魂鏡六六、その時の彼ら
「うわ……明里のやつ、えげつない技持ってんなぁ……」
燈里は、明里が放った光弾が凶鳥フレースヴェルグの肉体を抉っていくのを後ろ手に見ながら呟く。
「あの技で藤井が空に輝くお星様みたいに飛んでいったのは壮観だったなぁ……」
「ああ、猿渡も藤井と戦ってくれたんだっけ。
もう身体の方は大丈夫なのか?」
「あの時はやられちゃったけどね。すぐに治ったよ。
やっぱり、この身体になってから、怪我の治りとか早くなった気がする」
「『ムーンディスク』にそういう力があるのかもな……」
「うん、そういう感じするよね……」
惰性で飛びながら二人がそんな会話をしていると、フレースヴェルグが怪我を押して自爆特攻をかました。
「なっ……猿渡、戻れ、戻れ!」
「えっ? うん……ええっ!?
そんな……ビルが……」
燈里の目には、屋上で慌てふためく明里と莉緒、身体の大部分を中央研究所ビルに埋めるフレースヴェルグが見える。
猿渡が急旋回して、フレースヴェルグに向かおうとするが、そのフレースヴェルグは力を失ったように元の人間態である白鳥彩に戻って行く。
ビルは半壊したものの、これ以上フレースヴェルグが暴れることはなさそうだと、安心したのも束の間、燈里は中層部分で瓦礫に埋もれる直居教授たちを見つけてしまう。
「猿渡! あれ! 真ん中らへん!
直居教授や他の皆が!」
「え!」
「ヤバい、助けるぞ!
猿渡は俺を降ろしたら、明里と莉緒をこっちまで連れて来てくれ!
瓦礫に挟まれてる人もいる」
燈里の目には、作戦指揮所になっていた『MD研究室』周辺で、次々と離れ行く魂が見えていた。
猿渡が完全に止まる前に、猿渡の背中から降りると、すぐに【霊搗の大杵】を呼び出す。
それから、手当り次第に離れ行く魂を叩いて戻していく。
「すぐ、二人を連れて来るから!」
猿渡が慌てて上昇していく。直後に「わああああ……」と言いながら男が高桑に投げられて、打ち上がって来たが、それどころではなかった。
一方、左前は『魔凱着奏』して半透明の死神の姿で、泥田坊である田丸を追っていた。
田丸は拳ひとつ分ほどの泥の塊となって、本能のままに、うぞうぞ、と動いていた。
凍った田丸の泥田坊を見つけて、左前が【死神の鎌】を振るうも、魂はそこになかった。
左前は、何らかの形で逃げたと悟って、痕跡を探す。
道路の片隅にこびりついた泥を見つけて、ソレが向かった方角を推理する。
捜索範囲を拡げて、あちらこちらを飛び回る。
田丸の移動は意外と早かったのか、思わぬ所で時間が掛かった。
ソレを見つけたのは、随分と後、浮島西の水田区画まであと少しのところだった。
───田んぼ……田んぼ……───
田丸の意識はほとんどなく、ひたすら田んぼを求める矮小な生物と化して、その泥は進んでいた。
死神が実体化していく。
「哀れだな……おやっさん……」
ぐしゃり、骨の足が泥の塊を踏み潰した。
───田……───
田丸の意識は更に小さくなって、踏み潰された塊の中で一番大きく残った、消しゴムほどの塊で、ナメクジのように動いた。
左前が進行方向に差し出した手に、消しゴムほどの田丸の意識が乗り越えようと動いていた。
手の上に乗った泥を落とさないように気をつけながら、左前は変身を解いて研究所に向かう。
「殺すのも忍びない……このまま幽閉させてもらう……」
左前は、いつか全てが終わってからの復活を考えながら、田丸のおやっさんを運ぶのだった。
左前が中央研究所まで戻った時には、全てが終わった後だった。
『MD研究室』ですぐにでも動けるようにと準備していた高見班、下総班、榎田、直居教授などは軒並み重症で、『ムーンディスク』保持者として待機していた義己と叶和はごく軽傷、燈里は左前が着く頃には力を使いすぎたとかで気絶するように眠っていた。
その場では一番地位が上になってしまった左前は、中央研究所のすぐ近くにある宇宙港管制センタービルの一画を間借りする形で、新しい作戦指令室とした。
それから、左前は『MD研究室』としての声明を出した。
それは、『マナガルム』によるテロ事件への言及と過度の混乱を避けるために暴走者の情報は伏せられたまま、浮島区民への外出自粛を呼びかけるものになった。
結果として、首藤さんの予言は成就したことになるのだった。




