第41話 幼馴染みと海③
「ローレライの成れの果て?」
『そうです。ADMはかつてローレライでした」
何気なく言うハルだが、僕の頭は混乱している。
『ローレライが老朽化し、反応炉と同化して年月が経った結果、ADMという怪異に生まれ変わったのです』
「・・・よく分からないんだけど」
『では最初から説明しますね。まずローレライとは、突如現れて世界に脅威をもたらしたADMに対抗する為に作られた、半生体兵器です』
「生体兵器?ちょっと怖いな」
言葉の響きでは、何か生物を改造した——だとか、 死体を利用して——などと思いついてしまう。
『いえ、ただ人工的に培養した筋肉などを使用した、という意味なので』
「そういう事か」
だから怖くない、という意味ではないが。
『そんなローレライがADMに変貌する事が分かったのは、ローレライを運用し始めてから十年経った時でした』
「え?ちょっと待って」
辻褄の合わない事がある。
「ローレライはADMに対抗するために作られたんじゃないのか?」
ローレライがADMになるなら、ローレライが作られる前にADMが現れる理由って何だ?
『その事ですが簡単に言いますと、ADMの全ては元の姿であったローレライの元に現れます。つまりそのローレライの元に現れたADMは、そのローレライが変貌した未来の姿です』
ん?
「え?どういう事?」
よく理解できない。
『つまり、柊木隼サンと和泉穂乃果サンが戦っているADMは、様々な時間軸からやってきた、柊木隼サンと和泉穂乃果さんが操縦するローレライの未来の姿です』
やっぱり分からない。ローレライに乗って、未来の自分を攻撃してるって事?
『複雑かもしれませんが、そういう事です』
「じゃあ、一体倒した後もまた出てくるのは、別の時間軸の未来のローレライって事?」
『そうです。その時間軸は無限です』
「それってさ、いつ終わるの?」
ローレライとADMの関係性は、はっきり言ってよく分からない。ただ、戦っても戦っても別の時間軸のADMがやって来るんだったら、それを結局どうすればこの戦いは終わるのか。
『それは——まだ言えません』
「言えない?」
『準備が整うまでは、言えません』
「言えないって事は、手段はあるって事だな?」
『それはあります』
それは良かった。戦いが永遠に続くとなったらどうしたらいいか分からない。
『その時になったらご連絡するのでご安心を。その時は——』
ふいにハルの言葉が止まる。何かが切り替わるような沈黙。
『柊木隼サン』
改まって呼びかけられる。
『ADMの転送前兆現象が観測されました』
「え?今?」
『そうです。ちなみに、ADMは元のローレライを目指して跳んで来るので、ローレライをまず転送する必要があります』
そういう事か。何気なく言っていた穂乃果の言葉が正しかったという事か。
「だから転送場所をコントロール出来るのか」
『そういう事です。ですので、転送する場所を選んで頂いても構いません。柊木隼サンも和泉穂乃果サンもその場所に跳ばせるので』
何とか腑に落ちる。でも、今更ながらよく分からない技術でまったく関係の無い場所に転送されるってちょっと怖い。
「そうだなぁ・・・穂乃果は海だし・・・そっちがいいかな?」
穂乃果をこっちに跳ばすより、海に行って戦おうか。あわよくば穂乃果と海で遊べるかもしれないし。
『わかりました。では、ローレライを呼び出します』
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「穂乃果、さっきの話だけどさ」
砂浜で城を作っていた姫香が、隣で砂浜に穴を掘っている穂乃果に声をかける。
「さっきの?」
少し警戒した顔。さっきと同じように問い詰められるのを警戒している。
「いや、穂乃果さ、柊木君とこのままでいいのかな、って話」
「このままで?悪い事ある?」
「いや、無いけど」
穂乃果は少しへそを曲げている。これは日菜子や操のように問い詰めるのではなく、穂乃果に寄り添って聞き取らなければならない。
姫香は近くでボール遊びをしている日菜子と操、美潮を眺めながら、
「柊木君の事、好きなんでしょ?」
「な・・・」
穂乃果は姫香を見て目を見開いた。
「そ、そんな事ないもん」
俯いて穴掘りを再開する穂乃果。ぶつぶつ言いながら頬をふくらませている。
これは——慎重に対応する必要があるかもしれない。このまま言ってしまうと穂乃果はふさぎ込んでしまう。
姫香は穂乃果と隼の事が気になって仕方ない。隼は穂乃果の事が好きだとははっきり聞いたし、今までの反応を見る限り穂乃果だって同じような気持ちのはずだ。二人を第三者的に見ると、誰が見たって想い合う間柄だ。
認めないのは本人達だけ。それがまたもどかしい。
本人達は二人の間に日に日に醸成される、濃密な空気に気づいていないのだろうか。
そんな事もあり、姫香は心配なのだ。
さっきの写真を見た時は少し安心したのだが——
やっぱり認めない穂乃果。その気持ちがよく分からないとは言うが、本当だろうか。
そんな二人の手助けするのは、いろいろ知っていていろいろ聞いている自分の役割だろう、と姫香は思う。
「でもさっき操も言ってたけど、柊木君取られるよ」
「姫ちゃんもそう思う?」
穂乃果が不安そうにしていると幼さが際立つ。迷子になったかのように瞳が揺れる。
隼が誰かに取られるかと言われれば、それは微妙。隼は本当に穂乃果の事が好きだろうが、以前隼が言っていた『現状の関係で不満はない』と言っていたのが気になる。
穂乃果と恋愛してはいけないとでも思っているような、そんな空気を感じたのだ。
そんな隼が穂乃果との恋愛を諦めた時、別の道を選ぶ時がくるかもしれない。
想いあっているのに諦めるなんて、こんなに報われない事はない。
「あのさ、姫ちゃん。姫ちゃんは色々知ってるから聞きたいんだけど」
穂乃果が言いながら深刻そうな顔を姫香に近づける。
「隼ってさ、本当に私の事好きだと思う?」
「え?」
穂乃果が感じていた不安は、姫香が考えているよりも根本的な事だった。あんなにはっきり言われているのに、どうして不安になるのだろうか。
「私が思う限り、柊木君は穂乃果の事がちゃんと好きだと思うよ」
「そうかなぁ。妹だと思われてないかなぁ」
そう言われ、姫香も不安になる。隼は穂乃果に兄だと思われていると思い込んでいて、穂乃果は隼に妹だと思われているのではないかと不安になっている。どうもそれぞれの気持ちと嚙み合っていない。
だがそれは、穂乃果自身が壁を壊すしかないような気がする。
となると、自分には何が出来るだろうか。
そうして穂乃果の不安そうな目を見返していると、
ビニョニョニョニョニョニョ
ふいに響く気持ち悪い音。
穂乃果が穴を掘っているその横。パラソルの下のレジャーシートに、全員の手荷物が置いてある。
穂乃果は穴掘りを一旦停止すると、荷物の元へ。防水バッグにスマホと一緒に入れてあった薄緑色のデバイスを取り出す。
それを見て察する姫香。向こうでボール遊びをしている三人を確認。
「じゃあ行くよ」
出来上がった砂の城を放置して、穂乃果の手を引く。人目につかない場所を探さなければならない。
「どこに行くの?」
デバイスを手にして姫香について行く穂乃果。
姫香には心当たりがある。
「シャワー室に行くよ。そこだったら誰にも見られないよ」




