その後の神殿 〜マリアver.2〜
ファティマちゃんはわたしより数ヶ月早く神殿入りしてたけど、言ってみればほぼ同期。周りも当然、そんなふうに扱う。ファティマちゃんが軽くこなすことが、わたしにはできない。最初の頃は比べられて辛かった。
同じ聖女見習いって立場だけどわたしは文字通りの見習いで、ファティマちゃんは名ばかり見習いの1馬力以上。試験さえ受ければすぐにでも見習いじゃなくなるだろうって言われてた。その試験も神殿長が、平民がどーのとか難癖つけて先送りしてるって話だった。
わたしは研修期間中、イモ男爵呼ばわり聖女(エスニャ様って名前だって後で知った。自己紹介さえしなかったよアイツ!)以外の聖女全部に付いて回って色々教わったけど、ファティマちゃんの教え方が一番わかりやすかった。
エラソー聖女(ミランダ・ボルセスって名乗った。やばい筆頭公爵家だ!)は実際エラくて筆頭聖女だった。すごく頭のいい人だってことはわかった。でも頭のいい人が教えるのがうまいとは限らない。
お一人様でいらしたの聖女(ナターシャ・グラス子爵令嬢)は、ミランダ様のおっしゃる通りになさいね、ミランダ様はどうおっしゃっていて? って、やたらミランダ様に気を使ってた。わたくしにはまだ他人に教えられる程の実力はないのよ、とか言ってた。あと、言葉使いとか駄目出しされた。ファティマのことをファティマちゃんと呼ぶのはおよしになった方がよくてよ、数ヶ月とはいえ彼女が先輩なのだから、って。ミランダ様はそういうところにとても厳格なの、ミランダ様にご注意される前に云々って。何かビミョーな気分になっった。
その頃にはもうファティマ様がわたしよりも2歳年下って知ってたし、実家の弟と同じ年頃でデキる妹みたいって思ってたから、つい気安くファティマちゃんなんてお友達感覚で呼んじゃってたけど、ファティマ様本人は何も言わなくても実は図々しいイモ男爵とか思われてたかな、なんて馬鹿な心配とかしたりした。
ある日突然、ファティマ様、って呼び方を変えたら、彼女は少し寂しそうに微笑んで、
「どなたかに何か指摘されましたのね。私は構わなかったのに」
そして、うふふ、と秘密めいた笑みと共に、言った。
「懐かしかったのです。親しくして下さった先輩で、私をそのように呼んで下さる方がいましたの。マリア様といると、彼女のことを思い出します」
先輩かぁ、神殿を『卒業』した人かな、ってこの時は考えてた。
これも聖女あるあるなんだけど、高位貴族とか王族とかに見染められて無事結婚とかできれば神殿から足抜けできる。それをわたし達は『卒業』って呼んで大部分の聖女が心待ちにしてたりする。聖女の仕事は辛すぎる。肉体的にも精神的にも。
神殿入りしてすぐわかったけど、聖女の働き方はおかしい。もしガストン商会のどっかの店舗とかでこんなことさせてたらパパは激怒する。ってかその前にママがシメる。そのぐらい酷い労働環境(?)だった。朝起きてから夜寝るまでこき使われっ放し。何なら夜中まで『お努め』とか言って拘束される。
労働者にだって働く場所を選ぶ権利がある、が、ガストン家の信条だ。ガストン商会で働くことが魅力的だって思ってもらえるようにしないと人なんてどんどん辞めてくよ、って、おばあちゃんが何かってーと言ってたのを思い出す。キツイキタナイキケンな仕事は通常の3倍のお給金を出す、そのぐらいの心意気でないと、って。仕事中にケガでもすれば、治るまで商会がしっかり面倒見る。後遺症とか残って働けなくなったりした人にはただ辞めてもらうんじゃなくて、手厚いお見舞い金という名の慰謝料とかも出す。慈善事業やってるワケじゃないけど、でもそうやって繋いだ縁は巡り巡って後で大きな利益となって返ってくるから、人を粗末に扱ってはいけないよ、って……わたしの実家は代々そうやってやってきた。
だから、神殿入りして、こんなバカみたいな職場ある⁉︎ ってビックリして、3日目でもう辞めたくなった。でも辞めて実家に帰ります、が、許されないのが『聖女』ってワケで。
結局、聖女辞めるには結婚するしかない、ってなる。それも、王様と神殿長がダブルで認めた人と。
ホントに、心から、バカバカしい。




