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その後の神殿 〜マリアver.5〜

 そうこうしてるうち、1年が経った。

 わたしはまだ見習いのままだ。でもそれが普通だ。実家が聖女を多く輩出してきた筆頭公爵家で事前チュートリアルばっちりなミランダ様とか、元々魔法の素養があって賢いファティマ様のが異例だ。

 見習いとして1年を過ごし、神殿の年中行事とか一通り経験して把握して、それで神殿長が充分だろうって判断すれば聖女昇格の試験がある。受かれば正式な聖女として認められて、皇国にある総本山・大神殿にシスティーナ王国の聖女として登録されるらしい……ってナターシャ様から聞いてる。


 1年とちょっと経ってもわたしには試験のしの字もなくて、1年と半分が過ぎてもやっぱりなくて、わたしは見習いのままだった。先輩聖女達もちょっとおかしいって言い始めてて、ファティマ様が代表して神殿長に「マリア様の聖女試験は」って訊いてくれたけど、平民のお前が関知することではない! って怒られて、そのまま。

 わたしはでも、それでもいいかなって思ってた。『見習い』って身分で色々お目こぼししてもらえることもあるから。

 例えば、安息日。パンピーで言ったら、休日。見習いなら週に1度は魔力と体を休ませるために丸々1日を絶対に確保しなきゃならない。もし安息日に働いたら、他の日に代休って形で確実に休ませなきゃいけない。これは強制、絶対に、だ。これも『聖女と神殿の掟』。正式な聖女になったらそんなモノうやむやにされる。ファティマ様の無茶苦茶な働き方見てたら嫌でもわかる。ガストン商会が絶対にするなって戒めてる『定額働かせ放題』のターンに突入だ。

 そもそも『聖女』は無給だ。神の慈愛は無償だからだそうだ。

 聖女の力=光魔法に目覚めて神殿預かりの身になれば、その娘の実家に神殿から『支度金』という名の莫大なお金が支払われる。だから国内の女の子のいる家はその子の誕生月にせっせと教会に通わせて聖女判定を受けさせる。法律で決めてなくたってそうするだろう、普通なら。でも、実家は潤っても聖女本人には何のうまみもない。ウンコみたいなシステムだ(クソなんて言うとまたファティマ様にうふふって笑ってマリア様はしたなくてよって言われちゃうから自重してみた)。

 わたしの実家は幸い、わたしの『支度金』を、わたしが神殿入りするのに必要な諸々に充ててくれた。多分、支度金をそっくりそのまま『寄付』って形で神殿に渡したんだろうと思う。くれぐれも娘をよろしく、って。だから「平民に限りなく近い」イモ男爵の娘が貴族御用達の『居住区』に部屋を持ててるんだろうな、ってことも、うっすらと理解できるようになってきた。


 基本、神殿入りした人間は外部との接触を断たれる。これも『聖女と神殿の掟』。

 これは聖女に限らず神殿で働く神官や巫女にも適用される。唯一の例外は、神殿内来賓室での家族親族との面会のみ。それ以外には手紙を出すことすら禁止されてる。そして、こちらから出した手紙も、あちらから出された手紙も、当たり前のように検閲が入る。姉から届いた手紙の大部分が黒線引っ張ってあって読めなくて困惑したことは記憶に新しい。こっちから向こうに出した手紙も所々黒線引っ張ってあったって。でも、差し入れにアレとかコレとか欲しいな、ってトコはちゃんと読めたみたいだ。お願いしたアレとかコレとかはちゃんと届いたから。


 これってつまり、実家が太くなきゃアウトじゃない? 実家が毒だったら完全に詰む。衣食住は神殿が保証するって建前だけど、清貧を是とする神の御元の神殿の保証なんてホントに必要最低限のものだ。平民聖女のファティマ様なんか食事にそこら辺の草むしってきて自分で料理作ってしのいでたりしてる。後で実はその『そこら辺の草』が魔力にいい薬草で、体にも優しい薬膳スープの原料だ、って知ったけど。

 令嬢聖女の先輩達は実家からの支援がたっぷりあって、何不自由なく暮らしてる。わたしにしても、折に触れて実家が気にかけてくれるからか、居住区内での扱いは悪くない。働かせ方についてはちょっとアレだけど。

 前に一度、神殿長に面と向かって吐き捨てられたことがある。札束で横っ面引っ叩くような真似しやがって、って。面会の時、パパとママに辛すぎる神殿での仕事内容の話を、さすがに護衛の神殿騎士と立会人の巫女がいる前では言えないから、手紙に書いてこっそり渡したことがある。愚痴オンパレードの娘の手紙を読んだ後の実家の動きは迅速だった。「娘に非道な扱いをするならガストン商会は今後一切、神殿への寄付はしない」ってガストン男爵家が言ってきたって、神殿長ガチで怒ってた。

 その後、『聖女と神殿の掟』に「神殿内でのお努め内容を外部に漏らすを禁ず』の項目が追加された。


 とは言っても、居住区内に部屋がある聖女、っていうかファティマ様以外の聖女には、居住区内のちゃんとした、厨房と食卓が一体化してない食堂で、調理専門の巫女が作った食事をフツーに食べてる。そもそも貴族令嬢は日常的に料理なんかしない。メニューは確かに質素だけど。白パンと、主菜とスープとドリンクと。わたしにとっては普通の食事だけど、贅沢に慣れた令嬢聖女にはちょっと物足りないみたい。銀髪ドリルヘアが第二王子にコバンザメみたいにくっついて高位貴族御用達の高級レストランでフルコースたかってるのとか、実はわたし、知ってる。ガストン商会の情報網凄いなって我が家ながらちょっと怖くなった。


 とにかく、見習い、って身分と、太い実家(って自分で言うなって?)のおかげでわたしの週1の安息日は守られてる。

 それに、ファティマ様に付いて色々学べる、教えてもらえる、っていう今の環境が変わっちゃうのが嫌だな、っていうのが、わたしが『見習い』に執着する大きな理由だ。

 見て盗め、って、亡くなったおじいちゃんはよく言ってたけど、ファティマ様を見てるだけで勉強になる。わたしはまだまだ未熟で、もちろん今じゃ格の違いってのがよくわかるようになったけど、せっかく身近に『聖女』の完璧なお手本がいるんだから、勉強させてもらうに越したことはない。


 わかってる、わたしはファティマ様にはなれない。

 でも、わたしなりの『聖女』になる。


 そのぐらい目指したっていいと思う。

 そのためにはまだまだわたしには足りない。体力も魔力も経験も、聖女としての振る舞いも、何もかも。

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