魂鏡六三、予言
「ピンポンパンポーン! 中央研究所にて大規模な汚損事故が発生しました。問題は地下の水流ポンプの破裂と見られ、これに伴い、地下の隔離要員二十数名が行方不明になったと見られ、『MD研究室』から非常警報が発令されました。一般市民の方は家屋内での待機を願います。
もし不審人物を見掛けても、話しかけたりせず、、冷静に隠れて、一定以上の距離が離れてからの通報を願います。
隔離要員は『ムーンディスク』による暴走者のため、危険ですので近づかないようお願いします。
以上、『MD研究室』からの緊急警報でした。ピンポンパンポーン!
ううむ……やはり、電波キャッチしかできないようです……予言できるかと思ったのですが……」
首だけの首藤さんが、悔しそうに転がった。
「……いえ、首藤さん。私のところにそんな連絡は来ていませんよ……それは、たぶん、予言です」
「え? ただのニュース速報とかではなく?」
「はい。もしかして、首藤さんがキャッチしていた電波というのは、未来の電波なのでは?」
「たしかに、天気予報は外れたことはありませんが……どこかのニュース番組の電波をキャッチしているだけかと……」
普段、首だけの首藤さんはテレビのリモコンなどの操作が億劫すぎて、テレビを見ない。
これは、携帯なども同じである。
見なくても、電波キャッチできるので、必要性を感じなかった故の勘違いが起きていたらしい。
「それが、未来から来ているのでは?」
「では、私はそのミーミルの首というやつなんでしょうか?」
「ええ、おそらくは……ですが、今、大事なのはそこではありません。
もし、首藤さんが捉えているのが、本当に未来の電波なのだとしたら、近々に大変なことが起きるということです」
「あ……そ、そうですよ!
このままでは、『ムーンディスク』の暴走者たちが……」
「取り急ぎ、地下で事故が起こることは分かっていますから、暴走者たちを別の場所に移動するよう、連絡してきます」
そう言って直居教授が病室を慌ただしく出ていく。
「これで予言が変わればいいはずですよね?
もう一度、やりますから、聞いていてもらえますか?」
言って、首藤さんはまた、「うむむ……」と唸り始めた。
燈里と明里は、息を飲んで見守る。
「ピンポンパンポーン! 中央研究所にて大規模なテロ事件が発生しました。問題はテロ組織『マナガルム』の犯行と見られており、研究所上空では巨大な鳥の『ムーンディスク』保持者も目撃されています。
今回の凶行は、先日捕らえられた『マナガルム』幹部、犬塚信二奪還のためと目され、関係各所へのテロ攻撃の可能性が高まっております。
これに伴い、浮島区役所と宇宙開発公団から、区民の皆様への外出自粛のお願いが出されており、区民の皆様におかれましては、不要不急の際の外出はお控え下さいますようお願い申し上げます。ピンポンパンポーン!」
二人と一首は顔を見合せた。
そんな中で、第一声を放ったのは燈里だった。
「これって改善されたと言っていいんでしょうか?」
「緊急警報が外出自粛になったんだから、改善されたんじゃない?
テロ事件になったけど……」
明里は言いながらも釈然としない顔をしている。
「少なくとも、今までに捕まった暴走者が逃げ出す事は防げたのではないだろうか?」
首藤もそう言い訳するが、暗い未来を考えれば、安易に改善したとは言いきれない様子を見せる。
燈里は頭の片隅にこびりついた嫌な考えを吐露するように言う。
「もしかしてですけど……もしかして、最初の水流パイプの破裂自体が『マナガルム』の仕組んだ事故だとしたら?
だって、おかしいですよね?
最初は事故で暴走者が逃げ出して、次はテロ事件なんて……」
「私の予言が、そのまま未来の電波を受信しているとするなら、その可能性は大いに有り得る。
最初はテロだと気付けぬまま、暴走者を逃がしてしまい……事故として片付けられ……直居教授が暴走者を移動させた結果、テロ組織側が強行手段に出たのだとすれば、事態の先延ばし、変化したとも考えられる……たしか、『マナガルム』の幹部と目される人物に泥田坊のような土と水を操る人物がいたのではなかったか?」
もし、そうだとしたらという前提の元、首藤さんが語る。
「……あ、おやっさん。榎田さんたちが、おやっさんと呼んで慕っていた公団の人が、裏切ったんじゃないかって話をしていて……その人なら中央研究所の内部事情にも精通していたりしませんかね?」
燈里が疑問を呈する。
「宇宙開発公団はこの浮島区の要だが、たしかに今の状況で一枚岩とは行かないのかもしれんな……」
がらり、扉が開いて直居教授が戻って来る。
「すまないね。取り急ぎ、地下の暴走者たちの配置換えだけは指示したが……」
「それどころじゃ済まないかもしれんよ、教授」
首藤さんが言うのに、燈里も慌てて報告する。
「改めて首藤さんが予言をしたら、『マナガルム』からのテロ攻撃という風に変わってしまって……」
「もしかしたら、最初の水流パイプ事故も、おやっさんと言われる人がわざと起こしたテロ攻撃かもしれないって二人が……」
さらに明里が追随すると、直居教授は目を白黒させる。
「どういうことか、詳しく教えてくれないか?」
三人がかりで説明すると、直居教授は考え込んでしまう。
「なるほど……たしかに有り得る話だ。
水流パイプは生活用水を賄うためのパイプで、それが破損したからと、汚損事故になるというのも怪しい……それが『マナガルム』側の攻撃だと気付かなければ、当然、事故として処理するだろう。
しかし、おやっさんの知る地下収容施設から暴走者を動かした今となっては、『マナガルム』側が強行手段に出ることは充分に考えられる……。
こうなれば、迎え撃つ準備をするしかないか……場所は限定できているのなら、被害を最小限にするのが我々にできる唯一の選択肢か……」
「相手も分かっているなら、相性の良い『ムーンディスク』保持者をぶつけるのも手ですよね!」
明里が、ニヤリと笑う。
「まあ、それが道理ではあるが……」
「大丈夫です。ウチの学校の風紀委員会に、相性が良さそうで戦い慣れている人材がいますよ!」
「それは、助力してもらえるなら、有難い限りだが……」
直居教授は躊躇しつつも、それができるならどれほど有利かと考える。
「私に任せてください……ふふふ……」
明里は黒く笑うのだった。




