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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡五七、トロウル


 燈里は目の前の巨人と対峙しながら、どうしようかと思案する。

 巨人の攻撃は食らったらマズいというのは分かる。

 燈里の『直居覚醒』の性質上、怪我は治るが、一撃で死んだらどうなるか分からない。試したことがないからだ。

 それに大怪我もマズい。治るのに、それなりに時間が掛かるからだ。

 燈里最大の攻撃〈と本人が思っている〉である、相手の餅化も巨人相手ではどこまで効果があるのか分からない。

 高桑は燈里を侮っていたから、好き勝手殴らせてくれたが、この巨人はそれも難しそうだと感じる。

 そうなると、正直、燈里には打つ手がない。


 ギョクトは嫌がるかもしれないが、魔凱に変身するか、と考える。

 軽装鎧でも防御面は格段にアップするし、餅化攻撃も時間を掛ければなんとかなるかもしれない。


 ボゴォッ! コンクリート壁を打ち壊す衝撃が燈里の真横に打ち込まれる。

 もちろん、燈里が避けた結果ではあるが、やはり、純然たるパワーの差を感じる。


「『魔凱着奏』ニャ!」


 アラビアンな音楽が流れ、巨人に対して横殴りに入ってくる影がある。


「望月、助けに来たよ!」


 魔凱を着た叶和と青龍偃月刀を構えた龍人、莉緒が騎兵隊の如く現れた。


「やったぜ! マジ助かる!」


「おーい、俺わい!」


 一人で魔凱を着た犬塚の相手をしている義己が、俺にこそ助けが必要だと、声を上げる。


「黒木って、助け必要?」


「マジか!?」


「冗談ニャ! ちょっと待ってるニャ!」


「おう! ま、倒してしまっても良かろう、だよな」


 義己も気が大きくなったのか、軽口を叩く。


「勝てるつもりか?

 智器照臨、【ガルムの火(ガルムカノ)】!」


 あからさまに苛立ちを見せた犬塚が黒犬の兜から炎を発する。


「うおっ! くっ……あちぃな!

 勇器来臨【ミノスの戦斧(ウォーアックス)】!」


 義己が頭に響く声をそのまま出す。

 巨大な長柄の両端に刃がついたダブルアックスと呼ばれる武器を生成する。


「ぬおうりゃ!」


 ミノタウロスが戦斧を回転させる。

 戦斧は犬塚の炎を巻き取り、霧散させる。


「おお、コイツはいいぜ!」


 戦斧は義己の手に良く馴染んだ。


「義己ちゃんには、本当に必要なさそうニャ」


「そう思うなら、こっち手伝ってくれって!

 愛器光臨、【霊搗(ひつ)大杵(おおきね)】!」


「任せなさい!」


 莉緒の青龍偃月刀が巨人の全身に無数の傷をつけた。


「う゛があああああ!

 勇器来臨、【妖精のこん棒(フェアリーズスタッフ)】」


 血塗(ちまみ)れになった巨人だったが、傷が瞬く間に塞がっていく。

 そして、そのの手に巨大な丸太が生成される。


「『妖精の杖(フェアリーズスタッフ)』ニャ〜?

 それは、あまりに荒々し過ぎるニャー?」


「う゛る゛ざい゛!

 よ゛う゛ぜい゛の魔法を゛見ぜでや゛る゛!

 智器照臨【妖精の霧(フェアリーズフォッグ)】!」


 ぶおんっ! 妖精のこん棒が振られる度に、霧が生み出され濃くなっていく。

 その霧は視界を塞ぎ、一メートル先も見えない程だ。


「犬塚ざん゛、い゛っで!」


 霧は濃く深く拡がっていき、犬塚と義己までも包んでいく。


「助かるよ、恵子くん」


 すっ、と犬塚が霧の中へと沈む。


「あ、待て!」


 慌てて義己が後を追うが、魔法の霧は方向感覚をも狂わせるのか、ミノタウロスの何となく方向が分かる能力も役に立たなくなってしまう。


「くそっ! どこだ!」


 義己が霧を巻き上げようと戦斧を回すが、粘つくような霧は一向に晴れる気配がない。


「くっ……叶和、あんただけでも追えない?」


「ダメニャ、走っても走っても、どこにも辿り着けないニャ!」


 叶和の闘争本能に期待した莉緒だったが、それも無駄に終わる。


「うおお、何も見えない!

 犬塚のばーか、ばーか!

