その後の神殿 〜マリアver.18〜
はっきりと『楽な現場』だったのだ(大事なことだから2度言う)。
少なくてもあのバカいや第二王子がやらかすまでは、わたし達も、お付の騎士達も、なごなごしながら眼福な擬似姉妹のやりとりをキャッキャウフフしながら愛でる程度には余裕があった。
事態が急激に変化したのは、第二王子のあの叫びからだった。
「やったぞ! 魔物を倒した! オレだってやればできるんだ‼︎」
ボンクラトス王子殿下(このぐらい言わしてもらってもいいよね?)の足元に転がる、ポイズンビーの死骸。あぁやっちゃった……っていう周囲の白々とした沈黙。これから何が起こるかなんて想像もしたくない。いや、できない。
そこからの展開はあまりに急激すぎて、まだらボケみたいに所々記憶が途切れてる。『現場』に着くなりギャン泣きしたセシルにあわあわしててファティマ様にやんわりと事情聴取されてたやたら威圧感のある王宮戦士が、
「作戦変更、浄化任務より先にスタンピードに備えて陣形展開! 王子殿下と聖女様方を安全な場所へ!」
って檄を飛ばすと同時に羽虫の大群がぶんぶん羽音を立てて押し寄せてきたのは覚えてる。わたしはふわふわと現実味を感じられないまま、セシルに泣かせたおっちゃん(濡れ衣)王宮騎士団長だったんだーそりゃあ圧ハンパないわな、なんて考えてた。
ボンクラ王子(最早中略)は乗ってきた王家の馬車に、ミランダ様とエスニャ様と一緒に匿われた。平民は外に居ろって無慈悲なお達し。王子の護衛がナターシャ様とマリア様は貴族ですって食い下がってくれたけど、第二王子は地味女とイモ男爵の娘はとか言って切って捨ててた。
安全な場所なんてどこにもない。羽虫の魔物で真っ黒になった空。安全な場所……聖女は安全な場所……でも、わたしはどこに行けばいい?
「マリア様、ボーッとしない! ナターシャ様、お気を確かに! セシル、泣くのはおよしなさい! 安全な場所など、自ら作るものですわ!」
ファティマ様がいつになく強い調子で言って、ふわふわするわたしの手を引いた。そのまま彼女は無詠唱で結界を張った。はっとしてわたし達もファティマ様に続いて同じようにした。わたし達は詠唱必須だけど。
「貴方も我々のおそばに。……貴方、クラトス殿下の護衛なのでしょう? 護衛が対象から離れるなど感心致しませんわ」
ファティマ様は、第二王子と高位貴族の聖女を馬車に押し込めたフルアーマー騎士にも言って、現場に向かおうとしてた彼にも結界を張った。わたしは、鎧騎士の勇気に心から感心した。反射的に逃げるんじゃなくて、羽虫地獄に参戦しようと突っ込んでくんだから本職騎士の胆力は凄い。神殿騎士とは違うのだよ神殿騎士とは! って感じ。
そう、地獄だった。
地獄は、ここにもあった。
「これが、スタンピード……」
はじめて見た。足が震える。
セシルはファティマ様に抱きついて、あたしたちどうなっちゃうの? って半泣きだ。かわいそうに。こんな地獄、こんな小さな女の子が見るものじゃない。
そう考えて自分を鼓舞して……そしたら、だんだん腹が立ってきた!
大体何なのあのボンクラ(敬称すら略)、出発前からグダグダグダグダワガママばっかり! 今日の今日、今朝の今朝で気が向いたからっていきなりしゃしゃってくんな! ポイズンビー1匹殺せば千疋屋(by.姉。千疋屋って何って聞いたらお姉ちゃん、はて何やったやろ、ってなってた。お姉ちゃんキレものなんだけど時々そんな素ボケかます)じゃなくて1000匹や、って、常識でしょ⁉︎ 学園の1回生の生物学で習うよね⁉︎ 4回生からは騎士科魔術科の人はもちろん、武術体術剣術魔術選択科目の人は実習前にさんっざん教師に5寸釘ぐらいのぶっとい釘ドカドカ打たれてから参加するよね⁉︎ 何のために学園通ってんだよだからボンクラトス王子とか呼ばれるんだよ(by.弟情報)。
……でも正直、あの実習は大変だけどオイシイ。王都の学園近くの山林で、4〜6回生混合でパーティー組んで、2泊3日で野営とかするの。それに1回参加するだけで進級に必要な単位がほぼ取れちゃうから、皆当然こぞって参加する。実質3日、準備演習打ち合わせも含めれば1ヶ月かそこら一緒にいればそりゃあ色々ある。思いがけないロマンスとか生まれちゃったりして?
パーティーの組み分けは学園の実技担当教師達の厳正な調整によって決められる。婚約者同士は同じパーティーでが必須。その上で、個々の能力(騎士科なのか魔術科なのかとか、前衛向きの体術剣術なのか後方支援の弓使いなのか魔法使いなのかとか、魔法だったら使用可能ランクはどの程度なのかとか)を鑑みて、回復役はどのパーティーにも必ず1人は入れてとか、家柄年齢も考慮して、高位同士で固まらないようにとか、極端に過戦力なパーティーとか弱小パーティーとかができないように戦力も当分になるように……ってなると、今さらだけど先生達大変だったろうな、って思う。




