第29話 幼馴染みと幼馴染み③
「ふーん。健太が山中をねぇ」
僕は目の前で気まずそうにアイスコーヒーを飲んでいる健太をしみじみ眺める。
「まあ・・・そうなんだよ・・・柊木なら気持ちが分かってもらえると思ったんだよね」
健太の気持ちねぇ・・・いつの間にか可愛くなった幼馴染みの事が好きになっちゃった哀れな男って事かな?そういう意味なら気持ちは分かるかもしれないけど。
「で、僕に何の相談なんだよ」
ただただ山中の事が好きだと告白したかっただけではあるまい。
健太は恥ずかしそうに目線を外しながら、
「ほら、なんだかんだでお前ら幼馴染みを超えた関係だろ?」
「幼馴染みを超えた関係って何だよ」
「キスくらいしたんだろ?」
「・・・・・・・・・してないって」
「何だ今の間」
少し先日の事を思い出してしまったが、してない事は確かだ。惜しいところだったが。
「気にしないでくれ」
手を振って誤魔化す。聞かれたからと言って答えられない話でもないんだけど。
「まあ、いいけどさ」
疑わし気な顔をしていたが、何かを察したのかひとまずは引き下がってくれたくれた健太。
「とにかく、どうしたらいいのかなって」
「どうしたらいいって何だよ」
「だから、伝えた方がいいのか悪いのか。それが分からなくてね」
健太はそう言いながら空になったアイスコーヒーをストローで吸い込む。ずずずと音だけが響く。これでも緊張してるのか?
そんな健太の悩み。気持ちを伝えた方がいいのか否か。
難しいところである。
僕が穂乃果に気持ちを伝えたのはある意味事故みたいなもので、僕の意思で伝えたわけではない。それが良かったのか悪かったのか、未だに結論は出ていない。
その上、僕は気持ちを伝える気は全く無かった。一生黙っているつもりだった。
そういう意味では不満もある。
確かにあの一件以来ただでさえ近かった穂乃果との距離がさらに近くなった。それは気持ちを伝えたのが理由というよりは『隼の心を繋ぎとめる作戦』が理由ではあるものの、心がときめいてしかたない。
そういう意味では悪い気もしない。
「健太はどうしたいんだ?山中とどうなりたいんだ?」
僕は言いながらアイスコーヒーを一口。他人事ながら喉が渇く。
「そうだなぁ」
健太は遠い目をする。
「俺さ、昔からシオの事男だと思ってたんだよ」
山中は昔は今と違って男勝りだって言ってたな。
「でもさ・・・女だって気づいたら・・・すごい・・・えーと・・・すごい可愛く思えてさ」
ふとした瞬間に気づくんだよな。いつも隣にいるのが輝いてるっての。
その辺も僕と似てるのかな。
「それに、そう気づいた時にはもう・・・俺は隣にふさわしくないんじゃないかってくらい可愛く思えてさ。だから悩んでるんだよ」
「なるほどねぇ・・・」
「恋人同士になりたい・・・のかな?このままでいたいのか・・・自分でもよくわからなくてね。でも、他の奴に取られたくない」
難しい話だな。 気づいた時には自分が取り残されているような気がするんだよな。それでいて関係性を変えるのは怖いって言うね。
「なあ柊木、お前の時はどうだった?どういう風に関係を変えてったんだ?」
深刻な顔をした健太。そうは言われても、僕としては自らの意思で変えようとしたわけではないんだが。しかも、実際に変わったかどうかも定かじゃない。僕じゃなくて穂乃果次第だし。
「僕たちは別に関係を変えようって思ったわけじゃないんだ」
どちらかというと、変わらないようにしてるといった方が近いかな。
「でも、山中との関係を変えたいって思ってるなら、伝えた方がいいと思うけどな」
僕じゃなくても言えそうなアドバイスだけど。
「やっぱりそうかなぁ・・・」
健太はそう言って天を仰いだ。そうは言ってもずっとそうやって悩んでいたんだろうに。
「でもどうやって伝えればいいんだろうな。下手な伝え方して気まずくなるのは嫌だしなぁ・・・」
「そんな事考えてるといつまでもこのままだぞ」
「そうなんだけどさ。それは分かってるんだけどさ」
とはいえ僕としても無理強いはできないしな。
「なかなか勇気が出ないんだよなぁ」
なまじ距離が近いだけに怖いんだよな。それはよく分かる。僕だって世界平和と引き換えって言われなければ伝える事は無かった訳だし——そうか。
「なあ健太」
「何だい?」
「健太に覚悟があるんなら、手を貸してやらんでもない」
「どういう事だ?」
訝しげな顔で僕を見る健太。
そう、僕が告白せざるを得なかった状況。
「世界平和と引き換えになら告白出来るか?」
三十分ほどして、穂乃果と山中が戻って来た。二人とも紙袋を持っている。中には水着が入っているのだろう。
「水着買って来たよ!」
穂乃果はそう言いながら、紙袋をみせびらかしながら飛び込むように僕の隣の席に座る。
「シオは?」
「私も穂乃果に選んでもらってね」
「着たところ見せてくれないの?」
「考えとく」
健太と山中のやりとり。そんなに悪くないと思うのだけども。
そんな風に思いながら二人を眺めていると、穂乃果が僕の服をつまんでちょんちょんとひっぱっている事に気づく。
「ねぇねぇ隼」
言いながら顔を近づけてくる。それから声を潜めて、
「二人がいい感じだと思わない?」
「悪くないとは思うけど」
「だからさ」
穂乃果が何か企んでいる。
「四人で映画見に行こうよ」
「何で?」
穂乃果はふふんと得意げに鼻を鳴らす。
「吊り橋効果って知ってる?」
知ってはいるけど。
つまりは恐怖などのドキドキを恋のドキドキと勘違いさせるアレか。
それがどうしたと言うのだろうか。
穂乃果は二人に聞こえないような小さな声で、
「ホラー映画みたら、美潮ちゃんが『きゃー』とか、高坂君が『怖いならこっち来いよ』とか、そうやって二人の距離が近づくんじゃないのかな」
相変わらず目をきらきらさせて言う。
随分単純な展開じゃないか。
「ん?二人をくっつけようってのか?」
「そうだよ!二人お似合いじゃん」
「声が大きい」
興奮した穂乃果の口を手で塞いでやりながら二人を見ると、なにやら談笑している。どうやら僕らの会話は聞かれてはいないようだが、あまり僕らが手を尽くす必要はないようにも見える。
健太は山中の事が好きだと言ってはいたが、山中の方もまんざらでもなさそうに見えるけど。
そこで穂乃果の反応だ。
この穂乃果の態度を見るかぎり、山中に何か聞いたのだろうな。それでおせっかいが顔を出したように思える。
まあ、そんなところか。
「ねえねえ美潮ちゃんと高坂君。ホラー映画見に行かない?」
得意げな穂乃果が二人を誘う。穂乃果は策に酔っているようだが、何か失念している気がするんだけど。
「ホラー映画?私はいいけど」
「俺もいいよ」
二人の返事を聞いて、テーブルの下で拳を握る穂乃果。
「隼もいいよね?いや、拒否なんて出来ないよ?」