 悔しかったら、掛かって来い!」


 燈里は見えないならばと、挑発してみる。


「安い挑発だな……ここまで安直な輩がウチの高校にいるのだと思うと、悲しくなってくるな……。

 どれだけ能力が優れていようと、君が持つのは、宝の持ち腐れというものだ。

 智器照臨、【ガルムの火(ガルムカノ)】、せめて、この場で死んでおけ!」


 過程はどうあれ、犬塚は燈里を攻撃した。

 結果的には、挑発に乗ったのと同じ効果が出ていた。


「いぃっ、そっちから……」


 燈里の予期せぬ方向から炎が来るのを、半分焼けながら、必死になって避けた。

 全身の八割がケロイド状の火傷を負ったが、かろうじて炭化を免れた。


 燈里にしてみれば、死ぬか動けなくなるほどの怪我でなければ良かったのだ。

 燈里が【霊搗の大杵】を手にしている時、燈里には別の視覚が発現する。

 魂を視る目だ。


 上空に向けて奇魂くしみたまを放出しているのは、霧を打ち消そうとしている義己のモノで、同じ所を、ぐるぐると走り回っているのは叶和だろう。

 一か所に留まっている魂がふたつ。

 どちらがどちらか分からないが、おそらくは莉緒と巨人のモノだろう。

 そして、炎が飛んで来た方向。全体から離れていく魂が見える。


「見つけた!」


 燈里は爛れた皮膚が治る間を惜しんで、痛みに晒されながら走り出す。


 ひどい傷だな、かわいそうに……まずは海の水で傷口を洗い流すといい。それから高所に登って、なるべく風を浴びると、すぐに治るぞ。

 大勢の男たちが、まだ無知だった自分にそう声を掛けた。

 未だ若かりし頃、無知で無学で、ただ自分は他の者たちとは違う、知恵が回り、特別な何かだと思い込んでいたあの頃。

 八十神やそがみたちの嗜虐的な笑い声が、自分を侮蔑するものだとすら知らなかった愚かな自分。

 思い出すと荒魂あらみたまが震える。


「勇器来臨、【生太刀(いくたち)・影】」


 それは、自分が薬学を志すきっかけとなった男の影。

 痛みと共に思い出すのは、怒りだけではない。

 長い時の狭間に寄り添い、影から見守った男の持つ宝刀の影打ち。

 あの前世において、自分の生命を分け与えて救った男の、そして、自分を斬り殺した男の持ち物だったモノの影。

 溢れる荒魂を受け止め、それを生命の刃として顕現させる武器でもある。


 燈里は【生太刀・影】を手に、犬塚を追った。


 粘つく霧は、燈里を惑わせようとするが、左手に【霊搗の大杵】、右手に【生太刀・影】を持つ限り、犬塚の魂を見失うことはなかった。


 犬塚が大きく跳んだ。

 それを追う燈里も、大きく跳ぶ。


 霧を抜けた。

 魔凱によって、身体能力を大きく向上させた犬塚は、下総班、高見班の包囲を抜けて近場のビルの屋上に降り立ち、したり顔で振り返った。

 霧を見やって、まぬけどもめ、と思いながら、その場を後にしようとした所で、霧を抜けて来る、ボロボロの兎人間を見つけた。


 一瞬のひるみ。まさか自分を追える存在がいるとは思ってもみなかったのだ。

 だが、その追ってきた存在が黒焦げで半死半生の兎人間だと分かって、気を取り直した。


「なかなかにしぶといじゃないか、望月……」


 燈里が同じように屋上に降り立つ。

 だが、犬塚と違って、その身は焼け爛れて、息も絶え絶えだ。


「ここで逃がす訳にはいかないんですよ、先生……」


「そんな状態で、勝てるとでも思っているのか?」


「まあ、とっておきがあるんで、笑ってて下さいよ……」


「魔凱を無に帰す技だろう?

 瓜生から聞いてるよ。だが、当たらなければ、いや、当たった所で、同じ場所をもう一度狙わないと意味がない。そうだろ?

 そんな、ボロボロの身体でそもそも一発でも殴れればいいがな!」


 犬塚はここで燈里を始末することに決めたようで、ゆっくりと構えを取る。


「見せてやろう、我が勇器来臨!

 【戦神殺し(ユルティール)】!」


 犬塚の手から爪が伸びる。

 その爪はまるで死者の怨念がこびりついた様な毒々しい色味をしている。


「コノ爪ニハ、数多ノ藁ノ死ガコビリツイテイル……オ前二訪レルノハ、栄光アル名誉ノ戦死デハナイ、嘆ケ!

 泣キ叫ビ、喚キ散ラセ!

 ソレガ我ガ腹ヲ満タスト知レ!」


「あーあ、荒魂に耐えられず、暴走ですか……。

 先生を止める理由が増えましたよ!」


 燈里が【生太刀・影】を振るう。

 黒犬の魔凱が【戦神殺し】をそれに合わせ、同時に顔を兎人間へと向ける。


「智器照臨、【ガルムの火】!」


 口から火炎放射が吐き出される。


「またっ! くっ!」


 燈里が下がって、嫌がるように【生太刀・影】を振るう。

 すると、【生太刀・影】は炎を斬った。

 斬ったその場に力場が残っているのか、炎は力場を中心にふたつに裂けていく。


「なるほど……初めてでも使い方が分かるもんなんですね……」


 燈里は自分の斬った炎を眺めて、関心したように呟く。

 どこか頭の隅の方で、ギョクトの声が聞こえる気がする。

 声は遠いが、問題なく【生太刀・影】の使い方は届いているようだった。


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