第22話 幼馴染みのコクハク
『あなたは誰ですか?』
こっちの騒ぎをよそに、新内の目の前に浮かぶデバイスからハルの声がする。
「そっちこそ誰よ!急に何したのよ!」
そりゃあそう。連れて来れられたのは新内の方。
『私は異次元機動人型兵器ローレライのサポートAIであるハルピュリア・システムと言います。ハルとお呼び下さい』
「そのハルさんが何の用!?」
『まずはあなたのお名前を』
「わ、私は新内姫花よ!」
『はい。では新内姫花サン。サブパイロットに登録しました』
「か、勝手に何を登録してるのよ!」
『ご心配なく。和泉穂乃果サンと同様の立場です』
有無を言わせず話を進めるハル。どう心配なくなのか。いや、新内も登録されたってどういう事だ?
いや、それより、こっちの状況をどうにかしてくれ。
「キツイよ・・・隼、離れてよ・・・」
「これ以上後ろには行けない・・もうちょっと前に行けないか?」
「行けないよ・・・上にも」
「ちょっ・・・あんまり動くな」
結局身動きがとれない。穂乃果の感触やら温もりやら匂いやらが至近距離に感じられて、頭がおかしくないそう。
『不思議な状況になりましたね。おそらくはデバイスを手にしている人を単純に転送したのでしょう。柊木隼サンと和泉穂乃果サンが触れ合っていたので、ローレライは一人と判断したのかもしれません』
僕の目の前——正確に言うと穂乃果の前——にあるデバイスからハルの声。新内の目の前で状況を説明しているハルとは別人格?なのか、別に発言している。
「よく分からないけど、どうにか出来ないのか?」
はっきり言って天国のような地獄。針の筵のように煩悩に攻撃されている気分。この状態で僕の肉体が反応したらとんでもない事になる。
『出来ませんね。今外に離脱するのは危険です』
無常なハルの言葉。それを表すかのように、目の前にADMが現れる。
「そうなの。アイツを倒すために照準を合わせればいいのね?」
向こうでデバイスと会話をし、何かを理解した様子の新内。
穂乃果の代わりに照準を担当するって事か。だったらどうにか協力して早いところ事を終わらせて解放されよう。そうでないと、僕の心と体が保たない。
「さっさと終わらせるぞ!新内!」
「あうぅ。ちょ、ちょっと耳元で声出さないでよ!」
「そこ!いちゃいちゃしないの!」
「いいから!もう畳み込むぞ!」
こうしてローレライとADM、そして僕と煩悩との戦いが始まった。
昼間の中央公園にはいろいろな人が行き交っている。犬の散歩をしている人やら、遊具で遊ぶ子供やら、井戸端会議をする奥様方やら。
そんな人たちとは違う次元で戦う僕らは、彼らの姿を確認は出来ながらも、接触する事も影響を与える事もなく行動する事が出来た。
子供を踏みそうになった時は肝を冷やしたが、ローレライの足が子供をすり抜けた事で胸を撫で下ろした。
それはともかくとして。
はっきり言って新内の活躍ぶりは目を見張るものがあった。
僕の動きを先読みして照準を合わせ、攻撃を打ち込んだ次の瞬間には次の行動に移っている。その上僕が攻撃をミスすると、それをフォローするように障壁を張ったり、火器を使用する。
まさに痒いところに手が届くサポートぶり。
『新内姫花サン、素晴らしい動きです。どこかでローレライに乗っておられましたか?』
「あら、そう?初めてなんだけどな」
どこか気分がよさそうな新内。
「本当にそうだよ。僕としても戦いやすいし、これだったら早く終わりそうだ」
どんどん汗の匂いが濃くなり、体温が高くなる穂乃果に心がやられそう。僕の体内は沸騰寸前なので、どうにか早く終わらせたい。
「むう・・・」
そんな穂乃果は何故だか不満そう。いや、不満でもお尻をぐりぐりしないで。
「ふふん。こういうの昔から得意だったんだよね。反射神経も自信あるしね」
新内が陸上部というのも理由の一つか。行動を先回りする頭の良さもある。そう言えば、新内はギャルでありながら学校の成績も上位だ。
そんな新内の活躍もあり、ADMは生体反応を停止する。
あとはマーメイド・エフェクトだが、
「新内、耳を塞いでいてもらえないか?」
銃に変化したデバイスを穂乃果の右脇を通した右手で掴みながら言う。何か変な感じ。
「何でよ!」
「何でも」
「嫌」
「お願いだから」
「だから何でよ」
聞き入れてくれいない新内。僕の告白を聞いてほしくないだけなのだが。でもそう言うと聞きたがるだろうし。
そこでハルが助け舟を出してくれる。
『新内姫花サン。柊木隼サンはこれから愛する人への愛のコクハクをするのです。おそらく恥ずかしいと思われるので、耳を塞いでもらいたいのでしょう』
「じゃあ、絶対に聞く!」
助け舟でも何でもない。ただただ新内の好奇心を刺激しただけだった。
『説得は失敗してしまいました。柊木隼サン』
本当に説得する気があったのか?
そうなると新内が耳を塞ぐという可能性は無くなった。
だったらもう、誰にも気づかれないくらい素早くさりげなく終わらせるか。
僕は銃に手をかけ、
「ほ、ほのすき」
いろいろ端折って引き金を引く。
カチカチ。
無反応。何の手応えも、何の光も発生しない。
・・・
『柊木隼サン』
沈黙したコックピット内に響く、無感情な電子音声。
『今のは何でしょうか?』
確認すると言うよりは、責めるような口ぶり。ハルは時折感情が見え隠れする。
『柊木隼サンにとって、コクハクとはその程度のものなのでしょうか』
「隼・・・今のはダメだと思う。なんか使い捨てみたいに適当に」
相変わらず体は熱いが、悲しそうな穂乃果の声。真っ直ぐに言ったら照れるくせに。
「柊木君。よく分かんないけど、私もダメだと思うな。何か」
新内にもそう言われてしまう。さりげなく気づかれずに告白を済ますという僕の作戦は失敗に終わったようだ。そもそも僕が穂乃果と付き合っているのなら、誰に愛の告白をするのかわかりそうなもんだけど。
ともあれ仕方ない。
僕は左手を穂乃果のお腹にそっと回す。穂乃果が体を一瞬びくっとさせた。
それから改めて右手で銃を手にし、穂乃果の髪の毛の下の右耳に口を寄せる。
信じられないくらい甘く爽やかな穂乃果の匂いに鼻腔をくすぐられながら、耳元で囁く。
「穂乃果・・・やっぱり好きだ」
「うぅぅぅ・・・」
そう言って引き金を引くと、柔らかなオレンジ色の光がADMを包み込み、程なくしてADMの姿は溶けるように消え失せる。
子供達がはしゃぐ声の響く、中央公園。
「あわわわわわ」
次に響くのは穂乃果の声。
僕の目の前の耳が真っ赤に染まっている。
「わ・・・私は何を見せられているの?」
何で新内まで赤くなるんだよ。




