乃果。味もそうだし、事故的な事も不安。
「大丈夫よ。私の娘を信じなさい」
余裕そうな志保さん。いつも穂乃果の手際を見ているからそう言うのだろうけど、見ていない僕は不安で仕方ない。いくら最近料理に慣れてきた穂乃果とは言え、昔からのイメージは拭えない。
「隼君は昔から穂乃果の心配しすぎ。そろそろ信じてあげてよ」
「ああ・・・」
志保さんに言われ思い返してみると、穂乃果の無防備さにだったり、女子力のなさだったり、勉強の成績が上がらない事だったりを、心配するあまり信じていない事に気づいた。
そうだよな・・・もう十七歳なわけだし、一人前——とは言えないまでも、過保護にする必要はもうないだろう。
昔のように苦手な事から目を逸らしている穂乃果ではない。苦手だった料理だって克服しようとしている穂乃果なんだ。
「そうですね。ちょっと信じてませんでした」
「んふふ」
志保さん噂好きの少女のような顔をする。
「そうそう、穂乃果はいつまでも子供じゃないのよ。だから信じてあげて。穂乃果の気持ちの部分もね」
結局は穂乃果が幼かった訳じゃなく、僕がただ子ども扱いしてただけか。
反省しなきゃいけないかも。
それから小一時間。志保さんととりとめのない会話をしながら待っていると、
「出来たよー」
穂乃果が大皿を持って来て、ダイニングテーブルに置いた。
「そうか」
キッチンから悲鳴やら何かが壊れる音がしなかった事にホッとした僕は、ダイニングテーブルに移動。
「何か失礼な事考えてなかった?」
「・・・考えてないよ」
信じるとは思ったものの、まだ不安は完全には拭えなかったな。やっぱり反省。
穂乃果に不審な目で見られながら席に着くと、そのテーブルに乗せられていたのは、
「肉じゃが?」
「そう!この前佳代子ママに教わったから、作ってみたの!」
自信たっぷりな穂乃果。その表情には迷いも不安もない。
そんな穂乃果の自信作である肉じゃが。おいしそう。見た目は母親のそれと瓜二つ。
「食べてみて」
急かしてくるので、じゃがいもを一口。
う、うまい。
人参も一口。
うまい。
味があんまり染みてないとか、じゃがいも人参に芯があるとか、牛肉あんまり柔らかくないとかそんな事はどうでもよくて、 母親が作ってくれる甘目の肉じゃがそのものの味。先日教わっただけで、穂乃果に柊木家の味が受け継がれたようで感無量。
泣きそう。
「んーまー、味はいいんだけどね」
志保さんはどこか納得出来なさそうだけれども。
以前の僕だったら苦言を呈していたかもしれないが、今はただただ嬉しくて胸がいっぱいで、最高の誕生日でしかない。




