その後の神殿 〜マリアver. 3〜
ファティマ様は教育係としても有能な人だった。
まずお手本を見せてくれて、じゃあマリア様も同じようにやってみて下さい、って一通りやらせてくれて、つまずいたら都度、的確なアドバイスをくれる。難しいことを難しい言葉じゃなくてわかりやすく噛み砕いた表現で説明してくれるからありがたい。小さな子供に文字を教えるみたいに、って表現があるけど……うん、そんな感じ。
わからないことをわからないって言っても、そんなこともわからないの? ってバカにしたり、前も教えたわよね、って怒ったりしない。わたしは商会の手伝いをする時のクセでひたすらメモを取る派だけど、ミランダ様が「前に教えた」って言ったこと、メモリーマリア秘蔵のメモ帳いくらひっくり返しても出てこなかった。あれは濡れ衣だったと思う。
ファティマ様は、何でも、何度でも訊いて、って言ってくれる。優しい言葉に甘えるつもりはないけど、ドがつくぐらいの新人にはそれ、すっごくありがたい。
わたしは学園で魔法学も選択してたから、風魔法の初級は使える。
でも、聖女のお役目のメイン業務『お努め』で水晶球に光の魔力を注ぐ、って感覚が、最初イマイチつかめなくって苦戦してた。
ソレできなきゃ聖女の意味なくない? とかいう銀髪のドリルヘアををウィンドカッターでざん切りにしてやりたくなったり、前も言ったわよね神様に祈ればいいって、って見かけは冷静沈着そうなのに何気に根性論振りかざすソレ絶対一人じゃセットできないよねって感じに結い上げられた赤毛をマリアちゃん史上最大風速でグシャグシャにしてやりたくなったり、こればかりは説明のしようがなくてよ感覚だもの、とかさりげな〜く天才風吹かす複雑に編み込まれた茶髪にぶっ刺されたピンを全部引っこ抜いてやりたくなったりしたけど、何だかんだ皆、集まってわたしのために対策を考えてくれてるってわかってるから、小さく縮こまって、すみません……としか言えなかった。
そんな中で、いちばん建設的な意見を出してくれたのがファティマ様だった。
「そうですね、マリア様は初級の『風』はマスターなさっておられるのですから、ウィンドヒールは大丈夫なのですよね。『光』の初級のライトニングは既に完璧ですもの、『光』もすぐに使いこなせるようになりますわ。
魔力譲渡……は、まだ少しばかり早いですから、『光』で水晶球の中を癒すイメージでおやりになってみたらいかがでしょう? ウィンドヒールを『光』に置き換えてみる、というつもりで」
それじゃライトヒールじゃないの、お努めも満足にできない見習いに早すぎじゃない? とか言うドリルをファティマ様はアルカイックスマイルだけで黙らせて、神と神殿に全力で喧嘩売るみたいなアドバイスをくれた。
「魔法はインスピレーションとイマジネーションが鍵ですわ。聖女だ光だと崇められても所詮は『光』というカテゴリの、魔法です。大丈夫ですわよマリア様、そんなに気負わなくてもあなたならすぐにできますわ」
ファティマ様の「大丈夫」には不思議な力がある。コレ大丈夫じゃないだろって絶望的な状況でも、ファティマ様が、うふふ、って笑って、大丈夫ですよ、って言うと何かいつの間にか大丈夫になってる、っていうか。
わたしはファティマ様の言う通りのイメージでやってみた。フツーに難なくできた。今までの苦労って何だったの、ってぐらいに、軽〜く、フツーに。




