第27話 幼馴染みと幼馴染み①
「暇だから遊びに行こうよ」
週末に朝から僕の部屋に遊びに来ていた穂乃果が、ベッドでごろ寝しながらこっちを見上げてきた。
七月も近くなり、涼し気なショートパンツにTシャツ姿の穂乃果の太ももに目が奪われる。
「どうでもいいけどへそ出して寝るなよ。お腹冷やすぞ」
「見ないでよ。えっちぃ」
お腹をTシャツで隠しながらにやにやするなよ。
あのローレライによる告白事件以来、なんとなくお互いの部屋の行き来を控えていたのだが、久しぶりとは言え来てみればもう今まで通りの二人。相変わらずの無防備な穂乃果。
安心なような——不安なような。
あとで説教して——まあ、僕にだけ見せるならいいか。
「ねぇ、遊びに行こうよ」
しっかりとへそを隠した穂乃果。
その甘えるような目がダメなんだよ。僕の一番弱い顔だよそれ。
「ああ、じゃあどこ行きたいんだよ」
「特にないけどさ。お店をぶらぶらしたい」
ただただ暇つぶしたいって事ね。
僕としても特にやりたい事もないので、断る理由もない。
そんなこんなで、バスに乗って地元の海沿いのショッピングモールにやって来た。
「やっぱり休みの日は人が多いね」
家族連れやカップルなどでにぎわう中、相変わらず穂乃果は腕を組んでくる。人の目はあるが、今さら気にしても仕方ないか。
「どこに行きたいんだ?」
「どこに行こうか。ゲームでもする?」
「負けたら勝った方の言う事聞くとかじゃないよな」
「んー?やりたいの?」
「いや、やめろって」
挑戦的に上目遣いで見る穂乃果から目を逸らす。あの時の光景を思い出したのは僕だけか?
「ふーん。私はいいんだけどねー」
どこか余裕そうな穂乃果が憎たらしい。
挑戦的だな。そう言うなら次は容赦しないからな。その時になってあわあわしたって知らないからな。
心の中では強気でいながら、穂乃果を睨みつける。まあ、その時になったらビビッて大汗をかく事になるんだろうけど。
そんな時が待ち遠しいようなそうでもないような、複雑な感情を抱えたままショッピングモールを歩く。可愛らしい洋品店を覗いたり、雑貨屋でアクセサリーを物色したりして時間を潰す。そんな何気ない時間が楽しかったりする。
そうしてある店を通り過ぎようとしたとき、ふと思い出す。
「そう言えば、夏休みに新内達と海に行くんだろ?」
「うん!今から楽しみでね」
いつだったかちらっと言っていた。新内達女子だけで海水浴に行くとか。僕としては心配ではあるが、新内達がいるのなら心配はいらないだろう。女子達だけのお出かけについて行くほど非常識ではないし。
「水着とか買わないのか?選んでやろうか?」
そう、水着を売っている一画に通りかかったのだった。
「えー。えっちだな隼は」
そういうつもりじゃない。
「男の子に見せるの恥ずかしいじゃん」
何言ってんだ。去年だってその前だって、一緒にプールだの海だの行っただろうに。今さら恥ずかしいって。現に去年は一緒に買いにいったろ。
そんなやりとりしていると、
「あれ?」
穂乃果が声をあげて水着売り場を見る。
そんなに広くない水着売り場には水着を選んでいる女の子が何人かいるが、その中に見知った顔を見つける。
「あ!美潮ちゃーん!」
穂乃果が手を振りながら駆けて行く。気づいて手を上げる山中美潮に飛びついた。
艶のある黒髪を腰まで伸ばした、落ち着いた大人っぽい雰囲気を醸し出している。黙っていれば女子大生でも通りそう。一緒にいると穂乃果の子供っぽさが際立つ。
「美潮ちゃん!何してるの?」
「何って、水着買いに来ただけだけど。穂乃果はデート?」
「そうだよ!」
デートでいいんだ。
僕は売り場の入り口付近から手を上げて挨拶する。さすがに女性用水着コーナーに堂々と入る勇気はない。
「美潮ちゃんは一人?」
「一人、じゃないけど・・・」
山中は少し言いにくそうにしながら、こちらを——入り口付近を見ている。
こっちに何かあるのか?
