魂鏡五四、検査
燈里は『MD研究室』で検査を受けている。
保健室のような場所で、今日は直居教授と二人きりだ。
「……ということで、お互いに進展があれば共有しようという話になったんですけど。
この変身ブレスレットで前回みたいな対話ってできますかね?」
最近の明里の近況ということで、お互いが共鳴しあった話などをしながら、燈里は直居教授に疑問をぶつける。
直居教授は燈里から採血しながら、その話を聞いている。
「ふむ。あの時は言及は避けたが、君の『アースディスク』が特殊なために暴走を抑える力が効かなかった可能性は大いにある。
ブレスレットによる『魔凱着奏』が及ぼす影響が再現性のあるものなのかを調べるためにも、望月くんさえ乗り気なら、もう一度、チャレンジしてみるのは悪くない判断だと思うよ。
僕も君と橙山さんの考察を見届けてみたい気持ちはあるしね」
採血した傷口が、スっと消えるのを見届けて、直居教授は顔を上げた。
「我々の科学技術は、君たちが宿す魂鏡を解明するにはあまりにも拙い。
分からないことは、知っている者に聞くのが、一番早いというのは、悲しいかな真理ではある」
「じゃあ、やってみてもいいですかね?」
「もちろんだとも。
ただ、アレが暴走状態の一部だとすると、油断は禁物だ。実験室を使おう」
「他の検査は?」
「後でで構わないよ。基本は聞き取りと血液検査程度で、他は健康診断みたいなものだしね。
それよりも、気になる事象から片付けていこう」
言って、直居教授は立ち上がると、燈里を促して実験室に向かうのだった。
実験室はそれなりの広さがあって、頑丈で録画機能などもある。
直居教授は、万が一を想定して何人かに連絡を入れてから、燈里と二人、実験室に入った。
「さて、では変身してみせてくれ給え」
「なんか、改めて二人きりで見られてると思うと、恥ずかしいですね……」
「慣れだよ、慣れ。日頃から、それが当たり前だと思えば自然と発声も身体もついてくる!」
力強く直居教授は言って、拳を握った。
燈里は躊躇しそうになるのをどうにか抑えて、息をひとつ吸うと、思いきり良くやった。
「『魔凱着奏』!」
変身ブレスレット、正しくは変身用スマートウォッチと認証用のバッヂが反応して、音楽が流れ出す。
ただし、音楽は偽装で、本来的には高周波変換された祝詞が本命だ。
燈里の魂に何かが触れて、かき回したような、感覚があって、黒地に白ラインの軽装鎧姿に変身する。
「声はどうかね?」
「……なんか、色んなヴィジョンが浮かんでは消え、浮かんでは消えしてて……火に飛び込んだり、女性が踊っていたり……」
「女性? かぐや姫かね?」
「違ウ! 何故ニソコモトハ、女性トイウト、カグヤ、カグヤト……我ガ魂ノ前身デアッテ、高潔サガソモソモ月トスッポンナノダト弁エヨ!
……あ、来ましたね」
「アマリ頻繁ニ我ガ前ニ出ルト、コノ者ノ魂ヲ潰シテシマウカラ、善キ事デハナイト知レ!
……たしかに、なんだか窮屈な感じはあるかもです……」
燈里の口調が、コロコロと変わる。
直居教授は二回目にして、少し驚きをあらわにした。
「なるほど、今の状態は望月くんに負担がかかると……」
「ウム。ソノ方ラノ記憶ニ照ラシ合ワセレバ、操縦桿ヲ二人羽織デ操作シテイル様ナモノダ。
シカモ、祝詞ニヨッテ、我ガ荒御魂を無理矢理引キ出シテナ……我ラ第一人類ニハ、アーキタイプ が設定サレテ居ラヌ故、コノ肉体ニモ負荷ガ掛カルノダ……」
「これは……知りたい事柄が次々に増えてますが、なるべく手短に……」
「ウム、ソウセヨ……」
「では、魂鏡を取り出すために必要な五つの神宝。
これらには他にどのような力が?」
「魂ヲ操作スル術ノオオヨソ全テ。
使イ方次第デ、万人ヲ生カシ、万人ヲ殺スコトガデキル。
オ前タチハ未ダ魂ニ触レル術を持タズ、漠然ト『アル』トイウ感覚ダケデ、生キテイル。
ソレハ第二人類ガ魂ヲ操ル、資格ト知識ヲ未ダニ持テヌ故ノ証左デアロウ」
「では、五つの神宝があれば、その魂の操作が可能になると?」
「簡易的ナ操作ナラバ教エテヤレルガ、アマリ多クヲ望ムナ。タッタヒトツノ誤リガ万死ヲ招ク事モアル」
「それは知識がないからということですか?」
「資格モダ。オ前タチ第二人類ニモ、資格ヲ得テシマウ者ハイルガ、ソレラハ本来、逸脱シタ者デ、褒メラレル事デハナイ」
「それはもしや、アーキタイプと関係があるのでしょうか?」
「ソノ通リダ。コピーヲ繰リ返セバ、劣化スルノガ道理。
ソレガ逸脱ヲ生ム。
中ニハ神ニ近ヅク物モ稀ニアルガ、ソレハ神ノ望ミニ反スル」
「神とは?」
「高次元宇宙ヲ旅スル者。ソノ真意ハ我ラニモ分カラヌ。今モ居ルノカ、既ニ去ッタノカモ含メテナ……。
それって宇宙人!?
