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その後の神殿 〜マリアver.7〜

 新しい聖女セシルは、ファティマ様の予言通りの成長を見せていた。

 文字の読み書きは継続案件として地道にやってる最中だ。でも、テキストなんか読めなくても、セシルは実技が凄かった。ファティマ様がお手本を見せて、ちょっと助言して、では私と一緒に同じようにやってみましょうね、で、さくっとできちゃう。

 聖女の最初の難関ライトニングは一発成功。翌日には、護符作成に必須なライトニングラインまで行ってた。わたしがあんなに手こずった『お努め』=祈りの間の水晶球を光の魔力で満たすアレも一撃でキメた。

 さらにセシルが凄いなって思ったのは、「前教わったこと」を「次回にも、確実に再現できる」ことだ。メモなんか取らない、っていうか取れないのに、一度教えたことは忘れない。ファティマ様に同じことを2度言わせない。わたしなんか最初の頃はいちいちアンチョコ見ながらもたもた頑張ってたのに……うーん、これが若さか。

 ファティマ様は、セシルが『課題』をこなすたび、手放しで褒めた。もちろんわたしもそうした。凄い、この子は天才だ。

 わたし達が褒めると、他の先輩聖女がいる時は硬い表情ばかりのセシルがはにかんでおずおずと、でもとっても嬉しそうにする。それがまた可愛い。今だって、何の滞りもなく嬉しそうに水晶球に光の魔力を注いでる。もちろん、ファティマ様とわたしも一緒に。さすがにいくら天才でも成長途中の幼女だ。少しでも疲れが見えたらファティマ様が止める。あたしまだできます、ってセシルが食い下がっても、だ。


「魔力切れの症状はきつうございましてよ? セシル、あなたはまだそれを知るには早過ぎます。どのみち『現場』に出るようになれば嫌でも経験することになります。何も今でなくともよいでしょう」


 っていうことは、ファティマ様もアレを知ってるってことだ。ファティマ様って魔力オバケの底なしみたいな人なのに(褒めてる)、どんだけこき使ってんの神殿長。魔力切れグロッキーはホントきつい。頭ガンガン、意識朦朧、何なら1日寝て過ごしたいぐらいつらい。聖女見習いには週1の安息日絶対確保の掟は伊達じゃない。


 格の違い、ってやつはファティマ様で充分思い知った。でも多分セシルもファティマ様と同類のニオイがする。今は体力も魔力も年相応の多さだけど、無事成長した暁にはホントにファティマ様の予言通り「歴史に名を残す立派な聖女」になるだろう予感がひしひしとする。……あれ? わたしの周りってひょっとして化け物(ベタ褒め)しかいない……??


 凄いな、って思うと同時に、ちょっとだけ嫉妬もある。


「あーあ、いいなぁセシルは。最初っからファティマ様に見てもらえて」


 夜のお努め無事終了。3馬力だから早い早い。

 聖女しか入れない(物理)祈りの間は、『平民聖女隊』(勝手に発足)が親睦を深めるにはうってつけだ。二人を居住区のわたしの部屋にご招待しようとしたら(祈りの間は居住区の方が近いから)神殿長に見つかってファティマ様とセシルが怒られた。平民が穢らわしい足で踏み込んでいい場所ではない! とかって。かと言って、わたしが二人の部屋のある生活区まで行くのは、お努め終わりの夜だと特にハードルが高い。行って帰ってくるだけで何十分もかかるし、生活区までの道のりは真っ暗だ。仮にも神殿内だし、神殿騎士が警邏してるから危険なことはない(だろう、多分)けど、そんな時間があったら睡眠にお充てなさい、ってファティマ様にやんわり断られた。


「マリアさまは、ちがうの? ……ですか?」


 わたしの冗談めいた愚痴に、セシルが目をぱちくりさせてる。目下セシルは聖女の勉強と並行して、敬語謙譲語令嬢語も習得中だ。わたしの時みたいに、ナターシャ様の口を借りてミランダ様が難癖つけてきたら可哀想だ。聖女の実技は天才的なセシル。どっちかっていうと、っていうか明らかにこっち方面で苦戦してる。


「わたしは最初、エスニャ様以外の全員の先輩に満遍なくついて回ってたの」


 今、わたしは見習いだから、セシルと一緒にファティマ様にくっついて回ってる。それで改めて、強く強く思った。わたしも他の先輩聖女達にあっちこっちタライ回しされてないでずっとファティマ様に付けてもらってたら、あの初期の迷走はなかったんじゃないかな、って。


「エスニャさま……あたまにコロネふたっつくっつけてるヒト! ……ですよね」

「頭にコロネ!」


 セシルの斬新な表現に、わたしは吹き出した。ファティマ様も、あらあら、って控えめに、でも確実に笑ってた。セシルはわたし達が笑ってるのが嬉しいみたいで弾んだ声で、


「あたし、えっと、わたしく? わたくし、あまいクリームがはいってるのすきです。牧場のむこうのパン屋さんで売ってて、おたんじょうびとかとくべつな時に買ってもらえて。こないだも……」


 セシル比で弾んだ声は、ここで途切れた。

 こないだも、で、直近の誕生日のことを思い出しちゃったのか、セシルの灰褐色の目にみるみる涙が溜まってく。

 セシルの「こないだ」の誕生日に何があったか。わたし達だって経験者だからわかる。いきなり聖女だ光だって騒がれて、家族からも友人からも引き離されて、拉致されるみたいに神殿に収容されて。……そうだよね、来たくなかったよね、こんなトコ。

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