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その後の神殿 〜マリアver.4〜

 その一件から、誰が決めたわけでもなくファティマ様がわたしの教育係になった。それこそ、お風呂と夜寝る時以外はファティマ様の行く所どこでもずっと付いて回って、っていう生活だ。

 その頃にはもうファティマ様は見習いじゃなく正式な聖女になってた。いくら神殿長が平民がどーたらこーたら言おうと、こんな実力者をいつまで見習いにしとくんだ、ってどっかからの外圧がかかったとかってナターシャ様が言ってた。聖女昇格試験さえ受ければ、っていう前評判通りの結果だ。でも、ファティマ様はシスティーナ王国中央神殿史上最速での昇格にはならなかった。今のところその記録はミランダ様のものだ。わたしは密かに、神殿長はミランダ様の記録を保持したいからってファティマ様の試験を引き伸ばせるだけ引き伸ばしたんじゃないかって疑ってる。


 で、ファティマ様と一緒に仕事して気づいたんだけど、神殿の聖女が、っていうよりも、ファティマ様の扱いが、何かおかしい。

 日の出前に朝の『お努め』。その後、『ドサ回り』じゃないや視察とか浄化とか。日帰りできる時は夜の『お努め』。外仕事がない時は神殿内で信者様対応とか護符作りとか祈りの塔の掃除とか何かめんどくさそうな書類とか、その合間に昼の『お努め』。

 ただし、フィティマ様に振られる案件は遠方の難易度の高いものばかりで、片道だけで10日も馬車乗ってたりするのもザラだ。王都から出れば結界とかないから、『現場』に着くまでにも魔物とかバンバン出る → 騎士団魔法使い応戦+わたし達はサポート → しばらくは大丈夫かな……? → また魔物とエンカウント → 以下略……で、『現場』に着いたら着いたで瘴気有るところ魔物有り、で戦闘サポート露払い、その後に浄化。帰りも行きと同じで魔物以下略のエンドレス。

 わたし達聖女は『聖女と神殿の掟』とかで他者を攻撃するのを禁じられている。たとえ魔物が相手でも、魔物もまた神の元で生きる者、よって攻撃してはならぬ、が、神の教え。神の御心に背いてはならぬ、よって聖女は攻撃不可。掟を破ればペナルティーがある。だからよくよく気をつけるようにって『現場』に出るってなった時、複数の先輩聖女に五寸釘ぐらいのぶっとい釘をドカドカ刺された。

 戦えない聖女の代わりに戦ってくれる騎士団の人達とか魔法使いの人達とか、できるだけサポートしてあげたいって気持ちはある。でも、体と魔力がついていかない。聖女様の役割はあくまで浄化だから、って言ってくれる戦闘員の人達はすごく優しいし、ありがたい。でも、守られてるだけってもどかしい。現にファティマ様は直接攻撃こそしないけど、戦う人達が最大限の力を発揮できるように身体強化? とか、魔力付与? 譲渡? とか、回復治癒とかバンバン使って臨機応変に立ち回ってる。


  露払いが済んで、魔力切れでグロッキーで本番ってか浄化任務の前に使い果たしてるわたしを蔑みもぜず哀れみもせず、ファティマ様はいつも微笑と共に言う。


「頑張りましたわね、マリア様。回復するまで薬膳クッキーでも召し上がって少しお休みになられて下さい。……あらあらうふふ、勿論皆様の分もございましてよ? 皆様、マリア様を守って差し上げて下さいましね」


 ファティマ様は最低限の守り人だけをつけて(何も全員で瘴気に塗れる必要性はございませんでしょう、が彼女の言い分だ)、戦闘員の大部分をわたしごとメイド・イン・ファティマの超絶強力な結界の中で休ませて、体力と魔力が回復する薬草を練り込んで焼きしめたクッキーまで振る舞って、たったひとりで瘴気に向かう。マリア様ももう少し慣れてお体と魔力がついてこられるようになったら一緒に浄化もしましょうね、って言われてたけど、この頃のわたしはまだまだ新人の見習いで、目まぐるしく変わる戦闘のサポートについてくだけで精一杯だった。

