第28話 幼馴染みと幼馴染み②
「美潮ちゃんと高坂君って、本当にただの幼馴染み?」
水着売り場で大胆なビキニを手にしつつ、穂乃果は美潮に問いかけた。美潮はシンプルなワンピースをいくつか比べながら、穂乃果の方を見ずに答える。
「ただの幼馴染みよ。昔から、今もね」
その答えを聞いて納得いかないように眉を顰める穂乃果。
「お似合いだと思うけどなぁ。高坂君かっこいいし」
「そうかもね」
美潮は否定はしなかったが、
「でもさ、男女が一緒にいるとすぐ付き合ってるとか言われるの、どうかと思うの」
不満そうに言う。あまり良くない記憶があるのだろうか。
「穂乃果達もそうじゃないの?」
「まあ・・・そうだね」
今はもう気にもしていないが、穂乃果も隼との関係を揶揄される事は多い。
「あんた達はそれを乗り越えたんだろうけど」
「別に乗り越えてはいないけど。私たちまだそんな仲じゃないんだよ」
「その辺分かってくれないんだよね。みんな」
美潮は薄い唇に笑みを浮かべた。
「でもあんた達はいちゃいちゃしすぎ。まんざらでもないんでしょ?」
「それは・・・私たちの事はいいんだよ。美潮ちゃんはどうなの?ちょっとは意識したりする?」
慌てて誤魔化す穂乃果に美潮は目を細める。まるで妹を見るような、優しい笑み。
「無い事は無いけどね」
数々の水着を見比べながら曖昧な言い方をする。
「ほら、さっき私は男勝りだったって言ってたでしょ?健太はまだ私の事を同性の親友としか思ってないんじゃないかと思うのよ」
「同性の親友?私、隼の事をそう思った事無い」
穂乃果は隼の事は頼りになる兄と思った事はあるが、美潮と健太のような関係だと思った事はない。同じ幼馴染みとは言っても様々な関係があるのだろう。
「だから、今さら違う関係になれるとは思ってないのよね」
独り言のように呟く美潮の顔が、穂乃果には少し寂しそうに見えた。
「で、さ、美潮ちゃんはどうなの?高坂君の事をどう思ってるの?」
健太の考えやら二人の関係やらを言っているが、肝心の美潮の気持ちを聞いていない。
「だから、私がどう思っていたとしても——」
「そうじゃなくてさ。美潮ちゃんがどう思ってるか聞きたいんだ」
どうもはっきり言いたがらない美潮に穂乃果は追及する。人の色恋沙汰に目がない穂乃果。
「あー、まーねー」
思いのほか追及の手を緩めない穂乃果に、困ったように息を吐く美潮。そして何気ない言い方で、
「そりゃね、好きよ。やっぱり」
「え?」
思わず聞き逃しかけた。
「それってそういう・・・そんな意味なの?」
「まあね。多分穂乃果が思ってる通りの意味」
「やっぱり!」
穂乃果はマイクロビキニを握りしめてきらきらした目を美潮に向ける。
「やっぱりそうなんだ!二人お似合いだもん!」
「穂乃果、それ買う気?」
「これは・・・私じゃ無理!」
穂乃果は手の中を確認すると、そう断言してマイクロビキニを戻す。
「でも・・・高坂君には伝えないの?」
「伝えないよ。意味無いから」
美潮はそう言いながらフリルのついた黒いワンピースを手にする。
「さっきも言ったでしょ。健太は私の事を同性の親友だって思ってるって。だから、今さら女の子ぶれないの」
こともなげに言う美潮だが、穂乃果は納得できない。
「でもさあ、それだったらどうして水着を選んでもらおうとしたの?」
「まあ・・・暇そうだったから?」
「そんな事ないでしょ」
穂乃果は美潮の顔を覗き込む。
「女の子だって思ってもらいたかったんじゃないの?」
「まあ・・・それもあるかもね」
「水着の試着して悩殺するつもりでしょ!」
「出来ると思う?」
「美潮ちゃんスタイルいいからいけるよ!」
「じゃあ穂乃果も一緒に柊木君誘惑する?」
「えー、恥ずかしいよぉ・・・」
そんな穂乃果の反応を見た美潮。
「穂乃果は柊木君に女の子扱いされてるの?」
聞かれてばかりなのが少しばかり気に入らなくなり、攻めに転じてみる。穂乃果と隼は幼馴染み界隈では特に仲良くて有名だが、噂にあるような関係ではないのなら自分と同じ悩みを抱えているのではないかと思って訪ねてみる。
穂乃果は上に目をやって考え込むと、
「多分だけど・・・されてると思うの」
何かを思い出して恥ずかしいのか声が小さい。
「私とは違うんだ」
美潮は少し寂し気に言う。
「じゃあ穂乃果はどうなの?柊木君の事、好きなんでしょ?」
色々な人に何度も聞かれた言葉。
「うーん。そりゃあ大好きだけどさ」
穂乃果は言葉とは裏腹に眉を寄せる。
「どういう好きだか自分でもよく分かんないんだよね」
「何それ」
美潮は穂乃果の体に赤いビキニをあてながら笑う。
「傍から見てると恋してるみたいな顔だけど」
「そうなのかなぁ」
穂乃果は美潮の体にパステルカラーのワンピースをあてながら首をかしげる。
「そうよ」
そのパステルカラーのワンピースを姿見で確認しながら美潮。
「例えばさ、柊木君とキスしたいと思う?」
問われた穂乃果は赤いビキニを体にあてて渋い顔をしている。
「キス・・・?」
穂乃果は斜め上を見つめる。思い出したのは先日TVゲームをした時の事。
「そうだなぁ・・・したいかどうかはともかく、そんなに嫌じゃなかったよ」
「な、何それ?もう済ましてるの?」
穂乃果の言い様に耳を疑う美潮。
「そ、そうじゃないんだけど」
失言に気づいて赤いビキニを持った手をぶんぶん振って否定する穂乃果。やはり図星をつかれて慌てているように見える。
「それはともかく、詳しく聞かせなさいよ」
獲物を見つけた猛禽類のような目で穂乃果を捉える美潮。
「い、いいんだよ。私のは」
「そうはいかないわ。どうなの?キスしたの?してないの?どんな感じだったの?」
「だ、だから違うんだって・・・」
「私の事はいいだけ追求してきたんだから、穂乃果も白状しなさい」
美潮に両肩を掴まれて迫られる穂乃果が、相変わらずあわあわしながらしどろもどろの言い訳を始める。
美潮に本当の事が伝わったかどうか、定かではない。




