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臨終速報  作者: 紅小豆
9/10

9章「疑問」

登場人物


結城志保ゆうき しほ

警部補。機械に弱い刑事。


津田翔太つだ しょうた

巡査。結城の同僚。


伏見智遥ふしみ ともはる

結城の隣人。家電に詳しい青年。


神蔵美琴かみくら みこと

占い師。紫月ミラの名で活動している。


朝倉義男あさくら よしお

会社員。臨終速報に名前を告げられた男。


浅井誠人あさい まこと

借金を抱えた男。


岩下正雄いわした まさお

神蔵の知人。老衰で亡くなる。


宇佐美英充うさみ ひでみつ

人付き合いの少ない男。


伏見正明ふしみ まさあき

市議会議員。地元の有力者。


伏見瑛子ふしみ えいこ

伏見正明の妻。

 もうテレビでは“臨終速報”の話題はどこにも見当たらなくなった。代わりに不倫騒動だとか、どこかのアイドルの引退だとか、臨終速報に代わって画面を埋め尽くす新しい話題に、人々は群がっていた。

 通勤電車の中では、多くの人がスマホを眺めている。

 画面には、XのトレンドやYouTube、ニュースサイトの速報が流れている。

 それぞれの世界で、誰もが自分のリズムで生きている。

 きっと、そうやって世界は変わらず流れていくのだろう。

 そして私は、未だ臨終速報に囚われている。

 私が宣告されてから数日が経過している。次の標的は私だ。現在の情報では何の手がかりも見当たらない。この犯人の動きには驚かされる。だが人間がやったなら、雲のように消えたように見えても、必ず痕跡は残るはず……。

 焦って整理もつかないまま考えていると、津田が静かに入ってきた。

「どうした? まだ考えてるのか?」

「ええ。早く何とかしないと次の犠牲者が出てしまうの」

「……とは言ってもな。現場に残ってた物でおかしなものはなかったし」

「そう、逆に変なのよ。なぜ痕跡がないのか」

 津田は腕を組み、しばらく黙ったあと言った。

「とりあえず整理してみるか。何かしらの見落としがあるかもしれん」

 津田は言葉を切り、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。机の上の書類を軽く指で叩きながら、視線を落とす。静かな間が流れ、部屋の時計の音だけが響いた。