 もう少しして『少し慣れた』ってファティマ様が判断してから、聖女本来の役目の浄化もするようになってわかった。ファティマ様は化け物だ(褒めてる)。彼女と同じレベルで考えちゃいけない。浄化する人は浄化するだけで大変だし、サポートはそれ以上にいっぱいいっぱいだ。両方こなしてケロッとしてるファティマ様がおかしい(めっちゃ褒めてる)。


「ファティマちゃんと一緒の現場だとあたし達もラクだよねー。サポートバッチリしかもおやつ完備だし♪」


 安全な結界の中で守られたわたし達は遠目でファティマ様の浄化を見物してる。毒々しい緑がかった紫の土がみるみる本来の色に変わってくのを、すげーなーっとか言いながら。残してく人数と連れてく人数逆じゃね? とか言う騎士団の人には、ファティマ様をファティマちゃん呼ばわりする女性魔法剣士が、


「え、だってファティマちゃんだし? ……ってかキミ、ファティマちゃんエスコートしたいならもっと力つけなきゃだよ? ファティマちゃんご指名の現場ニストはスペシャルだからね?」


とか煽ってた。


「ぐぬぬ……そう申すリズ殿こそ留守番ではないか!」


「あたしはファティマちゃん、っと、聖女ファティマ様直々に、マリア様をお守りするようにと申しつかっておりますの。ファティマ様の大事な後輩マリア様の警護を、特別に。いわば全幅の信頼の証ですわね?」


 わたしはいつだかファティマ様が、親しくしてくれた先輩がいてファティマちゃんって呼んでくれたの懐かしくて嬉しかったみたいなこと言ってたのを思い出してた。わたしはてっきりその『先輩』を足抜けした聖女の先輩かとか想像してたけど、多分この人かなって確信した。


「ぐぬぬぬぬ……俺もいつかは留守番ではなくファティマ様の浄化のお守りに‼︎」


「おーおー若いねえー青春だねえー道は険しいけど頑張れよ若人♪」


 やたら鼻息荒い騎士団の人を煽り倒す『リズ先輩』を見て、わたしは複雑になった。わたし、この人に似てるかな? 現場でよく会うし、風魔法仲間とか言って色々教えてくれたり、フォローしてくれたりして、いい人だなって思ってるし、気が合う人だなとも思うし、学園で同じクラスとかだったら多分お友達になれそうかなとかも思ってるけど。わたしに筋肉ダルマなじゃないや屈強な騎士団の人を煽り倒すスキルはない。似てないよね……わたし達?

 結界の中では薬膳クッキーをお供に即席ティーパーティー的なこととか始まってたりする。これも『現場』にファティマ様がいる時限定だってリズさんが言ってた。


「っていうか、ミランダ様がいらっしゃらない時限定、かな。ミランダ様、浄化の時ファティマちゃん連れてっちゃうから。……あ、マリア様も飲まれます? 薬膳ハーブティーあたしブレンドですけど。魔力回復しますよ」


 でも、ファティマ様の仕事は早い。そして正確だ。

 ファティマ様の浄化作業はいつだってさっさと終わって、え、もう完了⁉︎ って驚くぐらいに早い。何ならリズさんが、


「ちょっとファティマちゃんもう終わっちゃったの⁉︎ お茶ぐらい飲ませてよ」


って、冗談だか愚痴だかわからないようなことを口走るぐらいには、早い。

 時間をかければかける程、私に付いていて下さる方が瘴気に曝される時間が増すのですから、ってファティマ様は決まって言う。そしてそれから、結界内のパーティーメンバーの様子を見て、わたしと、何人かの「慣れてない」騎士団の人がまだバテてるのを確認して、


「そうですわね、帰りの道行も長いのですからお茶くらいいただいても罰は当たらないでしょう。神様もその程度はお目溢しくださいますわ、きっと。私も少しばかり空腹です、薬膳クッキーはまだ残ってまして?」


って、自分がそうしたいから、を装って、さりげなく「慣れてない」人の為に休憩を入れてくれたりする。聖女、って多分、ファティマ様みたいな人のことをいうんだ、ってわたしは思った。

 ちなみに、魔法剣士のリズさんが勧めてくれたあたしブレンド薬膳ハーブティーとかいうヤツは、一口飲んで吐き出しそうになった。おいしいとかおいしくないとかいう次元じゃなくて、割と本気で生命の危険を感じた。ホントに吐き出しちゃったら失礼だから根性で飲み込んだけど。

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