魂鏡五〇、手掛かり
明里は『MD研究室』で検査を受けている。
生徒会長、楠木の証言によると、明里には黄金の翼が生えて、よく分からない話を長々と語っていたらしい。
これは、『ムーンディスク』保持者の暴走状態によく見られる現象で、明里本人は何も覚えていなかったらしい。
ただ、猿渡という半暴走状態の入院することになった『ムーンディスク』保持者の話によれば、相手は同じクラスの藤井という少年で、彼は『マナガルム』の関係者を名乗っていたらしい。
明里は『覚醒風紀委員会』の所属のため、経過観察対象となり、友人であるということも考慮して、浅黄、望月、黒木の三名に一任された。
関係者の聞き取り調査を終えて、ようやく浮島区の北の端、盛り土置き場の藤井という少年と、猿渡の話に出てきた藤井少年が同じ人物を差していることが判明した。
そこで重要な鍵となるのが、藤井の携帯だった。
通報者の証言によると、藤井自身が掛けた電話によって、『マナガルム』のプロパガンダを行う人物、犬塚が藤井の回収に出てきたとなると、その電話の相手というのが『マナガルム』に繋がる人物ということになる。
履歴に残されていたのは『も』という一字だけ。
電話帳には他にも何名かの名前が載っていたが、全てクラスメイトや家族であり、所在のはっきりした者ばかりだ。
SNSなどにはゲーム繋がりらしい者や本土の知り合いと思われる者もいるが、会話内容などに怪しいところがない。
『も』は謎の人物なのだった。
宇宙開発公団の大人たちが散々、頭を悩ませているが、答えは得られず、クラスメイトである燈里や義己も分からない。
しかし、答えは他クラスである莉緒が持っていた。
「『も』ですか? ……ああ、ウチのクラスの梅木萌。彼女が藤井くんから『も』って呼ばれてるのを聞いたことがあります。
教科書を忘れたとかで、他クラスの男子が、『も』現国の教科書貸してくれって来たことがあって、やけに親しげな呼び方だったから、一時期、話題になってたんです。その時に相手が藤井くんだって知りましたね」
「……先に君たちに聞くのが正解だったか。
大人たちが正攻法じゃ埒が明かないから、ハッキングを仕掛けようか迷っている最中だってのに……。
それで、その梅木という人物は学校には来ていたりするのかな?」
榎田が肩を竦めて嘆いた後、身を乗り出すように聞いた。
「あれ? そういえばちょっと前まで来てたのに、最近、見てないかも……」
「家の場所とか分かる?」
「ええ、そりゃ友達だから知ってますけど……」
「一班回すから、案内してもらえるかな?」
「梅ちゃんが……」
莉緒はショックを受けたように、固まってしまう。
「その子はあまり、そういったことに興味を示すタイプじゃない?」
榎田は、莉緒を落ち着かせる為にも少し話を聞くことにしたようだった。
「……はい。でも、潜在的な『ムーンディスク』保持者だったし……本人は否定してたけど、たぶん、藤井くんのこと好きだったのかも……大人しく控え目な性格してたけど、母性が強いタイプだから、もしかしたら……」
「彼の変化を見極めようと、着いていく内に取り込まれてしまった?
有り得る話ではあるよね。
女性の中には付き合う相手次第で一気に変わるタイプも多いと聞くし……」
「ううっ……」
莉緒の口から、やりきれない思いが漏れる。
「もしかしたら、彼を立ち直らせる為に着いていった可能性だってある。
そこの所は会って確かめるしかないかもしれないけれど……もし、道を違えてしまったら友達は、友達じゃなくなるのか、といえばそうじゃない時もある。
間違いを間違いだと教えてあげるのも、友情の形だよ」
「……そう。そうですよね。会ってみなくちゃ分からないし、変な考えに染まっていたなら、助けてあげなくちゃ!」
「まあ、実働は外村くんと左前さんがいるから、浅黄さんは案内だけしてくれれば大丈夫。
『魔凱着奏』に不安が残ってるんでしょ。
教授が改めて不備がないか調べてくれてるし、いきなり戦闘みたいなことにはしないつもりだから、話せるようなら、話しておいで」
そう言って榎田は莉緒を送り出した。
外村というのは、変身ブレスで安定感が出ると言っていた狼男のムーンディスクを持つ隊員だ。
莉緒は幾分か心が軽くなって、まずは話をしようと意気込んで出ていくのだった。