「あれ?」
ふいに声がして、そちらに目をやる。
「あれ?」
僕も声を上げる。
そこにいたのは、同じクラスの高坂健太。二年生に進学してから知り合った友人である。
「柊木か。何してるんだ?」
サッカー部のエースである高坂。なかなかモテると聞いた事はあるが。
「何って、そりゃあ——」
山中に抱き着いている穂乃果に目をやる。
「ああ、デートか」
他人から見てもデートなんだ。
「健太は何してんだ?」
女性用水着売り場に何の用だ?
「俺は、まあ・・・」
健介がちらりと見たのは山中。山中は何だか複雑な顔をしている。
「お前らもデートなのか?」
山中と健介が?学校ではそんな気配も見せてなかったのに。
「お前らそんな関係なのか?」
「いや、違う。そうじゃない」
その否定の仕方が怪しい。穂乃果が否定する時くらい怪しい。
「違うわよ。私たちは」
山中が口を挟んでくる。
「えー、美潮ちゃんと高坂君って付き合ってるの?」
目を輝かせるな穂乃果。
「だから違うんだって」
山中が呆れたように穂乃果を撫でる。
そうは言っても、同級生の男女が一緒に出掛けていれば、そう思われても不思議ではない。僕らも他人の事は言えないが。
「私たちね、幼馴染みなの」
山中はそう言って健太に目配せをして、健太は頷いた。
ショッピングモールのカフェ。僕ら四人は席についていた。
「へー二人がねー。知らなかった」
僕の隣で目を丸くする穂乃果。対面の山中と健太を交互に眺めている。
「学校ではあまり触れないようにしてたからね。あなた達とは違って」
「お前らはあからさますぎだよ」
「悪かったな」
いまさらやめても遅いからな。
「幼稚園の頃から?ずっと一緒でね」
「シオは男みたいだったからな。ガキ大将だったし」
「シオって呼んでるんだ・・・特別感あるね」
いちいち目を輝かせるなよ穂乃果。子供じゃないんだから。
「だから、同性の親友みたいな感じだな。昔から」
健太はそう言って山中を見る。
「本当?美潮ちゃんこんなに可愛いのに」
「まあ、多少は可愛くなったかもしれないけどな」
「多少なんだ。健太は昔からそうよね」
そういう山中の目が何かを訴えているよう。
幼馴染み同士の目線のやりとりは独特なものがある。友人とも恋人とも違う。
ともあれ山中は穂乃果に顔を近づけて、
「穂乃果、こんな男たちは放っておいて、水着を選びっこしようか。可愛いの選んであげるよ」
「え?俺が選ぶんじゃないの?」
健太がぽかんとする。
「そう思ったけど、穂乃果がいるなら穂乃果の方がいいや」
「そっか・・・」
肩を落とす健太。と言うか、水着選びに付き合わされるなら、かなり信頼されている印じゃないのか?結局見放されたみたいだけど。
こうして水着選びを許されなかった男二人を残し、穂乃果と山中は連れ立って行ってしまった。さっきの水着売り場だろう。
取り残された二人。健太は山中の後ろ姿を見送っている。
「あのさあ、柊木」
山中と穂乃果の姿が見えなくなった頃を見計らって、健太が声を潜めて真剣な目をした。
「ちょっと相談があるんだけど」
「僕でいいのか?」
「柊木がいいんだ。境遇が似てるからな」
境遇ねえ。異性の幼馴染みがいるっていう境遇かな。まさか健介と山中がそんな関係だとは思いもしなかったけど。
「あのさあ」
相談したいと言うのに関わらず、言いにくそう。
「俺さ」
健太の目は真剣そのもの。
「シオの事が好きなんだ」




