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その後の神殿〜マリアver.8〜

「そうですか、牧場のある村なら牛さんのミルクも沢山取れるのでしょうね。クリームは牛さんのミルクからできているのですもの」


 ファティマ様がセシルの気をそらせるみたいに言った。


「えっ、そうなんですか⁉︎」


 セシルはまんまとファティマ様の術中にハマった。


「ええ、そうなんですよ。私はコロネは先輩の差し入れで1度だけ食したことがございますが、大層美味でございました。セシルは、どんなクリームがお好きなの?」


「えっと、いっぱいあるけど、白いのと、きいろっぽいのと、ピンクいの。いっこだけ選べないから、おにいちゃんとはんぶんこしてぜんぶ食べました!」


「あらあらうふふ、セシルったら意外と欲張りさんなのね。

 私はカスタードが好みです。セシルの言った黄色いのが多分、それでしょうね」


 そっかぁファティマ様はカスタード派かぁ……。実家に言って送ってもらおうかな? ガストン商会、お姉ちゃんが始めたスイーツ部門もいいセンいってるって言ってたし。でもカスタードって卵使ってるからアシが早いんだよねぇ……。

 に、しても、ファティマ様の巧みな話術凄い。泣いちゃうかと思ったセシル、もう笑ってるし。


「でも、みどりのはにがいから好きくないです」


「……緑?」「みどり……?」


 ファティマ様とわたし、ほぼ同時に同じこと言った。ハッピーアイスクリーム! ……ってコレ、ガストン領限定? むしろ方言?? 同じこと同時に言ったらハッピーアイスクリーム! って叫ぶと、早かった人が言い負けた人にミセス・ガストンでアイスクリームおごってもらえるよーって、アレ。ここぞとばかりにダブルでお願いします、とか。……え、ウチの領だけ???


「緑って、まさか薬膳アイスクリーム……なんてことはないですわよね」


 お願いファティマ様、薬膳から離れて。わたしはファティマ様の先輩リズさんオススメのあたしブレンドとかいう薬膳ハーブティーのクソマズ……じゃなくてえっと、うんこおいしくなさを思い出してクラクラした。


「やくぜん?」


「薬草……お薬の草を使った体に優しいお料理のことですよ」


 ファティマ様の注釈が入った。体に優しい、体に優しいかぁ……。


「草、ってゆうか、お茶だって、母さん……っと、おかあさまがゆってました。オトナになったらおいしさがわかるよって。父さ……おとうさまは、みどりのクリームのコロネならたべます。コウコクの、おひめさま? が、むかし来て、お気に入りだった? って……」

「セシルその話詳しく!」


 わたしはくわっと目を見開いて秘蔵のメモ帳を広げた。


「皇国のお姫様って、先代国王の側妃様のこと⁉︎ 緑のお茶って、皇国のグリーンティー⁉︎ セシルの村って実はものっそ凄い観光地だったりとかする⁉︎」


 グリーンティーは普通のお茶ーーわたし達が「お茶」で思い浮かべる紅茶と違って、薄い緑色をしている。システィーナ王国では育ちづらくて、ほぼ100パー皇国からの輸入。ってか市場にあまり出回ってない。当然、高級品だ。

 でもわたしはあんまり好みじゃないかな……うん、紅茶感覚でミルクとかお砂糖とか入れたら合わないのなんのって。一時期パパが手を出そうとしてたけど、やっぱシスティーナ王国ではイマイチな評判ですぐ手を引いた。損切り大事。


「カンコーチ?」


 セシルはきょとん、と、してるだけ。わたしは勢い込んで、


「何かホラ、有名な建築物とか遊園地とか薔薇園とかあったりする⁉︎ 特色ある特産品とか伝統工芸とか⁉︎」


「けんち? ゆーえん?? バラバラ死体??? デンドーコーギー????」


「マリア様、完全に商人のお顔になってらしてよ?」


 あらあらまぁまぁ、と、ファティマ様に苦笑されたけど、コレ食いつかないわきゃないっしょ⁉︎


「でもでもファティマ様、コレ凄い情報ですよ⁉︎ 皇国のお姫様御用達のグリーンティークリームのコロネとか! ……あのグリーンティーがどうやったらクリームになるかちょっと意味わかんないですけど、宣伝効果はバッチリじゃないですか! あ、当然タダでパクらせてもらったりとかはないですよ、ガストン商会はアコギな商売はしません! マージンとかはちゃんと契約書出して支払いますし⁉︎」


