第45話 幼馴染みは怒ってます
穂乃果に言われてしまったので、水着女子を見る事が出来なくなった。
スマホも何もない現状。水着女子達はまだ遊び終わる様子もないので、どうにかして時間を潰さなければならない。
どうせだったら一緒に遊べれば良かったんだけどな。水着も無ければ着替えも無いから無理だけど。まあ、水着女子五人に男一人混ざって遊ぶなんて、おそらくそれは空想世界のイベントに違いない。
さすがにそんな事は夢のまた夢。
仕方ないので砂粒を数えよう。一、二——
「あの、すみません」
砂粒を二百七十程数えたところでふいに聞き覚えの無い声がして、そちらに目を向ける。
をほぉ・・・
視線の先にいたのは、少し年上くらい——おそらく大学生くらいのお姉さん二人。黒髪で少し垂れ目な困り顔の女の子と、金髪で目鼻だちのはっきりした都会的な女の子。二人とも相当可愛い。
そしてそして・・・新内に負けないほどの大きさ。
大きなメロンが四つひしめき合っている光景は、やはり直視出来ない。
「えーと。何でしょう?」
わずかに視線を外しながら答える。こんな一人寂しい荷物番に何の用でしょうか?
「あの・・・お一人ですか?良かったら・・・」
「良かったら、私達と遊ばない?」
少し緊張気味の黒髪のお姉さんと、ウインクする金髪のお姉さん。
これは・・・これは、逆『ナントカ』って奴では?
ナンパ男が少ないのがこの海水浴場のいいところだが、逆は無くは無いのか。
まさか自分がその当事者になるとは思わなかったが、初めての経験なのでどうしていいか分からない。
「どうですか?」
「暇なんでしょ?」
おー。刺激が強い。そうやって両腕でぎゅっと胸を挟んで強調する姿勢はわざとですか?
「えーと」
どうしたらいいんだこれ。僕の心は穂乃果のものなので、この誘いに乗る理由は皆無なのだが、この道を選択させる誘惑の強さも半端じゃない。その道を進めば大人の階段も待っていそうな、そんな予感すらする。
いやいや・・・やはり穂乃果が・・・やはり僕には穂乃果しかいない。僕が穂乃果を選ぶ理由は、可愛さでも胸の大きさでもない。いくら穂乃果にその気はないとは言え、ちゃんと諦められるまでは違う道は選択出来ない。
「ダメですか?」
「いいじゃん」
うわ。可愛いな、オイ。
「申し訳ないですけど——」
断腸の思いで泣く泣く断りを入れようとすると、気配を感じる。
予感がしながらそちらを見ると、穂乃果。大きな目を見開いてこちらを見ている。
「あー、穂乃果・・・」
浮気が見つかったような気まずさ。なぜだろう。浮気じゃないのに。
「あら可愛らしい。妹さん?」
そんなお姉さんの言葉に、目を吊り上げる穂乃果。スイッチが入ったかのように砂を蹴りながら近付いてくると、僕の腕をぐいと引っ張る。
そして二人のお姉さんを睨むと、
「彼女ですっ!」
そう宣言して僕を引っ張って行く。
「お、おい穂乃果」
足を取られながらもついて行く。
それより、今変な事口走らなかったか?
有無を言わせず、波打ち際まで引っ張って行かれる。こんな強い力で引っ張られるのは初めてだ。それより、水着なんだから僕の腕を胸に抱えるのはやめなさい。
その波打ち際では水着のクラスメイト達がハイタッチしながら盛り上がっている。
「すいませんねー」
そんな中呆気にとられるお姉さん二人に近づく新内。メロン六つはお腹いっぱいです。
「あの二人、今微妙な時期なんですよ」
「えー、そうなんですね。悪い事したかなぁ」
「あの子・・・彼女って言ってたよ?」
などと盛り上がり始める。
仲良くなっとる。僕達をネタにしているのが気にはなるけど。
そんなメロン畑の人たちをよそに、穂乃果はそのまま僕を海に引っ張り込む。膝くらいの深さのところまで連れてきたところで、ようやく手を離す。
憮然とした穂乃果の表情。怒ってる?
「穂乃果・・・さっきのは何だよ」
「何でもない!」
僕の事を睨みながら声を荒げる。
「彼女とか言って——」
「何でもないって言ってるでしょ!」
「わぁ!水かけるなよ!」
怒っているからか照れ隠しかは分からないが、穂乃果が両手で水をすくってばしゃばしゃ水をかけてくる。着替えが無いんだから、濡れたら一大事なんだぞ。
「やっぱり大きいおっぱいが好きなんでしょ!」
言いがかりも甚だしい。
「んな事誰も言ってないだろ!」
「絶対そうだ!見てたもん!」
「やめろって!」
文句を言いながら散々水をかけてくる穂乃果に、お返しに水をかけ返す。僕の服も穂乃果の水着も時間と共に水を含んで行く。
「あー!私もやる!」
「私も!」
「私も参加しようかしら」
僕と穂乃果の水戦争に真島、門脇、山中も参戦。狙いは当然僕。四対一という不利な戦いを強いられる。
「おー!もうやめてくれよ!」
四人に水を浴びせられるという一方的な試合。大雨に見舞われたように、あっと言う間にずぶぬれになる。JK達の水着を堪能する余裕もない。
僕は誰を狙えばいいか分からない。
「私もー!」
「私も行こうかなー」
「やろうやろう!」
続いて新内も参加し、どういう訳かお姉さん達も参戦してくる。
七対一。もはや嵐。台風レベルの水の量。
見ようによっては七人の女の子と戯れているように見えるかもしれないが、これって実際はイジメだろ。特大メロンも確認できないじゃないか。
「うぁ・・・もう・・・」
息も出来ない。
「はっははっはは!」
「ずぶ濡れずぶ濡れー!」
「楽しいかも」
どうにかそれらが聞き取れるが、あとは水飛沫の音だけが響き渡る。
僕の服はもう濡れているというレベルではない。どうすんだ。着替えも無いのにどうやって帰るんだよ。
盛大な水飛沫の中で無力感に苛まれて立ち尽くす中、ふいに水飛沫が止まる。
箸が転がったのかと言わんばかりの笑い声が響く。あまりふざけてるとイジメで通報されるぞ。
手を振って水を振り落とす。そんな行為に今更何の意味もないが、少しでも体についた水を減らそうとしていると、ばしゃばしゃと水を蹴るかのような音。
濡れた髪をかきあげながらそちらを向くと、穂乃果がまっすぐな目をしてタックルする勢いで駆けてくる。
「行けー!」
誰かが叫んだ。
と同時に穂乃果が一瞬姿勢を低くし、まっすぐ僕に突っ込んでくる。
「どぉわぁ!」
思い切り穂乃果に飛びつかれて、たまらず後ろに倒れこむ。
盛大な水柱が上がり、周囲の女子達も盛り上がる。
それも次第に収まり、尻もちをついた状態の僕に穂乃果が覆いかぶさっている状態で見つめ合う。光の粒を全身に纏っているような、きらきらした穂乃果の姿につい見とれてしまう。
「へへっ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべる穂乃果。
そんな笑顔見せられたら——どんな事でも許せてしまいそうだから、ズルい。




