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その後の神殿 〜マリアver.1〜

 最近、体が重い。いつも常に、何となくだるい。

 ファティマ様が追放されて、わたしはすぐに見習いから正式な聖女になった。毎日毎日忙しすぎて、見習い脱出に必須な『聖女試験』を受ける機会を逃し続けて2年も見習い聖女のままだった。遠征とか依頼とかが少ない人の方が時間が取り易くて試験パスしやすいとか何だかなぁって感じだけど。

 普通ならおめでたいことなんだろう。実家やお友達とかからはお祝いの品がどっさり届いたし(実家経由で。神殿に収容されちゃったら家族親族以外との接触は完全に断たれるのが『聖女と神殿の掟』だから)、家族総出(父、母、祖母、姉夫婦+姪甥、弟)で神殿に面会まで来てくれた。実家の男爵家から王都までは遠いのに、20歳にもなった娘の為にわざわざ。

 嬉しいし、ありがたかったけどわたしは知ってる。引き伸ばし続けられた挙句に急遽開催された試験に受かってようやく見習いじゃなくなったのは、ファティマ様の穴を埋めるため、とにかく『聖女』の頭数を増やしたいからってだけだって。







 わたしは18歳で聖女の力に目覚めた。

 聖女判定が受けられる6歳から毎年、誕生月には姉と一緒に地元の教会に行かされた。姉とわたしは年齢こそ離れてるが誕生月はひと月しか違わない。誕生月を含めた前後2ヶ月の間に6歳から18歳までの女子は聖女判定を受けなければならない、それが国民の義務だから。

 18歳はギリギリの年齢だ。わたし自身、聖女になるなんて想像もしてなかった。限りなく平民に近い男爵家でも一応は貴族だから、学園に通って、実家の商会の戦力になる結婚相手とか見つけて、実家が経営してる商会の店舗のどれかを継いで、パパママみたいに忙しくも幸せにやってくのかな、ぐらいの人生設計だった。別に婚約者とかいなかったけど。ちょっといいかな、って思う人ぐらいはいた。進展はしなかったけど。




 遅咲きの聖女、なんて陰口叩かれてもへっちゃらだったのは、ファティマ様がいてくれたから。ファティマ様は悪口陰口言ってる人達に同調なんかしないで、そんな暇あったら仕事しろ、を、お嬢様言葉でマイルドに直接言ってる本人に言っちゃう系の人だった。そして、いつだって弱い人の味方だ。遅咲きというか出来の悪いわたしにもいつも寄り添ってくれた。

 マリア・ガストンです、と名乗った時、先輩聖女が「ああ、あのイモ男爵の」って言った。わたしの実家は、おじいちゃんの代でポテトの加工品で男爵家に成り上がった家だ。貴族学園でもそれ、散々言われた。姉もそうだったって言ってた。わたしと姉は長期休暇で実家に帰るたびに、それについて愚痴り合ってた。ガストン家のメンバーは貴族文化には向かないわ、って。

 学友が、お父様お母様お祖父様お祖母様って呼ぶ人達のことを、わたし達はパパママおじいちゃんおばあちゃんで通してる。わたし達は学園ではやっぱりちょっと変人かもだ。もちろん、外ではよーく気をつけてるけど。


 先輩聖女の「イモ男爵」呼ばわりにムカッとしたけど萎縮はしない。

 わたしはポテトの力で一代でのし上がったおじいちゃんとおばあちゃんはすごいと思ってる。おじいちゃん亡き後、先代以上の商才でポテト以外にも手を広げて商会をどんどん大きくしてってるパパとママのこともえらいと思ってる。パパの元で修行中のお姉ちゃん夫妻も一姫二太郎育てながら良く頑張ってると思う。

 わたしも、予定外に聖女にならなければママの下で食品以外の品物を扱う店舗で修行するはずだった。学園では淑女科じゃなくて商業科を選択した。お茶飲んで笑ってるだけじゃ明日のパンは買えない。ガストン家に家訓なんて立派なモノはないけど、ママのこの口癖は真実だと思う。


 他の先輩聖女が「マリア様、お一人でいらしたの?」って言ってきて、あーあって思った。貴族学園でも当然みたいに侍女とか侍従とかぞろぞろ付けてた生徒はいた。っていうか、それがほとんどだった。でも、男爵家出身とかだとピンで入寮も結構いたし、平民の特待生ならそれが当たり前。わたしも、実家にこそコックとかメイドとかはいたけど、わたし付の侍女なんかいない。お姉ちゃんも弟もそうだし、パパやママだってそう。おじいちゃんの代で成り上がったガストン家、とことん貴族文化にアゲインストしてる。


 別に身の回りのこととか自分でできますから、って言ったら、イモ男爵呼ばわり聖女とお一人様でいらしたの聖女よりエラソーな先輩聖女が「まるで平民ね」って言った。祖父の代で男爵になった成り上がりですから、って言い返そうと思ったら、


「あら、私など『まるで』どころか平民そのものですけど」


って、庇ってくれた人がいた。私はビックリして可愛い声がした方を見た。気配もなく、いきなり声がした、って感じだったから。

 長いミルクティーブロンドの髪を束ねた、可愛い顔立ちの小さな女の子が、うふふ、とコケティッシュに笑ってた。旅装姿の、華奢で小柄な可愛い子は、大きな背袋と肩掛けバッグに埋もれちゃいそうに見えた。年齢不詳で13歳って言われたらあぁそうかって思うし、15歳って言われればまぁそんなトコかな、って納得する。大事なことだから2回言うけど、声がするまで気配とか全然しなかった。


「ファティマ、戻ったのならせめて着替えて荷物はお部屋に置いてから来なさい」


 エラソー聖女が居丈高に可愛い聖女に言った。可愛い聖女はファティマちゃんというらしい。


「失礼をお許し下さいませ。けれどご報告が先と判断致しましたの」


「そんなに悪いの?」


「最悪とは申しませんが、その半歩手前というところです。……それに、新しい方がお見えなのでしょう? 私、遅刻してしまいましたわね」


 可愛い聖女改めファティマちゃんは、くるん、と体ごとわたしに向き直って、言った。


「このような格好で失礼致します。ファティマと申します、家名はございません。今後とも、よしなに」


「あ、えっと、マリア・ガストンです。よろしくお願いします!」


 ファティマちゃんの挨拶は完璧だった。家名ないとかウソでしょコレ絶対高位貴族の人達がやるやつ! ……礼は貴婦人の礼じゃなくて何か見たことない軍隊っぽいやつだったけど。

 後で知った。ファティマ様は魔道学院出身で、軍隊っぽい見たことない礼は魔術師の礼だったこと。彼女はこの時、わたし達が裏だけで言ってる『ドサ回り』帰りのその足で『新しい人』を迎えに駆けつけてくれたこと。そして、わたし達がこの時いた『居住区』内の談話室は、平民のファティマ様の部屋のある『生活区』からは大分距離があること。さらにこの時の『視察』は『緊急案件』ってやつで、ホントならわたしの出迎えとか挨拶とかしてる場合じゃなかった、ってことを。

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