「マリア様、少し落ち着きましょうね。

 セシル、あなたの村は地図にも載らないような小さな貧しい村だと神殿長はおっしゃっていました。けれどその割には庶民の方々の生活は豊かなように思えます。もし神殿長のおっしゃるような村でしたら、年に1度のお誕生日とて、庶民の方がクリーム入りのコロネなど食することはおろか、一生目にすることもないでしょう」


「そう言えば確かに!」


 わたしは、ファティマ様の鋭い指摘に首がもげるほど頷いた。


「有名な、とまでは言わぬまでも、知る人ぞ知る秘境のような場所なのかも知れませんわね。……セシル、あなたの村に、温泉などはありませんでしたか?」


「温泉‼︎」


 そっかその手があったか! わたしは色めきたった。皇国のお姫様御用達のグリーンティークリームコロネだけじゃちょっと弱い。それプラス秘境の温泉で村おこし! もうセシルの村を地図にも載らない小さな貧しい村なんて呼ばせない、ガストン商会もいっちょかみさせてもらいまっせ!

 と、鼻息マックスなわたしに反してセシルの反応はイマイチで、


「おんせん……?」


あぁコレもハズレかぁ……と、ガックリしてたらファティマ様が、


「自然に湧き出る温かい薬湯、体にいいお湯のことですわ」


って、またも注釈を入れてくれた。セシルは、うーん、と考え込んで、


「あ! おっきい岩のおふろなら村のまんなかにあります! 近所の人みんな入りに行きます!」


「セシル、それ温泉っていうんだよ……」


 わたしは脱力しながら言った。小さな子との会話って難しい。

 でも、露天温泉しかも岩風呂とかいいんじゃない⁉︎ いかにも秘境の温泉って感じで!


「そう言えば、前側妃のセイラ様は産後の肥立ちがお悪くて、一時期ご療養なされたと聞いております。あるいは湯治先がセシルの村だったのかもしれませんわね」


 ファティマ様は考え考え呟くように言った。

 前側妃様の悲劇は決して表立って語られることはないけど、貴族なら誰でも知ってる。前の王様にはもう元聖女の正妃様がいて、息子(現国王クラウン陛下)までいたのに、何故か意味なく皇国の姫君が送り込まれてきたって。

 前正妃様のお怒りは凄まじくて、でも世界を股にかける教会の元締め大神殿擁する皇国からの申し出(っていうかゴリ押し)に、システィーナ王国は断れるはずもなくて。

 前側妃様こと皇女セイラ様と先代の王様は、親子ぐらいの年の差があった。先王よりも息子クラウン殿下の方が年齢的にはつり合い取れてるんじゃないかって当時は随分騒がれたそうだ。

 父親ぐらいの年齢の、隣同士って言ったってあんま仲良くもない国の王様、しかも正妃様との間にもうすぐ成人かって年齢の息子までいる男に嫁がされるとか何の罰ゲーム? しかもしかも、皇女なのに正妃のダダで側妃としてお輿入れとか、ありえない。

 貴族学園の女子達には、セイラ姫の悲劇は他人事じゃない。自分にも起こり得るかも知れない悲劇だってわかってる。だからいくら緘口令敷いたって噂として代々伝わる。結局、セイラ姫が身ごもった王子は死産。セイラ姫本人も王子の後を追うようにして亡くなった。当時の正妃様が聖女の力を使って呪い殺したんじゃないかなんて今でもまことしやかに囁かれてる。わたしも正直、自分が聖女になるまではその噂、半分ぐらい信じてた。自分が聖女になってみてわかった、聖女には人を呪い殺せる力なんかありません! そんな便利な力あるならとっくに神殿長死んでるわ! ……って、コレ別におっさんギャグとかじゃないからね? 信じてね?

 母国から厄介払いみたいに隣国に無理矢理嫁がされた挙句、夫のもう一人の妻にいじめ抜かれてお産の後すぐ死亡とか、セイラ姫ホント可哀想すぎる。やりきれない。

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