その後の神殿 〜マリアver.16〜
翌日、安息日だからって油断して朝寝を決め込んでたら、わたし付の巫女さんに叩き起こされた。
何と、今日のドサ回りじゃないや浄化任務にクラトス第二王子が飛び入り参加することになって、聖女は全員強制参加とのお達しだ、って。朝ごはんとか言ってる場合じゃない。洗顔もそこそこに巫女さんに手伝ってもらって身支度を整えた。
わたしは、自分が『見習い』の身分なことに感謝した。見習い聖女の正装は略式の簡素なローブだから何とか1人でも着替えられる。これが正式な『聖女服』ってなると大変だ。基本はどっちも白のローブではあるんだけど、正式な聖女の『正装』は、ゴテゴテした飾りやら紐やらがやたらめったら付いてて着方が複雑な上に、重たい。舞踏会のドレスかよってツッコミ不可避な『聖女服』は、明らかに自分以外の誰かの手も借りないと着脱不可と思われる。結局、神殿の聖女システムって、聖女本人の実家のバックアップを前提としたポンコツ仕様なんだな、ってのの象徴が、あの1人では着れなそうな正装の聖女服なんじゃないかとわたしは勝手に考えたりしてる。
わたしを起こしに来てくれた巫女さんがちょっぱやで用意してくれたサンドイッチに未練を残しつつ、コーヒー1杯だけ飲み干して、バタバタと部屋を出た。ちょっとだけ舌を火傷した。
集合場所の神殿前庭には、もうわたしとエスニャ様以外の聖女がスタンバってた。わたしも含めて皆、正装だった。わたしは、第二王子も参戦する現場ならいつもの仕事用の白ローブではまずいですわよ、って忠告してくれた巫女さんに改めて感謝した。
神殿長が珍しく、「聖女全員外出させてその間に何かあったらどうしてくれる、ミランダと平民2人(原文ママ)は元々今日出る予定だったから仕方ないが今日昼お努め当番のナターシャだけでも置いていけ」的な抵抗をしてたが、近衛の人が「クラトス第二王子殿下のご意向です」だけで切って捨ててた。「エスニャはもう学園に登校してしまった。今から呼び戻せと申すか」って、ホントに珍しく神殿長が食い下がってたけど、「そうして下さい。クラトス第二王子の以下略」で、またしても近衛の人にバサーッと切り捨てられてた。今日が安息日のわたしに対する言及はなかった。
学園からとんぼ帰りしてきたエスニャ様を待っての出発だ。呼び戻されたエスニャ様は怒り狂って文句言ってた。第二王子への不敬になりそうなコト延々言ってたけど誰も止められなかった。気持ちはよくわかる。
『現場』までの馬車の席割りは家柄でざっくり分けられた。いつもドサ回りで乗ってる神殿の馬車は『貴族聖女隊』が護衛の神殿騎士と一緒に乗って、あぶれた『平民聖女隊』はテキトーにランダムに空いてるトコに割り振られた。
わたしはあんまエラくない感じの戦闘員の人達と一緒の馬車だった。『現場』で時々顔を合わせるメンツで、そこは安心材料だった。でも、戦闘員仕様の馬車ってほぼ荷馬車の造りだから揺れる揺れる。昨日の夜は深夜までお努めでほぼ食べてなくて、今朝はコーヒー1杯だけの空腹状態で荷馬車に乗ったらどうなるか。……わたしは生まれて初めて馬車酔いを経験した。神殿の馬車って実は贅沢な造りだったんだなって思い知った。
顔見知りの同乗者達は、ものっそ心配してくれた。わたしが、今日はホントは安息日で急遽呼ばれて〜って言い訳みたいな釈明をしたら同乗者達にめちゃくちゃ同情された……ってコレおっさんギャグと違うからね⁉︎
みずま(水魔法の略)持ちの人が回復魔法までかけてくれた。優しい。でも、魔法は馬車酔いに敗北した。現場に着くなりわたしは吐いた。ファティマ様がいち早く気づいて、大丈夫ですかマリア様、って背中さすって魔法かけてくれたけど、光魔法でも馬車酔いには勝てないことがわかっただけだった。
セシルは王宮騎士団の偉い人っぽい人達の馬車から下されるなり、わたし達を見つけると駆け寄ってきて「フ゛ァ゛テ゛ィ゛マ゛さ゛ま゛〜〜‼︎」って号泣。セシルはファティマ様に抱きついてしばしギャン泣き。ファティマ様が、あらあらセシルさびしかったのね、ってセシルをあやしつつ、一応セシルが乗ってきた馬車の中でいちばんぐらいに偉そうな人に何事かがあったか確認してたけど、セシルは行きの馬車内ではそれこそ借りてきた猫みたいに静かにおとなしくしてて、慣れない子連れの行軍でどないしょーって内心オロオロしてたエラソーな人達はとりあえず安心してたって。
わたしはセシルの同乗者達を見て、改めてセシルに同情した(大事なことだから2度言う、おっさんギャグじゃないからね⁉︎)。王宮の戦士達の威圧感、フツーにしててもハンパない。そりゃ子供は泣くわな、って納得。ファティマ様はうろたえる王宮騎士団員らに改めてセシルを面倒見てくれたお礼を言って、セシルには、えらかったわねセシル、ちゃんとお利口さんにしていたのね、って褒めてあげてた。いいなぁセシル、ちょっとそこ変われ。
そしてファティマ様はわたしに、体力魔力が回復するファティマ様ブレンドの薬膳ハーブティーを勧めてくれた。もちろん全力で断った。即答だった。多分今アレ飲んだら即座にまた吐く。




