その後の神殿 〜マリアver.13〜
「でも、結婚できる年って、学園卒業の18歳からですよね?」
わたしは素朴な疑問を口にした。ファティマ様はアルカイックスマイルのまま、またしても事もなげに言った。
「それまでは養女という形で送り込み、娘が成人するのを待って婚姻を結ぶ。よくある手ですわ。もっとも、件の準男爵は加虐趣味がお有りの方でしたから、歴代『養女』は皆、成人を待たずに『病死』なされているそうです。
その娘もあのまま売り飛ばされていたら、他の娘達と同じ道を辿ったのでしょうね」
「何て酷い……」
思わずナターシャ様の口癖が口をついて出た。ファティマ様が気づいて、あらあらマリア様にナターシャ様が取り憑いておられるわ、と、冗談めかして取りなしてくれて、深刻な雰囲気は霧散した。
「かような事情からかの方は、身辺には気をつけるようにと警告して下さいましたが、私達聖女は『掟』で他者を攻撃することを禁じられております。自力で自身を守れないのは歯がゆうございますわね!
ただ、救いのようなものがあるとすればやはり第二王子の性癖でしょう。……『ババアは好かん!』、これ、クラトス殿下の口癖なのですって?」
「あー! そう言えば弟も言ってました!」
現在17歳の第二王子、前々から年上の女性は皆ババア呼ばわりで女子(特に、上級生)のヘイト買ってるって。心ある男子だって、自分の婚約者を一緒くたにババア扱いされりゃそりゃ怒る。母や姉妹がいる男子だって何じゃそりゃってなる。まともな人は第二王子と距離を取る、って、こういうとこから既に始まってたってことだ。
「国王陛下もそういう思考のお方だそうですわね。陛下と正妃様があまり仲がよろしくなさそうなのは、マイカ様が陛下より少しばかりお年が上だからという側面もあるのかも知れません」
「何ですかそれ⁉︎ 自分のチョンボで無理やりお妃にしといてその言い草! ありえないんですけど⁉︎」
「まったくですわ。私もマリア様に全面的に同意致します。この国は正妃様と第一王子で保っているようなものですのに」
出ました、ファティマ様の第一王子推し! ファティマ様のその第一王子に対する全幅の信頼みたいなの、一体何処から湧いて出てくるの?
でも、この国が正妃様で保ってるは完全同意だ。おばあちゃんもよくそう言ってた。親も親なら子も子やわ、もうアカンねこの国、の後に決まって、ホンマにマイカ様が正妃でよかった、マイカ様がおらんようやったらこの国どないなってたろ、で、シメるおばあちゃん。元気かな。会いたいな。
「差し当たって私達は、第二王子の動きに注意し極力ひとりにならない、その程度の対策しか取れません。
単純に、第二王子の思考の癖からして、私を含めて成人済の聖女はどうにか無事でしょう。そして、『平民は虫ケラ』呼ばわりもなさる第二王子のことですからーー」
「あぁー! そうそうそれも弟が言ってました‼︎」
正確には、「高位貴族じゃなければ人じゃない!」だ。弟曰く、貴族学園のほぼ半数以上の学生に喧嘩売ってるみたいになってたって。それでいて、カネ持ってそうな人には子爵令息だろうが男爵令息だろうがハエみたいにたかってくるんだからスカみたいなやっちゃ。……っていっけない、おばあちゃんの口癖がうつっちゃった!
「ーー第二王子のことだけに関しては、セシルもおそらく無事ですわ。
私がとりわけエスニャ様が心配だと申し上げるのは、そこなのです。できる限りおひとりにならないようお守りして差し上げたいのですが、エスニャ様は神殿でのお努めはほぼ免除されている形ですから……」
「フルで絶賛お努め大出血サービス連日続行中のわたし達には無理な相談ですよねー」
「えぇ、その通りです」
ファティマ様は思案げに頷いた。




