第13話 幼馴染みっを祝いたい
翌日の昼休み。最近密かに楽しみにしている。
「ごめん。今日寝坊しちゃって」
そう言って前の席についた穂乃果は弁当箱を僕に差し出す。
最近ではすっかり周囲の目も気にならなくなった。
「ああ、僕も寝坊気味だったな」
昨日もいろいろあったし。
「だからちょっと手抜きしちゃった」
穂乃果は舌を出しつつ、弁当箱を開ける。おにぎりが二個と、タコさんウィンナーがびっしり。
手抜きと言うか何と言うか——寝坊したと言いつつ手作り弁当を作ってくれた事に感謝すべきだろう。感動すらすべきだ。
いつもなら穂乃果の将来の事を思って小言の一つでも言うべきかもしれないが、その努力は認めるべきだし——いや、何か泣きそう。
そうして僕が感動に打ち震えていると、穂乃果がもう一つ弁当箱を取り出す。フタを開けると、彩豊かでバランスの良さそうな、まるで売り物のような弁当。僕の目の前にある弁当とは何もかもが違う。
「こっちはママが作ったの。隼のは私が作るって言ったから」
なんと。穂乃果は自分のはともかく、僕の弁当は自ら作りたかったと。それは感動で咽び泣くほど嬉しい。
確かに志穂さんの料理は美味しいし、弁当も見るからに美味しそうだが、こっちには穂乃果が作ったという最高の調味料が使われている。
志穂さんには悪いが、穂乃果弁当の圧勝だな。
「おにぎりは穂乃果が握ったんだろ?」
「そうだよ。綺麗な形にならなかったけど」
「三角と丸の間くらいだね」
形なんか関係ない。
ひとつ掴み上げて、一口。
う・・・うまい。
おそらく塩と間違えて砂糖が大量にまぶされているようだが、舌が溶けそうなくらいうまい。中の梅干しとのコンビネーションが新感覚で、身震いするくらいうまい。
「どう?」
不安そうな目で僕を見る穂乃果。不安そうでありながら、志穂さん弁当を口に運んでいる。
「・・・美味しいよ。こんなに美味しいおにぎり食べたのは初めてだ」
「そう?本当?」
穂乃果の顔がぱっと華やぐ。美味しいって言ってほしいって言ってたもんな。でも、そんな眩しい顔されたら、そんな顔が見たくてこれから厳しい事言えなくなるじゃないか。
いや、ダメだ。穂乃果は甘やかすと調子に乗るからな。甘やかすのは今日だけだ。
僕はそう決心し、甘すぎるおにぎりと塩辛いタコさんウィンナーを完食した。
そんな僕を穂乃果は満面の笑顔で見届けながら志穂さん弁当を食べ進める。
決心が揺らぐような笑顔。
迷いを打ち消さないと。油断してると穂乃果を甘やかせたくて、その見惚れるような笑顔が見たくて仕方がなくなってしまう。
頭を振って気持ちを切り替える。
「そう言えばさ、もうすぐ誕生日だよな」
口の中の甘さをお茶で流し込んで、僕は切り出す。
「覚えてたんだ」
「当然だろ。毎年祝ってるんだから」
「へへ。そうだね。今年のプレゼントは何かな?」
毎年おなじみのイベント。五月の第二週は穂乃果の誕生日だ。毎年誕生日プレゼントを渡すくらいではあるが、欠かした事はない。
「去年は何だっけ?」
「ほら、小さいウサギのぬいぐるみ。ずっとカバンにつけてるでしょ」
ああそうか。確かあれクレーンゲームで獲ったんじゃなかったっけ。それだけの物をまだ大事にしてくれているんだな。
「じゃあ、今年は——」
言葉に詰まる。
そんな事を考えていて、昨夜は眠れなかった。今年は今までとは違う。
その理由は、今年に関しては僕の気持ちが穂乃果に知られている事。そんな状況なのに去年のようにおまけのような物をプレゼントするの僕の気が済まない。別に穂乃果の気を引こうって気はないが、多少は僕の気持ちに見合った物をプレゼントしたい。
とは言え、指輪やらネックレスやら、アクセサリーの類は重い。戸惑わせてしまうかもしれないし、受け取る事を躊躇されてしまいそうだ。
重くもなく、気が利いていて、僕の気持ちも少し乗せる。丁度いいプレゼントがなかなか見つからない。
「悩んでるんだよなー」
て、何で本人に言ってんだよ。
まあ、サプライズを気取るつもりもないから、本人に何が欲しいか聞くのも手か。
「えー、じゃあさ」
穂乃果は弁当を食べ進めながら言ってくる。まるで前から決まっていたかのような口ぶり。
「敷島フェアリーランドに行きたいな」
話題の遊園地の名前を出す。
最寄りの駅から電車で二時間程かかる、この地域では有数の遊園地だ。海を埋め立てた広大な敷地に、一日では遊びきれないほどのアトラクションが設置されている。
確か以前穂乃果と——と言うよりは柊木家と和泉家合同で行った事がある。小学生高学年の頃だったか。
「フェアリーランドねぇ」
あまり気乗りしない。
「あそこ人が沢山いるだろ。人混みは嫌いなんだよな」
オープンから何十年も経っているのに、毎年のように新しいアトラクションであったりイベントであったり、絶えず工夫されているからか、客足は途切れる事がない。
そんな所にわざわざ突撃する気にはならない。
「それに、穂乃果の誕生日は土曜日だろ。当日はなおさら人多くなるんじゃないのか?」
「えー。いいじゃん。人がいっぱいいた方が異世界感出るし」
「それはよく分からないけど・・・人がいっぱいいたら並ぶし、待ち時間も多くならないか?チケットだって安くないんだぞ」
「それを込みでの思い出でしょ。そういう雰囲気を味わいに行くんだよ。ああいうところは。そこにお金を払うんだよ」
穂乃果の言う事がいまいちよく分からない。
「ねぇー、いいでしょ?誕生日なんだから、私の行きたい所に連れて行ってよ」
両手を合わせて僕を見てくる。いつの間にか穂乃果側からおねだりされている。
悪い気はしない。
ふむ。敷島フェアリーランドの一日フリーパスは——二人分、小遣いとお年玉の残りでどうにかなるか。いつものプレゼントよりは値が張るが、僕の気持ちに見合っているかどうか考えると、妥当な線かも。
それに、重いだ軽いだ悩んでいるくらいなら、本人が行きたい所に連れて行くのが最適解かもしれない。
人混みが嫌で行きたくないってのは僕の理由だしな。
「じゃあ分かったよ。今年のプレゼントはそれにしよう」
「本当?やったっ」
穂乃果の眩しい笑顔。さっき弁当が美味しいって言った時と同じような、胸の奥がキュっとなるような笑顔。
「じゃあ今週末——誕生日当日でいいのか? 土曜日にするか」
「うん!もちろん!あぁ〜何乗ろうかなぁ」
早速思いを馳せている様子の穂乃果。そんな子供みたいに目を細める様子に、人混みが嫌だったはずの僕も楽しみになってくる。
でもよく考えてみれば誕生日当日という特別な日にお出かけの約束なんて、誰でも出来る事じゃない。
まあ幼馴染みの特権て奴かな。いつかその特権を失う時がいつか来るのだろうか。出来るだけそれを先延ばししたい、と言うのが今の願いだ。




