その後の神殿 〜マリアver.12〜
「エスニャ様は、と申しますか、貴族学園在学中の聖女は、様々なお努めの免除を受けていらっしゃるでしょう?」
「ですね。わたしは卒業を待ってから神殿入りしたんでイマイチよくわかってないんですけど」
神殿入りのタイミングには厳密な決まりはない。わたしの場合はホントに卒業間近だったから、少し待ってもらえてからの神殿入りだった。
「でもエスニャ様って、朝の『お努め』がせいぜいで、『現場』なんか行ったこともないんじゃないですか? 護符の作成とかだって、レポート書かなきゃだから〜とか言って平気で『平民聖女隊』に押しつけてくるし⁉︎」
「あらあらうふふ、『平民聖女隊』とはまた言い得て妙ですわね」
ファティマ様は、わたしが勝手に発足させた会について、くすぐったそうに笑って認可をくれた。でも次にはすぐに思案げな表情になって、言った。
「第二王子が、というより、王座には聖女の血が不可欠だ派とでも申しましょうか……とにかく、『聖女』にこだわる派閥の方々の中でも穏健派とされる方の中には、第二王子の妹姫のクラリス様を推す動きもあるそうです」
「クラリス第一王女ってまだ13歳じゃないですか!」
「貴族学園の1回生におなりなのでしょう? 早過ぎるということはございませんわ。国王陛下と同じの金髪と、側妃様によく似た緑の目。側妃様譲りの華やかな容貌の美少女で、お年の割には聡明な王女様でいらっしゃるとか。
ラウスさ、っコホン、クラウス第一王子と正妃マイカ様が何くれとお世話をなさっていらっしゃるそうです。今のまま、第二王子と側妃様を反面教師になさって真っすぐ健やかにお育ちになれば、いわゆる『聖女派』も矛先を収めるやも知れません。
ただ、梯子を外される形になったとしたら、第二王子はどうでしょう? 何しろアクティブお馬鹿ですもの。エスニャ様にその気がなくとも、既成事実さえ作ってしまえば……等と邪なお考えをお持ちになるかも知れません」
「えー? エスニャ様も案外、満更でもないんじゃないですかー?」
この時点でわたしは(というか、わたし達は)エスニャ様が本当に王命で第二王子とくっつけられそうになってたのを知らなかったから、本気でそう言った。ファティマ様は、そうでしょうかしら、と、控えめに異を唱え、ひた、と、わたしを見据えて早口で囁くように告げた。
「狙われているのはエスニャ様だけではありません。マリア様、あなたもですよ」
「まさか! わたしなんかそんな! わたしなんか限りなく平民に近い……」
「いいえ」
ファティマ様は儚く首を振り、続けた。
「家柄云々ではなく『聖女』であることが重要なのです、彼らにとっては。
いえむしろ実家が筆頭公爵家のミランダ様や、現側妃様の遠縁のエスニャ様の方が、実家の守りがある分マシかも知れません。
『聖女の血』は王家だけでなく、高位貴族は特に例外なくと申し上げてよい程に欲せられております。あなたも、私もセシルも、あるいはナターシャ様も、国王と神殿長の思惑次第でとんでもないお家へ売り飛ば……嫁がされる恐れは多大にございます。国王陛下はあの通りのお方でいらっしゃるし、神殿長はお金が大好物ですものね!
ある筋からの警告によりますと、クラトス第二王子は現在母親、側妃様に汚名返上をせっつかれていらっしゃるとのこと。追い詰められたアクティブお馬鹿さんは何をしでかすかわかったものではございません。
『既成事実』は何もエスニャ様でなくともよいではないかと第二王子が気づいてしまったら? あるいはクラトス殿下のお取り巻きや『聖女派』の中でも過激派と称される第二王子派の方々に何か吹き込まれでもしたら? ……身辺にはこれまで以上に気をつけるように、と、かの方は仰せでした」
「そんな……わたし達はとにかく、セシルはまだ7歳ですよ⁉︎」
気色ばんだわたしにファティマ様はアルカイックスマイルで事もなげに言った。
「世俗では、幼女に近いくらいの年齢の少女がお好みという性癖の殿方もいらっしゃいますわ」
「……」
「12になるやならずやで還暦過ぎの準男爵に無理矢理売り飛ばすような形で嫁がされかけた子爵家の娘の話をご存知ではなくて?」
「いいえ……」
そんなことがあるなんて……セシルの言い草じゃないけど、貴族って怖い。




