第25話 幼馴染みの誘惑
「今日呼んだのはこれだよ」
さっきのスエットに着替えた穂乃果が指さしたのは、小さなテレビ。そこに二世代前のゲーム機がつながっている。ベッドに腰掛けると、丁度真正面に対面できる位置にある。
「ゲームか?」
近くに落ちている懐かしいゲームソフトのパッケージを見つける。数年前に流行った格闘ゲーム。
これがどうしたってんだ?
「自主練に付き合ってもらおうと思って!」
自主練?格闘ゲームが?よく分からない。
「これでローレライの操縦の練習してるんだよ!」
ああそうか。そう言えばそんな事言ってたな。それが練習になっているかどうかは別にして。
ただ、穂乃果が自主練をするようになってから動きは確かに変わったので、効果が無いわけでもないようだ。
「一人でやってたんじゃないのか?」
「そうなんだけどねー」
穂乃果は言いながら、テレビとゲームの電源を入れる。
「一人だとどうしても限界があってね。コンピューター相手だと単調になっちゃうし」
「僕相手でも変わらないと思うけどな。それに、僕は穂乃果に負けないはずだ」
穂乃果の行動パターンは覚えている。そこから進化していなければ、勝つ事は難しくないだろう。
「そんな事無い!隼だって久しぶりでしょ?私は練習してるんだから負けないよ!」
おやおや。随分な自信で。
そんな自信満々な穂乃果は僕にコントローラーを渡し、隣に腰掛ける。
シャワーを浴びたばかりで体温が高く、シャンプーの匂いが湯気と共に漂って来る。この匂いと温かい空気感に、僕が負ける要因があるかもしれない。
・・・まさかそれを狙ってシャワーを?だとしたら狡猾。
「そうか。ローレライの操縦も少しうまくなってたからな。強くなってるかもな」
「うん。そうなんだけど」
息が詰まるような空気を纏わせた穂乃果は、少し不安そうな顔をした。
「それに、私より姫ちゃんの方がうまかったからね。ちょっと悔しくて」
確かに新内は操縦がうまかったな。それに危機感を抱いたのか。
「隼の隣は私の場所なのに、姫ちゃんに取られちゃう」
そんな不安感じてたのか。可愛いヤツめ。
だったら真剣に向き合ってやるか。受けて立つ。
そういって真剣に向き合ったものの、はっきり言って結果は僕の全戦全勝。
ゴツい打撃タイプのキャラクターを選んだ穂乃果は、ただただ突っ込んできて無茶苦茶に攻撃を与えてくる。
身軽なくノ一キャラを選んだ僕は、じっくりとガードしつつ、連打攻撃に疲れた穂乃果のスキをついてのカウンター攻撃、からのコンボ攻撃であっと言う間に勝利を引き寄せる。
「んー!んー!んー!」
テレビ画面に映る『K.O』の文字に、拳を振り回して悔しがる穂乃果。その様子が小学生の頃と何も変わっていなくて、懐かしい気分になる。
「もう一回!もう一回やるよ!」
「もう一回って、もう何回目だよ」
苦笑い。
穂乃果は負けず嫌いなので、もう一回が中々終わらない。
「ふん!私には奥の手があるもんね」
自信ありげに僕を見る。
「じゃあ見せてみろよ」
何があっても負ける気はしないな。
「目にもの見せてやるんだから!」
負けフラグみたいな事を言って、対戦開始。その開始早々、
「・・・実はブラ着けてなくて」
ぽつりと呟く。
思わず動揺。
その隙を突かれ、連続攻撃を浴びる。
「ずるいぞ!そんなの使うのかよ!」
気を取り直してガードしながら、穂乃果に抗議する。
「へへーん。勝てればいいんだもんね!」
得意げな穂乃果。まさかそんな攻撃をしてくるとは思いもしなかったぞ。
とは言え、動揺が一瞬だけだったので大事には至らない。ライフが半分程にはなってしまったが、今まで通りだったら巻き返しは可能だ。
穂乃果の連続攻撃に対し、ガードで耐える。
すると、
「ねえ、隼・・・ちょっと寒くない?」
妙に艶っぽい言葉を発し、じりじり近づいてきて体をぴったりと寄せてくる。 穂乃果の体温が高い。温かいと言うより熱い。
再び動揺。
当然のように僕の隙が大解放。
「今だー!」
その隙を見逃さない穂乃果の連続攻撃。
「卑怯者めー!」
我に返って急いでガードを固める。
危ない・・・もう残りライフが四分の一くらい。とは言えさっきも言ったように、何事も無ければ巻き返しは可能。何事も無ければ。
「ちぃ!もうちょっとだったのに!」
穂乃果は相変わらず飽きもせずボタンを連打しながら悔しがる。
・・・随分卑怯な手を使うようになったじゃないか。穂乃果が自分の『女』を利用するようになるとは思いもしなかったぞ。確実に僕の弱みをついた、見事な作戦ではあったけども。
「これ、ローレライの操縦の練習じゃないのかよ。僕にゲームで勝つのが目的になってないか?」
「いいの!これでも練習になるんだから!」
そんな訳あるか。僕の心に攻撃して戦いを優位に進めただけで、技術は何も進歩していない。
ローレライと対戦するADMが僕と同じように穂乃果に恋心を抱いているか女好きでなければ、使い物にならない作戦だろう。
その証拠に圧倒的な反撃によりあっさりと穂乃果を撃破する。
「うーん・・・もうちょっとだったんだけどな」
なんて事を言いつつ、笑う穂乃果。
小癪な。なりふり構わず勝ちに来てやがる。
「じゃあさ」
穂乃果は次の一手を放つ。
「罰ゲーム設定しようよ」
「罰ゲーム?」
「次負けたら、勝った方の言う事聞くってどう?」
「言うことを?何でも?」
「何でも」
なぜ新しいおもちゃを前にした子供のように目をキラキラさせるのか。
何でも言う事聞くとか。少なからぬ下心を持つ思春期男子にとっては、様々な想像力を掻き立てる刺激的な言葉だ。
穂乃果としたら、ただただ何かを賭けて気持ちを昂らせようっていう意図があるのだろう。穂乃果と何かしらの対戦をしているとそう言ってくる事も多い。
ただ受け取る側はそう受け取るとは限らない。それは僕も例外ではない。
今日僕を誘った時からの様々な言動、男心をくすぐるような行動の数々。そして今の言葉。僕としては黙って見過ごしているわけにはいかない。
注意を促して、その言動がいかに危険を呼ぶか、いかに穂乃果が僕を含めた『男』の理性を過小評価しているか、しっかりと教えてやらなければならない。
それが、僕の役割であろう。
僕は穂乃果の提案に乗る事にする。
「ああいいよ。『何でも』って言ったよな」
言質を悪用するヤツはそこを強調するぞ。
「もちろん何でも。隼にも言う事聞いてもらうからね!」
「勝ってから言えよ」
穂乃果の挑戦、受けて立つ。




