第14話 幼馴染みの誕生日①
穂乃果が僕より一足先に十七歳になる日。
朝七時。僕は人もまばらな駅前にて穂乃果を待っている。
隣の家なんだから一緒に行けばいいだろと言ったのだが、それじゃあ情緒が無いというよく分からない理由で駅での待ち合わせとなった。
そんなまるでデートのようなシチュエーションに憧れるって事かな。僕としても心は踊るけれども。
まあそんな感じで穂乃果を待っている。
何か楽しみだ。
穂乃果が身だしなみを気を付けるようになってから初めての遠出だし、誕生日だし、こうやって待ち合わせというシチュエーションだし、どんな格好をしてくるか楽しみで仕方ない。
今までとは違うミニスカートで来るのか、雰囲気の違う清楚なワンピースで来るのか、ちょっと大人っぽい落ち着いた感じで来るのか。予想するのが楽しい。
でもどんな格好で来ても『可愛い』とか『似合ってるよ』は欠かさないようにしないと。今まで言った事は無かったが、僕の気持ちが穂乃果に知られているって事は、そんな本音を言ってもいいって事だよね。
まだ駅前について五分程しかたっていないながらも胸の高鳴りが止まらないまま、穂乃果を待つ。
まだかな〜穂乃果は。
と、
「だーれだ」
背後から目と塞がれる。
まるで付き合いたての恋人達が照れ隠しにふざけるような行動をとるのは誰か。
誰だも何も、一人しかいない。
「うちの幼馴染みだろ?」
「ちょっと!ノってくれてもいいじゃん!」
「そうは言っても。この状態で他に誰がいるんだよ。いいから目隠しするのはやめてくれ」
「むー。せっかく女の子とデートなのに、そんな野暮な事言ってるとモテないよ?」
ああデートでいいんだ。
じゃあ仕方ない。
「ったく・・・あー、誰かなー」
「ふふふ・・・誰でしょう?」
「この声・・・この手の感じ・・・知ってる気がするんだけどなー」
「でしょでしょ?当てて?」
「うーん、そうだな・・・」
「へへへ」
「あー!分かった、穂乃果だ!」
「せーかーい!」
言ってようやく僕の前に姿を現す穂乃果。
僕はそんな穂乃果の姿を見て言葉を——失わなかった。
なぜなら、普段着中の普段着であるジーンズにパーカーという、色気も何もない、動きやすさを最優先にした服装だったからだ。出かけるときは大抵この格好だ。
いや、それでも可愛いけども。
「何がっかりしてるのよ」
不満そうに僕を睨む穂乃果。僕の気持ちが表情に表れていたらしい。
「いや・・・正直がっかり」
もっとドキドキワクワクさせてくれると思ったのに。考えてみると贅沢な話だけど。
「全力で遊ぶための格好だよ」
確かにスカートとかだと思い切り楽しめるないかもだけど。
「今日の服似合ってるよ、とか言う準備してたのに」
「言ってもいいよ?ほら」
穂乃果はそう言ってその場でくるりと回る。
見れば見るほど、いつもの穂乃果。
「いつも通り可愛いけどさ」
「う・・・だからってそんなに真っ直ぐに言わないでよ」
ふざけたり怒ったり照れたり、朝から忙しいな穂乃果は。
「今日は全部回るからね!」
電車に乗るなり宣言される。当然ながら敷島フェアリーランドの話だ。
窓の外は見覚えのある海岸線を抜け、町並みに移りつつある。それから再び出た海岸線を真っ直ぐ進めば、じきにフェアリーランドが見えて来る。まだ二時間ほど電車に揺られなければならないが。
「全部って、どれだけアトラクションあると思ってるんだよ」
数えた事はないが、十や二十じゃきかない。まるで一つの町のような敷地内に、一日じゃ回り切れないとも言われる程のアトラクション。それを全部回るのは難しくないか?
「それくらい楽しみたいって事だよ!」
穂乃果の満面の笑み。
それだけ楽しみにしてくれてたって事か。だとすると誘った甲斐のあるものだ。
それにしても距離が近いんだけど。電車内は混んでもいないのに、ぴったり密着して腕を絡めてくるんだけど。『隼の心を繋ぎ止めておく作戦』って恐ろしいな。
「でも、効率的に回る順番とかを考えて来たよ。待ち時間を加味しなければ——」
そんな事を言いつつ、僕にスマホ画面を見せる穂乃果。そのせいで余計に距離が近くなる。
うん。温かいし、いい匂い。朝シャワーを浴びて来たのかな?甘い匂いと、柑橘系の爽やかな匂い。僕の理性を刺激するには充分すぎる攻撃。
いやしかし、こうして男といる時にこんな無防備で思わせぶりな行動を取る事はあまり褒められたものではない。男を勘違いさせて変な所に連れ込まれる危険性も無くは無い。
穂乃果のこう言うところも注意してやらなければ。危険な目にあう前に。
とは言え今日は小言はいいか。誕生日だしな。
「そんな事考えて来たんだ。勉強もそれくらい出来ればいいんだけどな」
「それは無理だよ・・・数字とか見ると頭痛くなるもん」
「それでよく高校受かったよな。中学の成績から考えると奇跡だよ」
「へへ・・・隼のおかげだね。隼が毎日勉強教えてくれたから」
勉強という名目で好きな子の部屋に入り浸れたのだから、僕にとっても悪い話ではなかった。実際大変だったが。
「でもまだ終わったわけじゃないからな。この先大学行くとか——」
「ん、もう。今日は勉強の話はいいの!誕生日にも勉強の話は聞きたくないよ!」
「いつだって聞きたくないくせに」
「今日は私がお姉ちゃんなんだからね?お姉ちゃんが嫌がる事言うのは禁止ね!」
「なんだよそれ。ほんの数ヶ月だろ」
「ほんの数ヶ月でも、隼のお姉ちゃんになる貴重な時間なんだから!今日は全身全霊でお姉ちゃんをもてなすのが弟の役目なんだからね?」
いつもは妹と言う立場の穂乃果がお姉ちゃんになる短い期間。その短い期間でも優位に立ちたいらしい。
仕方ない。実際穂乃果の誕生日だし、お姉ちゃんには心の底から楽しんでもらおうか。




