その後の神殿 〜マリアver.19〜
それでそう、わたしが5回生だった時の野外実習のケッサクな話、聞きたい?(って誰に聞いとんねんとセルフツッコミ)
その時わたしは、6回生の公爵様(公爵令息、じゃなくて正真正銘公爵家を継いじゃってる人、ね)をリーダーとする6人パーティーの回復薬として参加してた(パーティーリーダーも当然、実技担当の教師陣が決める)。わたし、かぜま(風魔法の略)だけどウィンドヒール習得してたからそれ自体は別に不自然じゃない。でもおかしいよなこのパーティー編成、って内心で首を傾げてた。リーダーの公爵様は『氷の貴公子』とかいう二つ名を持つみずま(水魔法の以下略……ってただ略すより文字数増えとるやないかい!)の名手で、みずまと言えば回復魔法の代名詞。公爵様が回復役と違うの何でわたし? ホンマにわたしでええのんか? って。回復役って責任重大、パーティーリーダーに勝るとも劣らない大役だ。わたしに務まるの? って不安の方が大きかった。
『氷の貴公子』様は理想的なリーダーで、わたし達のパーティーの雰囲気はすこぶる良かった。わたしがはじめ抱いてた不安は霧散して、いざ出陣! の頃にはもう楽しみしかなかった。実際、6人で連携してちょっと強い魔物とか倒した。いい雰囲気で、4回生の子にとっては生まれて初めて(by.本人)の野営の準備に取りかかった頃に、異変があった。
黄昏時の森の中、お花摘み(乙女的表現)から戻ろうとしたわたしは、6回生の女子学生がひとり、あてどなく彷徨ってるのを発見した。彼女はわたしのクラブ活動(手芸部)の先輩だった。わたしは彼女に声をかけた。デリア先輩どうしたんですか、って。彼女はうつろな無表情のままで淡々と、衝撃的な事実を暴露した。何とコーデリア先輩は、彼女の婚約者がリーダーのパーティーから追放されたって!
コーデリア先輩には同じ回生に婚約者がいるんだけど、貴族にありがちな『家同士の婚約』で、そこに本人達の意思はなかった。デリア先輩の婚約者は事あるごとに「地魔法しか使えない地味女」とか「成績しか取り柄のないガリ勉(って何?)」とか散々の言いようで、わたしは先輩から話を聞くたびに怒りで先輩の婚約者の無造作風にキメた俺かっけー的な亜麻色の髪をウィンドカッターで無惨にキメてやりたくなってたものだった。
デリア先輩だってそんな婚約、乗り気じゃなかった。でも先輩のお家は伯爵家で、婚約者は侯爵令息。いくら先輩が嫌だって訴えてもどうしようもなかった。格上の侯爵家からの申し入れだ、断ることなんかできない、婚約は当人のというよりは家同士の契約、破棄なんてすれば家の信用に傷がつく……って耐えてたコーデリア先輩の努力を無にする今回のパーティー追放劇。わたしは怒った。学園所有の山林とはいっても魔物は出る。野営OKな季節を選んで行う実習とは言え夜は冷え込む。危険だってわかってて婚約者をピンで追放? ……ありえない!
わたしは怒りのまま、半ば強引にコーデリア先輩を連れてわたしのパーティーの野営地に戻って、リーダーに頼み込んだ。わたし達のパーティーメンバーにコーデリア先輩も入れてあげて下さい手芸部の先輩なんです、って。デリア先輩は、でも各パーティーに割り振られた食料も薬も人数分しかないしマリアのパーティーの皆様にもご迷惑がとか遠慮してたけどそんなコト言ってる場合じゃない。夜の山の中で女子が1人とか魔物以上の危険だってあり得る。それに実習を途中離脱なんかしたら、協調性に難有りのレッテル貼られて単位も取れない。
『氷の貴公子』様はパーティーリーダーとして改めてデリア先輩に事情を聞いた。デリア先輩が淡々と話す内容に、周囲の空気の温度が徐々に冷えていく。何と何と、コーデリア先輩の婚約者は、同じパーティーのみずま使いの男爵令嬢と浮気してて、邪魔になった現婚約者のデリア先輩を追い出したんだって!
地味な地魔法のお前より癒しの水魔法を使える男爵令嬢の方が役に立つし、お前より2歳も若くて華やかで可愛くて俺の婚約者にふさわしい! とか言って……って何そのテンプレムーブ。みずまの男爵令嬢って4回生だけど学園で知らない人なんかいないぐらいに尻軽で有名なあの子だよね? これだから男爵令嬢は、って、高位貴族の令嬢達に陰口叩かれてるあの子だよね⁉︎ ……ってか男爵令嬢風評被害! わたしも男爵令嬢だけどあんなんと一緒にすな!! 国中の男爵令嬢に謝って‼︎!
つまりコーデリア先輩は、侯爵令息に浮気された挙句、一方的に婚約破棄を宣告されてパーティー追放された被害者、ってことだ。
わたしは怒った。改めて怒った。わたしだけじゃなく、わたしのパーティーメンバー総員怒った。中でも一番怒ってたのはリーダーの『氷の貴公子』様だった。二つ名の通り、周囲の空気を凍らせて(比喩じゃなく物理で)、うつろな無表情だったデリア先輩がやっと涙を流せた瞬間、地面から氷柱が立った。怖かった。




