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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡六〇、入院


 燈里は宛てがわれた病室で、輸血を受けている。

 体内の毒を全て血に乗せて吐ききるまで輸血は続いた。


 当初は、ズタズタになっている内臓を何とかするべく、開腹手術も行われたが、『ムーンディスク』保持者の肉体というのは常識が通用しない。

 開腹した時は輸血も同時に行われていたため、医者は神秘を目撃することになる。

 内臓が正常で、それがどんどん黒く腐り、毒素を含んだ血が溢れ出す。

 それを慌てて吸引すると、元の正常な内臓に勝手に戻る。その内に開腹して押さえているにも関わらず、腹の傷として開腹した部分が治っていこうとする。

 医者曰く、手の施しようがない、勝手に腐って、勝手に治るモノに医学が必要だと思えない、という話だった。

 しかし、失った血を戻すのは輸血の方が早いらしく、ただ輸血して見守るだけということになった。


 燈里が輸血した血をようやく吐き戻さなくなった頃、今度は、カサカサに干からびた肌が問題になった。

 今は輸血が点滴になり、少しずつ肌つやも良くなって来ている。


 ほんの十二時間程度の話である。

 一応、他に問題が起きていないか、経過観察をするということで、あと一日は入院することになっているが、検査時間以外は暇である。

 燈里の母親が、手術時に駆けつけ、見守ってくれたらしいが、医者から「手術は失敗でした」とにこやかに言われ、その後の説明で事なきを得たが、入院の準備をして朝イチで病院に戻ってきた時は、すでに燈里はケロリとしていた。

 朝から燈里は、母親がいかに心配して、どれだけの精神的乱高下があったかを愚痴られ、無理やり入院用の諸々を準備して戻ってみれば、明日には退院と言われ、ホッとしたり、憤ったり、どうしたらいいか分かりません、と嘆きを聞かされ、どうにか母親を宥めて帰したら、朝の九時だった。

 採血、レントゲン、MRI、などの検査を経て、午後には暇になってしまった。


 病院内は『ムーンディスク』保持者たちも入院していて、騒がしい。


 直居教授が『MD研究室』を代表して、お見舞いに来た。


「なかなかの死闘だったみたいだね……」


「いやあ、自分、不死身らしいんで、苦闘って感じでした!」


「不死身……それは頭の中の声が?」


「また、勝手に僕の口を乗っ取って喋ってました」


「ふむ、やはりムーンディスクと少し違うんだろうか……」


「いえ、観察中の橙山のムーンディスクも喋ってましたから、別の要因かもしれないです」


「そうなると、中に入っている幻想生物の差だったり、はたまたシンクロ率的な話か、ただ単に相性みたいなものだったりするのかもしれないね……いや、それより、不死身なのかい?」


「そう言ってました。『ヒトツミニ、フタツタマシイ』だから、どちらかが死んでも、もう片方が分け与えるとかなんとか?

 あ、そういえば少し思い出したことがあるんです」


「なんだろう?」


「僕がギョクトと出会った時というか……」


「それは興味深いね」


 燈里はその時のことを話し始める。

 熊に襲われそうになったこと、兎に助けられたこと、その時、兎はディスクではなく、実体を持っていたこと。


「……つまり、肉体が融合した?」


「……だと思います。

 僕の胸の辺りに乗っかっていたので……」


「直霊覚醒時に吐いた血から穀物が育ったという話、普段から傷の治りが早いという話、その辺りはもしかすると君の特性なのかもしれないね。

 情報の再現ではなく、肉体の融合だからこそ、様々な特性が出るのだとしたら、普通のムーンディスク保持者より、そういう傾向が強い可能性はある……」


「おお、特別感が増しました!」


「まあ、仮説だけれどね。

 ……そういえば、君の父上、望月教授と少しだけ話したんだ」


「父と……」


「PC上でお互いの情報交換を兼ねて少しだけだけれどね。

 実に聡明で思慮深い方だね。

 監視の目があることと今後の連絡方法を提示して下さったよ。

 普通の資料に暗号として仕込んで来たんだ。

 これで国の方針が知れるよ、ありがたい……」


「父が……」


「うん、心配なさっておいでだったよ。

 あまりに必死なものだから、君がウチに所属してくれていると言い出せなくてね……申し訳ない」


「いえ、伝えるべきことは、いつか自分で、と思っているので、大丈夫です!」


「う、ん……そうか。

 そうだね、お父上との連絡方法が確立したら、いつでも繋ぐからね」


「ありがとうございます」


 『アースディスク』と呼ぶべきギョクトの問題もある。

 父親には自分の口から伝えるべきだと燈里は思うのだった。


「ああ、そうだ!

 ここに首だけになってしまった『ムーンディスク』保持者が入院することになってね。

 ぜひ、一度会ってみて貰いたいんだが……」


「それは、ミーミルの首の?」


「まだ分からないんだ。つるべ落としかもしれないし、飛頭蛮の可能性もある……それ以外の未知の『ムーンディスク』の可能性もね。

 ギョクト様なら見分けがつくんじゃないかと期待しているんだが……」


「それなら、橙山明里(とうやまあかり)も呼んでいいですか?」


「ああ、例のかぐや姫だね。もちろんだとも」


 燈里は携帯を使って、明里に連絡を入れる。

 今の時代は携帯電波が医療機器に与える影響はないとされている。

 それでも大声で電話したりすれば、当然、忌避される。

 だから、燈里はメッセージで連絡を取った。

 授業中、とはいえ自習だったのだろう。

 返事はすぐに来た。

 時間を決め、直居教授に伝える。

 自由が効く身なのだろう。直居教授はすぐに了承の意を示した。


 では後ほどと、直居教授が去っていく。


 途端、燈里は暇になってしまった。

 仕方が無いので、散歩でもするかと燈里は病室を出るのだった。


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