第40話 幼馴染みと海②
『呼びましたか?柊木隼サン』
普段呼びかけてもあまり返事をしないハルピュリア・システムことハルは、今日は珍しくすぐに返事を返した。
「ああ、暇だから話し相手になってくれ」
『私は柊木隼サンの暇つぶしの道具ではないのですが』
「まーまー。色々聞きたい事もあるしさ」
ベッドの上で胡坐をかき、前にデバイスを置く。この際だからハルとは腹を割って話したい。
『答えられる事と答えられない事がありますよ』
「まあいいや。答えられる範囲だけで」
普段は反応しないくせに今日は反応してくれたので、それだけでもまだいい。
『今日は和泉穂乃果サンと一緒ではないんですね。ここ一か月ほどは毎日毎日一緒の時間を過ごしていたと思ったのですが』
そう言われると恥ずかしいな。
「穂乃果は今日は友達と一緒だよ。今頃水着で楽しくやってるんだと思うぞ」
『そうですか。お二人は常に一緒だと思ったので』
ハルは僕と穂乃果の事をどう思っているのか。そもそも、ハルのせいで——おかげで常に一緒にいるようになったのに。
『いかがですか。内包型デルタエネルギーは募っていますか?』
内包型デルタエネルギー。カタオモイエネルギーなんて異名がある。
「おかげ様でね」
皮肉だけど。
『それは良い事です』
皮肉が通じない。つまらないAIだな。
『内包型デルタエネルギーが募れば募るほど、マーメイド・エフェクトは強くなりますからね』
「それはどうも。じゃあ、まずはローレライの事を聞かせてもらおうかな」
『ローレライは異次元機動人型兵器です』
「そんな事は分かってる」
そんな形式的な事が聞きたいわけじゃない。
「ローレライって奴がどこで作られて、どこの誰に運用されているのか、何するモンなのか聞かせてもらえるか?」
『はい』
素直に応じてくれるのか?
『ローレライは我々の次元で作られ、我々の次元の集積AIにより管理運用されており、ADMの討伐を目的とした兵器です』
「答えになっているような、いないような感じだな」
予想出来そうな答えである。でもこれについてはこれ以上の答えは求められそうにない。これ以上は理解出来なさそうという意味でも。
「じゃあADMって何だ?何をしに現れて、結局どうなろうとしてるんだ?」
『ADMは我々の次元に現れた怪異で、世界に滅亡をもたらす強大なものです』
「前もそんな事言ってたけど、今まで相手にしてた感じだと、とてもそこまでには感じないんだよな」
『戦闘力が高い訳では無いので。放っておくと脅威になり得るという意味です』
「で、何なんだADMって。正体は分かってないのか?」
『それは——』
ハルは一瞬躊躇するように一瞬言葉を切った。まるで分かっているけど言うべきかどうか迷っているよう。
「言えない事なのか?」
『・・・』
返事がない。
「あれ?いる?」
『私はいつでもここにいますよ』
言い方怖いよ。
「いるなら返事しろよ」
『申し訳ありません。この返答について確認しておりました。柊木隼サンに知らせて問題無いかどうか』
どこに確認したんだよ。それより、どこかに確認しなきゃいけない事なのか?
『許可が下りましたので、返答したいと思います』
「大袈裟だな」
『これに関しては機密も関わっているので、慎重にならざるを得ないです。ともあれADMの正体についてですが、ローレライの成れの果てです』
「え?何?」
大袈裟に焦らした割にはあっさり言ったから聞き逃した。
『ADMは、以前はローレライでした』
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「穂乃果、これってどういう事?」
「むー・・・」
日菜子が印籠のように見せつけてくるスマホ画面から目を逸らしつつ、頬をふくらませる穂乃果。スマホ画面の中の自分は、幼馴染みに頬にキスされて戸惑った表情をしている。
「・・・何も言わないつもり?」
「どう考えたってこれはもう、そうでしょ」
口を割らない穂乃果に、日菜子と操が顔を見合わせる。このまま尋問する気満々である。
「これってさ、初恋の入り江じゃない?」
穂乃果の背後からスマホ画面を覗き込んだ美潮がそんな事を言う。
「う・・・美潮ちゃん、知ってるの?」
何故か悔しそうな穂乃果。このままとぼけようと思ったのに。
「知ってるわよ。この前テレビでやってたし。この入り江でキスしたら永遠に幸せになれるってところでしょ?」
「キスしたら・・・」
「してるし」
「・・・でもほっぺだもん」
「キスはキスだもんね」
日菜子と操が顔を見合わせながら言うが、反論する穂乃果の声がどんどん小さくなる。
「まあまあ二人とも。それぐらいにしてやんなよ」
洗いざらい聞き出したい気持ちはもちろんあるが、集中砲火を浴びる穂乃果が少しかわいそうになってきた姫香が助け舟を出す。
「えー。でもさぁ、姫」
不満そうな日菜子。
「姫だって気になるでしょ?穂乃果と柊木君がどうなのか。そろそろはっきりしてほしいと思わない?」
「そりゃ、気になるけどさ」
気になるものの、姫香は隼の気持ちも知っているし、穂乃果がこうして素直な気持ちを言えない理由もわかる。
隼は穂乃果の事が好きだが、穂乃果はそれに答える事が出来ない。正確には隼に知らせなければいいので自分達に言うのは問題ないはずだが、ただ単純に素直になれないだけだろう。
「ほら、あまり焦らすと穂乃果はへそ曲げるから」
実際にへそを曲げ始めている穂乃果。膨れてそっぽを向いている。
そんな横顔を見る操。
「でも姫も不安じゃない?穂乃果がいつまでもはっきりしないから、柊木君誰かに取られちゃうよ」
と言うと穂乃果がぴくりと反応した。
「・・・そうなのかな?」
不安そうに上目遣いで操を見る穂乃果。
その反応に少し戸惑う操と日菜子。問い詰める気ではいたものの、こんな素直に不安そうな目をするとは。これを見るとやっぱり——
操は妙にうずうずする。穂乃果の嫉妬心をくすぐってみたくなる。
「そうよ。柊木君って意外と気になる人いるみたいよ。見た目もそんなに悪くないし、頭もいいしね。穂乃果への対応見てると優しそうだし。何人かに相談されたよ」
「うぐぅ・・・そうなんだ・・・」
唇を噛む穂乃果。
「でも穂乃果さ、柊木君が女の子と仲良くしてるとすごい顔して睨むでしょ?だから諦めたって人がいたよ」
「そ、そんな睨んでないよ・・・」
「へぇ、自覚無いんだ」
それはそれで驚き。
ともあれ、
「今は穂乃果がそばにいるから皆遠慮してるけど、穂乃果がそうやって有耶無耶にしてると、誰かが近づいてきて取られるかもよ?」
「・・・」
穂乃果は返事をせず、焼きそばを口いっぱいに頬張った。