 その声で、少しだけ落ち着きを取り戻した。

「なら、最初は朝倉さんね。私が初めて臨終速報を見た人」

「というか、結局臨終速報ってなんだよ?」

「……そんなの私が知りたい。結局、何で私が選ばれたのか聞きたい」

「でもよ。お前以外も見てんだろ?」

「……そう言えばそうね。神蔵さんとか伏見さんが見てる」

「だよな? なら何でこの人たちなんだ?」

「……待って、神蔵さんは三回。伏見さんも恐らく一回……だと私だけ五回見てる」

「お前、五回見てんの? あれ? でも四人だよな? じゃあ誰なんだよ」

 津田の一言で、私が五人目だという事実に背筋がぞっとした。忘れたくても忘れられない死亡宣告。

「それは今は良いの」

 私が死ぬか、犯人を捕らえるか。どちらが先なのか……そもそも犯人はいるのだろうか。朝倉さんのように……。

 私が固まっていると、津田が話しかける。

「実はよ。神蔵が怪しいと思うんだ」

 私が津田の顔を見ると、いつも以上に真剣な顔で話す。

「あいつだけだぞ。名前を鮮明に言えて、伏見さんの件では現場を言い当てたのは」

 それはそうだったが、私の直感が神蔵さんではないと告げていた。

「可能性は低いと思う。もし犯人なら、警察に逐一伝える場合リスクが高いし。自己顕示欲とか承認欲求なら、もう少し違う方法を取るはず」

「でも、占いで言い当てたと言えば、テレビとかで取り上げられるぞ? 透視とかで」

「だったら既にテレビ局に行ってる。もう臨終速報の特集もやってないし遅すぎる。何より、亡くなった方との動機が……」

 今までは違和感だけだったが、今回初めて“繋がった”気がする。

「お願いしたいことがあるの」

 いくつかの要件を伝えると、津田は走っていった。私は時計を見て、自分の鼓動と同じになるまで深く息を吸った。

 ――少し大変なことになってしまった。嫌なところから電話が数回来ている。身に覚えはあるので対応ができない。

 そしてまたスマホが鳴った。もう勘弁してほしい。相手はもう怒り心頭だろう。

 意を決して電話に出る。

「はい。神蔵です」

 電話先の相手は、予想通りのことを話している。やはりもう時間が残されていない。

「いえ、大丈夫です。今度こそ間に合うようにします」

 通話を終えた後、軽いはずのスマホがこんなにも重く感じてしまう。私は鞄の中から書類を探し、電話をかける。

「もしもし。はい。そうです。お願いがありまして電話をしました」

 もう私に選べる手段は残っていない。

 ――参考人として長い間警察署にいたが、数日ぶりの外の空気に触れることができた。色々なことがあったが、これでやっと先に進むことができる。

 警察署の出口には結城さんが待っていた。

「伏見さん。お父様の件、お察しします」

 その言葉で、親父がもうこの世にはいないことを実感できた。

「……大丈夫です。でも犯人は必ず見つけて下さいね」

「はい。絶対に捕まえます。ですが、伏見さんはこの後、どうするのですか?」

「父の跡を継ごうと思っています。不肖な息子ですが、父がこれまで作り上げたこの町を守りたいと思います」

「頑張ってください」

 結城さんは俺の手を握ってくれた。そして署に戻ろうと入口に向かっている最中に、

「あと一つ報告がありました」

 と結城さんが思い出したかのように、振り返ってこちらに戻ってきた。

「署で保管していた伏見さんの衣類ですが、汚れがひどくこちらで対処してしまいました。申し訳ございません」

 結城さんは頭を下げてそう言った。

「いいえ、大丈夫ですよ。あんなに汚れてたし、もう着ることはないと思ってましたから」

 確かに、あんなシミだらけの服はもう着ないので、処分してくれたことがありがたかった。そう話していると、男の刑事がこちらに向かって歩いてくる。

「結城警部補。こちらが頼まれていた物です」

 そこにはA3ほどの茶封筒が入っており、結城さんは中身を見て納得した表情になっていた。結城さんはこっちの目線に気がつくと、

「これはお父様の現場で見つかった“痕跡”です」

「痕跡?」

「犯人は人気のない古いログハウスでお父様を呼び出し、殺害した」

「はい。そのように聞いてます」

「でも変なんですよ。司法解剖の結果、お父様はかなりの期間飲食していませんでしたし、手足に縛られた跡があったので、恐らく監禁されてました」

 結城さんの一言で疑念が生まれた。考えていると、結城さんは続けて話す。

「なら答えはシンプルです。この靴の跡はお父様ではない。犯人はどこかで殺害した後、発見現場まで運び終えた後、お父様の靴を履いて向かったように見せかけた」

「でも、それならログハウス内に別の足跡が残るのでは?」

 ふと思ったことを言ってしまった。結城さんは想定していたかのように答える。

「恐らく、犯人はビニール袋とかを簡易的な靴にして、お父様の靴跡の上を踏んで歩いたのでしょう。なので私は違う場所を考えました」

 結城さんは、ゲームに勝ち誇ったように封筒を指でトントンと叩く。

「そして津田巡査に探してもらい、見つけました。あのログハウスから未発見の足跡と足紋が見つかりました」

「足紋?」

 聞いたことのないものが出てきた。足の指紋だろうか?

「足にも指紋ってのはあるんです。それで身元を判定することもあります。今日は照合までは回せませんでしたが、明日鑑識に提出します。足紋が取れていれば、犯人に繋がります」

 俺の考えていることはお見通しのようで、答えが出てきた。これ以上は何も言えず、ただ思ったことを言う。

「もし真犯人が分かったら」

「すぐにお知らせします」

 結城さんはそう言うと、署の中に戻っていった。俺の心の中では、ざわざわした感情が渦巻いていた。

 結城から預かった鍵を使い、俺は彼女の部屋に入った。

 バッグから機器を取り出す。

 こういう細かい仕掛けは苦手だ。だが、結城が必要だと言った以上、やるしかない。

 Wi-Fi機器を棚の陰に置く。

 あそこならすぐには見つからない。

 コンセントを差し、ランプの点灯を確認する。

 次に、寝室近くのセンサーを戻した。

 伏見が見慣れた状態にしておかなければ意味がない。

 テレビをつけ、接続を確認する。

 画面は問題なく動いた。

 ……よし。

 あとは、あいつが来るのを待つだけだ。

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