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その後の神殿 〜マリアver.6〜

「マリア様はもう『お努め』もおひとりでできますし、護符の作成もお上手です。『光』の中級ライトキュアまで取得なさいましたし、戦闘サポートも浄化も完璧ですわ。

 私がお教えできることはもう何もありません。なのに何故、神殿長はマリア様の昇格試験をなさらないのでしょう」


 元々率直に物を言うファティマ様に他の先輩聖女達も同調して、さすがにおかしいって騒ぎ出した、2年目。

 新たな聖女が発見されたって一報があった。神殿はお祭り騒ぎ。当然、わたしの聖女試験とか言ってる場合じゃなくなった。





 新しい聖女ことセシルは、ホントに、文字通りの平民だった。しかも、7歳になったばかり。

 聖女として、というより、まずは人間として育てなきゃならない。もの凄く大変なことになるだろうな、って予感がひしひしとしてた。

 その大変なお役目は当たり前のようにファティマ様に割り振られた。他の先輩聖女達も、神殿長の決定に、それがいいわね、と満場一致で乗っかった。幼女の育児に携わらなくて済んでよかったという思惑を、ある人は控え目に、またある人は露骨に、態度で、表情で、表してた。

 確かにファティマ様は教育係として打ってつけだ。でも彼女は他にも様々な任務やお努めをこなしてる。わたしもまだ見習いの身分でファティマ様付だ。できることに制限がある。

 神殿長はファティマ様を何だと思ってるんだろう。神殿長の便利な魔法の杖? 労働に見合った見返りを与えもしないで仕事ばっか増やすの? 神の愛は無償だから? ……バカにしてる。

 ファティマ様は神殿長直々の申し出に、敵の力量を正確に見定める時の魔術師みたいな目をして、そうですね、それがよろしいのでしょうね、とだけ言って、セシルの教育係も引き受けた。

 実質強制なのに、ファティマ様の方から是非にって立候補があって、みたいな形になってたのにはビックリしたし、怒りが湧いた。何なのあの神殿長、ホントむかつく! 足の小指タンスにぶつけて骨折して欲しい‼︎





 平民、しかも7歳の少女のセシルは、文字の読み書きさえできなかった。

 先輩聖女達はそこからなの⁉︎ って驚いてたけど、わたしは商会で働く『フツーの人』を見てきたから、それがよくあることだって知ってた。

 荷上げとか輸送とか用心棒とかで生計立ててる人達は自分の名前を書くのもおぼつかないとか割とある。契約書とか読みもしない。っていうか、読めない。そういう人には雇う側(パパとかママとかおばあちゃんとかお姉ちゃん夫婦とか、わたしや弟も時々)が読んであげて、この時間、このお給金で働いてもらえますか? ってやったりする。契約書と、お給金の受取のサインは本人直筆、とガストン商会は徹底してるから、商会で働く人はどんな職種の人でも自分の名前ぐらいはどうにか書けるし読めるようになる。でも、他のフツーの人達はそうじゃない。自分の名前が書けるだけで、すげーなオメェ字がわかるのかインテリだな、って他のフツーの人達から褒められ感心される……そんな世界だ。

 平民の人は余程優秀じゃなきゃ学ぶ機会さえない。貴族学園で会う平民の人達って、だから飛び抜けて優秀な人ばかりなわけ。特待生なんて特にそう。学園側でお金払ってでも在籍して下さい、ってことなんだから。特殊部隊の人達と一緒くたに考えちゃダメだ。


 令嬢聖女の先輩達はそういうの多分知らない。当たり前に読み書き計算ができるって、実は選ばれし者の特権なんだよ、ってこと。

 字も読めないのではテキストも読めないわね、とか、さすがにあたくしだって5歳の頃には読み書きぐらいはできたわよ、とか吐き捨てる先輩聖女ら(Mランダ・Eスニャ。一応伏せてみた)の言い草に、『新しい聖女』がこの人達の下に付かなくてよかったと思った。ちなみにナターシャ様は日和見だ。どっちつかずでオロオロするだけ。

 右も左もわかんない、しかもまだ7歳の女の子に集団イジメみたいなことする先輩達にさすがに黙ってらんなくて何か言ってやろうと思ったら、ファティマ様が視線だけで止めた。

 ファティマ様はしゃがんでセシルに目を合わせて、にこりと笑って事もなげに言った。


「ではセシル、明日は文字のお勉強から始めましょうね。……あらあら、泣かなくても大丈夫ですよ。誰にでも『はじめて』はありますわ。明日がセシルの『はじめての読み書き』記念日ですわね。ご本が読めるようになったら、あなたの世界が広がりますよ。うふふ、楽しみですわね?

 ねぇセシル、あなたは特別に神様に選ばれて『光』に目覚めたの。神様は、セシルなら大丈夫乗り越えられるって信じて、セシルに試練を与えて下さったのよ。勿論私も微力ながら、セシルが試練を乗り越えて一人前の聖女になれるようお手伝いをさせていただきますわ」


 そして、こうも言った。


「私は聖女としてはまだ2年程でお尻に殻をつけたヒヨコ程度のものですけれど、魔法のことなら少しばかりは存じております。その私が保証致します、セシル、あなたには『光』の才がある。そしておそらく、他の何かも眠っております。

 いっぱい食べて、いっぱい眠って、いっぱいお勉強して、他の聖女の皆様方にも教えを請うて。そうすればセシル、あなたはきっと、歴史に名を残すような立派な聖女になれてよ?」


 さらに立ち上がり、令嬢聖女達に体ごとくるん、と向き直って、アルカイックスマイルと共に、こうも言った。


「ミランダ様、恐れながら申し上げますが、学ぶ機会を与えられなかった平民の娘が文字を知らないのは珍しくありません。そう難しく考えることでもございません、これから学んでいけばよろしいのですもの。

 エスニャ様、私事で恐縮ですが、私がセシルくらいの年の頃には食べることばかり考えておりました。明日どうやって生き抜こう、今日飢え死にしないだけで上等だ、……うふふ、何しろ実家が貧乏でしたからね! それこそあなたのおっしゃる『そこら辺の草』まで食べて命を繋ぐ日々でしたわ!」


 ファティマ様はわたしの代わりに、わたしの言いたかったことを、わたし以上に強烈な表現で代弁してくれた。実体験に裏打ちされたファティマ様の言葉は重く、お上品な高位貴族の娘達から次の言葉を奪った。

 でも、次の瞬間には、くるり、と、またセシルに向き直ってしゃがんで目を合わせて、アルカイックじゃない本物の笑顔で言った。


「セシル、明日から一緒に頑張りましょうね。マリア様も、改めて。

 神殿長にはもう一度、マリア様の試験についてご相談申し上げてみましょうね」

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