広義デ言エバソウナル。シカシ、童子ノ言ウ、宇宙人トハ少シ違ウ。
意志ハ感ジルガ、真意ハ見エヌ。
ソレ故ニ、親デハナク、神ナノダ」
「魂鏡に封じられているのは、神ではなく、第一人類ということでしょうか?」
「ソウダ。自称、神ハ多イガナ。
本来ノ神ハ、見エヌシ、感ジル事モナイ。
ソモソモ、生キル土台ガ違ウノダ。
我ラガ、神ノ意志ト呼ブモノモ、モシカスルト、タダ気マグレニ風ガ吹イタダケノ可能性モアル……。
ツマリ、コノ世界ニ神ハアラズ、自ラノ中ニシカ神ハイナイトモ言エヨウ……」
「それでは神の望みというのも?」
「第一人類ニヨル解釈デハソウダト言ウダケノ話ダ。
アーキタイプヲ持タナイ、第一人類ノ方ガ、逸脱者ハ多イ。
ソノ中デ多次元ヲ垣間見ル者タチガ出シタ結論ガ、第一人類ハ魂鏡ニテ眠ルベシ、ト言ウモノダッタ。
別次元ニ渡レテモ、高次元ニ行コウトスレバ、反発ガ起コル。
ソノ内ニ台頭シテ来タ第二人類ハ、基本的ニアーキタイプヲ持ツ。
ツマリ、神ノ望ミハ、第二人類ノヨウニ、アーキタイプヲ持ツコトダト結論付ケタ」
「ううむ……それは……」
「直居教授。話が難し過ぎて、分からないんですが……」
燈里が頭をかいた。
「簡単に言えば……ギョクト様が言っているのは、おばあちゃんの知恵袋という話だ」
「シカリ……」
「先人の知恵と言い換えてもいい」
「シカリ、シカリ……」
「僕たちが『ムーンディスク』と呼んでいるモノ。
これが第一人類で、いわゆる、神話生物。
でも、彼らは彼らより上位の存在がいると仮定して、その意志を確かめようとした。
そうして、出した結論が『ムーンディスク』による眠りで、世界は僕たち第二人類が席巻することになった。
……だが、なぜ眠る?」
直居教授は、燈里に分かるように話をまとめたが、そこでまた新たな疑問にぶつかってしまったらしい。
「オ前タチガ高次元ニ至ル者カ確カメルタメダ。
順調ニ進メバ、物理ト霊理ハ世界ノ法則ヲ解キ明カス両輪、彼ラノ眠ル月ニ至ル頃ニハ、高次元ニ進ム者ガ出ル可能性ガ高イ。
ソレニハ、我ラ第一人類ガ邪魔ニナル。
ソレ故ノ眠リダ」
「では、我々は……」
「失敗ダ。霊理ノ進ミガ遅カッタノハ、我ラノ誤算ダ。
ソノ為ノツクヨミ様ダト言ウノニ、コレデハ世界ヲヤリ直シタ意味ガ無イ……ソレトモ、長ノ年月デ既ニ意味ヲ失クシタカ……イヤ、今ハ言ウマイ……少シ長ク出過ギタナ……ソロソロ限界ダ……。
ちょ、ちょ……引っ込む前に、五つの神宝について、ヒントとかないの?
デハ、ヒトツダケ……仏ノ御石ノ鉢ニツイテダ。
ミーミルノ首トイウ魂鏡が手ッ取リ早イガ、予言者ヲ探セ。多次元ヲ見ル者ノ頭蓋骨、ソレガ仏ノ御石ノ鉢ダ。生キテイヨウガ、死ンデイヨウガ、使イ道ハアル。
ソノ他ニツイテハ、仏ノ御石ノ鉢ヲ手ニ入レタラ教エヨウ……」
そこまで喋ると、燈里の兎を模した兜の目の色が赤から青に変わる。
同時に燈里は、がくり、と膝を着いた。
「あ、れ……力が……」
「望月くん、大丈夫かね?」
慌てて直居教授が燈里を支えようと駆け寄る。
「なんか……急に身体の、支えが……なくなったみたいで……これが、魂が潰されるってやつですかね……?」
「すまない、思ったより負担が大きかったか……」
燈里はやんわりと直居教授の手を退かして、自分の力で立ち上がる。
「もう、大丈夫です。たぶん……」
それから、燈里は自分の身体の各部の動きを確かめる。
「いきなり感覚が戻った感じだったので、ちょっとびっくりしたんだと思います……」
「そうか……今回は記憶の方はあったのかね?」
「はい、前回は途中から途切れ途切れになりましたが、今回は問題なかったです。
まあ、話が難しかったんで、眠くはなりましたが……」
「はっはっはっ、正直に言えば、僕もお手上げだったよ。
なんとなくで話は合わせたつもりだけどね。
……さて、残りの検査を片付けてしまおう。
それから、仏の御石の鉢が浮島区に居るのか、第一人類と第二人類とは何なのか、他にも調べることが山ほどできたよ。
何か分かれば、もちろん共有するからね。
いやあ、忙しくなってきたね!」
実に、実に楽しそうに直居教授は目を輝かせて、動き出す。
宇宙考古学の深淵を覗き込んだからだろうか。
仕事を指折り数えて、満足げに頷くのだった。




