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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡六五、人間


 ミーミルの首、仏の御石の鉢であると目される首藤さんの予言により、『マナガルム』の強襲に備えていた『MD研究室』の面々は、もちろん油断していた訳ではない。

 しかし、明里の相性を利用した作戦に魅入ってしまっていたのも事実だ。

 田丸のおやっさんこと泥田坊の撃退劇に始まり、凶鳥フレースヴェルグへの連携した一撃、思わず勝ったと思っても無理のない話ではあった。


 白鳥の最後の悪あがき、中央研究所ビルへの自爆特攻とも言える一撃は、誰もが予想外の出来事だった。


 『MD研究室』の切り札、ニーズヘッグの下根と死神、左前。

 左前は田丸を探しに行っており、下根はフレースヴェルグに備えていた。

 また、その他の人員、狼男である外村、変身ブレスを受け取った女性職員、さらにはミノタウロスの義己、猫人間である叶和などもビル内で待機していた。

 一番被害を受けたのは『MD研究室』の面々で、中層で指揮を取っていた直居教授をはじめ、いつでも動けるようにと待機していたほとんどの人員が、フレースヴェルグの自爆特攻に巻き込まれ、瓦礫の中に沈んだ。


 下層で待機していた下根と左前班だけが被害を免れており、自爆特攻後の高桑たちの動きに対応できたのも、下根と左前班だけだった。


 下根と左前を除く左前班はビルの揺れが収まってから、直居教授の指令も報告もないことに気付き、ようやく外に出た。


「貴様ら、『マナガルム』だな!

 全員、拘束させてもらう、動くな!」


 左前班の外村が警告を発する。


「おっと、いいのか?

 ここにいる連中は、『ムーンディスク』をまだ持ってない一般人だぜ!

 お前らが変身してひと撫でしたら、死んじまうし、電気ショックだって、下手したら死んじまうかもな!」


 高桑が楽しそうに言う。


 上層から落とされた暴走者は、下根の毒によって半ば夢現ゆめうつつの状態で、高桑の周りは、高桑曰く一般人が固めている。

 高桑が受け止めなければ、暴走者は上層からの飛び降りで死ぬし、高桑の言う通り一般人に変身後の力でぶつかれば、一般人は死んでしまう可能性が高い。

 それは『MD研究室』としては避けたい事態だった。


「ぐぬぬぬぬ……卑怯なり、『マナガルム』!」


 下根も変身できず、外村も変身できず、左前班の面々も電磁ネット砲を握りしめながら、動くに動けなくなっていた。


 高桑は受け止めた暴走者の首輪を引きちぎると、適当にそこらに放り出す。


「『マナガルム』が助けに来てやったぞ。

 上手く逃げ延びたら、俺たちを探せ!

 新しい生き方を教えてやる!」


 暴走者はまだ下根の毒が回っているのか、ふらふらしている者が大半だが、高桑の「逃げろ」の言葉に従って、どこかへと走り出す。


 暴走者を止めようと左前班の一人が電磁ネット砲を構えると、そこに一般人の『マナガルム』が飛び出す。

 そうなると、撃てない。

 動きを止めた瞬間に別の一般人『マナガルム』が職員の電磁ネット砲を奪おうと襲い掛かる。

 そうして、揉み合いになる内に一人、また一人と暴走者が解放されていく。


 上層から投げ飛ばされた『マナガルム』が声を上げる。


「いました!

 犬塚先生です!」


「おーし、投げろ、投げろ!」


 高桑が答えて犬塚を確保した。


「おし、お前ら、ずらかるぞ!」


 高桑が犬塚を抱えて逃げ出した。


「ちっ! 逃がすか!」


 外村は高桑の方に移動しようとするが、そこにはまたも一般人の『マナガルム』が立ちはだかる。


「なんで……あんたは人間なんだろ?」


「なんで? 当たり前の話だよ。

 『ムーンディスク』をばらまいたのはアンタらだろ。

 そのせいで国はこの浮島区を見捨てた。

 となりの家の奴が拳銃を持ってて、不満があるとすぐその拳銃を抜くんだ。

 なら、俺も拳銃を持ってなきゃ対抗できないだろ。

 アンタらが俺に『ムーンディスク』を渡さないなら、非合法だと言われたって、『ムーンディスク』をくれる奴に協力する。

 もっとも、『ムーンディスク』を独占しようとするアンタらには、非合法に映っているだけで、俺たちは当然の権利だと思ってるけどな!」


「国は浮島区を見捨ててなんかいない。

 その証拠に救援物資が届いているだろ。

 『ムーンディスク』の保持者になったっていいことなんかないぞ」


「救援物資?

 空から投げ落とされるアレが?

 あれは飼い殺しにするための餌だよ。俺たちがその程度のことも分からないとでも思ってるのか?

 橋を塞ぐ自衛隊はなんだよ?

 俺たちを外に出さないための檻だろ。

 きっと外の奴らは、俺たちが勝手に死ぬまで待ってるんだ!

 臭い物に蓋をして、それが風化するまで待ってるだけだろ!

 でも、犬塚先生は言ってたんだ!

 これから、『ムーンディスク』保持者こそが新人類になっていく。

 『ムーンディスク』を持つ者と持たざる者が分けられて、淘汰の時代が来る。その時、生き残れるのは力を持つ側だ。そうだろ!」


「違う!

 今の『ムーンディスク』騒動は一過性のモノに過ぎない!

 俺たちは『ムーンディスク』を過去の大事な記憶として取り扱うべきであって、そのために『ムーンディスク』を安全に取り除く研究だってしてる。

 記憶の中の技術を使えば、医療やエネルギー問題に革新をもたらすかもしれない。だけど、それを争いに使うのは、本来、間違った使い方だ。

 淘汰の時代なんて、俺たちが起こさせない!

 そのための『ムーンディスク研究室』だ!」


 一般人の男は半壊した中央研究所のビルを見やる。


「アンタらはそうやって世界の英雄になりたいんだろうよ。

 だが、この壊れた研究所で何をするって?

 無駄だよ。淘汰の時代は来る。

 この浮島区を見てみろ!」


「あんたこそ、ちゃんと見ろ!

 今だって『直居覚醒』から戻れなくて苦しんでる人たちがいる。

 『ムーンディスク』は諸刃の剣なんだぞ!」


「それは持ってる側の言葉だよ……。

 拳銃持ってる側の理論なんて、何時だってそうだ!

 騙されないぞ!」


 たしかに、外村は持っている側だ。しかも、衝動に苦しんだが、それを抑える術さえ持っている。

 ちら、と自分の変身ブレスに目をやる。


 男が語ったのは、『MD研究室』への不満だったのかもしれないが、外村にとってのそれは、自分自身への投げかけとして響いてしまった。

 国同士の対話だって、核兵器を持つ側と持たない側に別れている。

 冷戦を経た今だって、数を減らしても無くなりはしない。

 それは発言力のバックボーンとして、たしかに存在している。

 外村は、それ以上の言葉を持てなかった。


「行け……いつか、俺たちが証明する……。

 今は無理でも、淘汰の時代は起こさせない。

 それだけは何がなんでも実現する!

 それから、もう一度、話をしよう……」


「言ってろ!」


 そう言って男は去っていった。

 外村は自身の『ムーンディスク』を無くさない限り、男を説得するのは無理だと悟ってしまった。


 そうして、この日、後に凶鳥事件と呼ばれる日に、犬塚含む、十三名の暴走者が脱走したのだった。


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