第47話 幼馴染みと対決
夏休みも残り数日。今日は朝から穂乃果の部屋で夏休みの宿題と格闘している。
自室という事で、学校指定のハーフパンツとTシャツというラフな格好の穂乃果とローテーブルを挟んで向かい合い、分からないところは教えてやりつつ進めているのだが、進捗は芳しくない。
「何で夏休みは宿題があるんだろうね~」
始まって数十分で全力で飽きたアピールをしながら穂乃果が言う。ここ最近遊び歩いてばかりだったので、勉強するモードには入っていないよう。
「穂乃果みたいに遊んでばかりいる人がいるからじゃないか?」
「そんな事無いもん!宿題だってちゃんと進めてるし!」
「僕が言わなきゃやらなかっただろうよ。放っておいたら最終日に泣きつかれるのは目に見えてたからな」
「むー」
自覚がある——と言うか中学生の頃に長期休みの度に繰り返されてきた恒例行事だしな。志保さんにお願いされて面倒みるようにはなったけども。
今回も面倒なものから少しづつ終わらせて、後に残っているのはさほど面倒なものではないはずだが。
それでも穂乃果の集中力は散漫になっている。
「宿題なんかしてたらさ、有意義な夏休みなんか送れないよ」
「勉強したくない人はみんなそう言うな」
「だって実際そうでしょ!」
「勉強しながら有意義な夏休み送ってる人もいるからな。勉強したくない言い訳してるだけだろ」
「ふーん。私には隼がいるからいいもーん」
僕もいいんだけどさ。
穂乃果といられるなら、勉強だろうが海水浴だろうが何でもいい。穂乃果もそう思ってくれているんなら嬉しいんだけど。
そんなこんなありつつ、どうにか穂乃果のお尻を叩きつつ宿題を終わらせた時はお昼を過ぎていた。
「これから何しようか」
志保さんが作ってくれた冷やし中華を食べながら、穂乃果に尋ねてみる。
「うーん」
勉強から解放された穂乃果は、幸せそうに冷やし中華をすすっている。
「隼は何したい?いちゃいちゃしたい?」
したいな。
「やっぱり穂乃果が攻めるのね」
志保さんはにこにこしている。志保さんは昔から僕と穂乃果を見守ってくれている。
「じゃあ部屋でゲームしようよ」
「今日はインドアでのんびりね。それもたまにはいいか」
「だったら隼、シャツ持って来てよ。彼シャツしたい」
「へー。隼君のシャツは彼シャツなんだ」
「わざわざ持って来てどうするんだよ」
「いいじゃん。今度はワイシャツがいい」
余計危ないって。
「じゃなきゃ隼が私のシャツ着る?ジャージは着たし」
「着ない着ない」
「そう言えば何で穂乃果のジャージ着てたんだっけ?」
それは掘り返さなくていいんですよ。
「負けないからね!」
とりあえず彼シャツも彼女ジャージも諦めて、穂乃果は僕にコントローラーを渡してくる。
こうしてゆっくり二人でゲームするのも久しぶりだが、穂乃果の腕前はそんなに上がっていないだろうし、僕の腕も鈍っているわけではないだろう。
「ゲームだったら穂乃果に負ける訳ないだろ」
余裕釈釈。
「そうは行かないよ!私だって勝てるゲームがあるんだから!」
ほうほう。穂乃果にも勝てるゲームって何かな?
「これ!」
と言って穂乃果が取り出したのは、双六ゲーム。サイコロを振ってコマを動かし、止まったマスの物件を買ったり売ったりするゲームだ。確かにこれなら、テクニックはあまり必要ない。
「これなら隼にも勝てる!」
ソフトを掲げるな。
「うむ。いいだろう。運が大部分を占めるなら、穂乃果にも勝ち目はあるよな」
そんな余裕も見せてやる。運が勝敗を左右するとは言え、穂乃果には負ける気がしない。
そんな余裕を見せながら勝負に挑んだのだが、
「・・・負けた、だと?」
穂乃果社長に大差をつけられ、敗北した僕社長には貧乏神がゼロ距離で張り付いている。
「へーん。隼はサイコロの出目が悪すぎ。出てほしい時に出なくて、出てほしくない時に出るんだもん」
ころころ笑われる。
そんな事自分でもわかってる。どういう訳か出てほしい出目が出ない。そのくせ、穂乃果がサイコロを振ると出て欲しい出目がバッチリ出る。
「全然いいカードも出ないしね。捨てるようなカードばっかり」
「イカサマじゃないのか、これ。穂乃果、何かしただろう?」
「する訳無いでしょ。そんな高等テクニック持ってないよ」
そりゃあそうだけども。
何か納得いかない。この運が下振れした感じ。僕の実力じゃない。
「もう一回だ!このままじゃ終われない!」
「えー、どうしようかな~」
にやにやする穂乃果。僕にはお願いする事しか出来ない。
「じゃあさ、罰ゲーム賭けよう」
穂乃果が人差し指を僕に向ける。
「勝ったら負けた方に何でも言う事を聞かせられる、ってのやろうよ」
むむ。以前と違って自分が早速勝ったからって強気だな。確かにこれに関しては僕が勝てるって保証も無いから、勝負としてはいい塩梅かもしれない。
「いいぞ。何言われても泣くなよ」
「泣く訳ないでしょ!隼を泣かしてやるんだから!」
強気な穂乃果の横顔を見ながら、第二回戦。
「ま・・・負けた・・・」
さっきよりも大差つけられて、貧乏神にズタボロにされて、負けたというのもおこがましいほどの惨敗。ボロ負け。
「わ・た・し・の、勝ちー!」
右手を高く掲げる穂乃果。
負けました。何の疑いようもなく、負けました。
「ふんっ、ふんっ、ふーん」
得意げに鼻を鳴らす穂乃果。鳴らされてもぐうの音も出ません。
「覚えてるよね?何でも言う事聞いてくれるんだよね?」
顔を覗き込んで来るな。敗者に後ろ脚で砂をかけるような真似をするな。あんなに可愛くて愛おしい穂乃果の顔が、今に限って言えば憎たらしい。
「何してもらおうかな~」
にやにやすんな。
「うーん」
頬に人差し指をあてて考え込む様子を見せる穂乃果。
「何でもいいから、早く済ませて次やろうぜ」
どうせたいした事じゃないんだろうし。次は僕が勝って『大した事』させるぞ。なんてね。
「じゃあ~」
もったいぶる穂乃果。それから急に真剣な顔をして、子犬のように真っ直ぐで潤んだ目で僕を見る。
「キスして」




