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臨終速報  作者: 紅小豆
8/10

第8章「次は貴方」

登場人物


結城志保ゆうき しほ

警部補。機械に弱い刑事。


津田翔太つだ しょうた

巡査。結城の同僚。


伏見智遥ふしみ ともはる

結城の隣人。家電に詳しい青年。


神蔵美琴かみくら みこと

占い師。紫月ミラの名で活動している。


朝倉義男あさくら よしお

会社員。臨終速報に名前を告げられた男。


浅井誠人あさい まこと

借金を抱えた男。


岩下正雄いわした まさお

神蔵の知人。老衰で亡くなる。


宇佐美英充うさみ ひでみつ

人付き合いの少ない男。


伏見正明ふしみ まさあき

市議会議員。地元の有力者。


伏見瑛子ふしみ えいこ

伏見正明の妻。

 殺人犯の姿は見えない。その後、私たちは無言のまま警察署を出て、帰路についた。玄関を開けると、リビングに音が流れていた。まただ……もう嫌だ。姿の見えない犯人に怯えながら扉を開けると――。

「臨終速報です。結城志保さん。次は貴方です」

 私の名前を呼ぶ声が聞こえた。このテレビに呼ばれたら全員……『死』。

 足に力が入らず座り込んでしまうと、後ろから――。

「結城さん?」

 私は声を上げて、意識が飛んでしまった。

 ……。

 あれからどれくらいの時間が経過したのだろうか。気がつくと、私はベッドに横になっていた。

「あれ? どうして?」

 訳も分からず混乱していると、リビングからテレビの笑い声が聞こえる。そして人の気配も――。

 意を決してリビングに向かうと、そこには――神蔵さんがいた。

「あ! 起きたんですか? 良かった~。扉開けて不用心ですよ~」

 神蔵さんはそう言うと、私にお茶のペットボトルを渡してきた。

「どうしてここに?」

 私が聞くと、神蔵さんは、仕事でこちらに来ていたらしい。

 スマホのバッテリーが切れそうで困っていたところ、私を見かけて後をついてきたという。私が家に入ってしばらくしてからインターホンを鳴らそうとしたが、扉が開いたままだったので、そのまま入って声をかけたらしい。

 私は先程の光景を思い出し、心細かったのもあり、神蔵さんを責められなかった。神蔵さんには充電を許可し、一緒に夕食を食べることになり、料理を作ることにした。

 その間にも神蔵さんは「今月の通信速度もう限界なんです。Wi-Fi貸してください」と懇願してきたが、家にはそんなものはないと即答で断った。

 正直、今夜泊まってほしいなとも思ってしまう。ただ、まだ神蔵さんには伝えていない。言葉にしたら、本当になってしまいそうで……。

 …………本当に偶然なのだろうか?

 頭の中で疑問が湧き始めた。タイミングが良すぎないか? 私が臨終速報を見た直後に出会っているあの人……。唯一、死者の名前を当てられた人。なぜ信用しているんだ? 普通に考えたら一番……。

 今、この状況が一番危険ではないか?

 スマホは……リビングだ。取りに戻ろうとしても……“犯人だったらいつ襲う?”

 武器はフライパンしかなく、恐る恐るリビングへ向かう。

 神蔵さんの表情は読めず、じっとテレビを見ている。リビングでは音楽が流れていた。

「ねぇ? 夕飯パスタで良い?」

 声が震えないように隠しながら言うと、神蔵さんはこちらを見て、

「はい。じゃあ二人前でお願いします。あと少し用事ができたので、ちょっと電話かけてきますね」

 と言って出ていった。

 それを見て、私は少し自分がおかしいことに気づく。『犯人だったらいつ襲う?』もし自分だったら、気を失ったあの時が一番好機であった。それなのに一切危害を加えなかったのは、彼女が犯人ではないという意味になる。少し囚われすぎているのかもしれない。

 神蔵さんと食事をとっていると、インターホンが鳴った。

「はいは~い」

 と神蔵さんが対応する。ここ、私の家なのだが?

 扉を開けると、鞄を持った津田が立っていた。

「どうしたの?」

 と私が聞いても、津田は無言で鞄を開けて機械を取り出した。

「ねぇ……ちょっと?」

 いくら問いかけても、機械をコンセントや照明などに近づけて、一切言葉を発しない。

 部屋を行き来して「ビンゴだ」と寝室近くのコンセントへ向けると、機械から何やら音がする。

「調べてみなければ分からないが、ストーカーがいるぞ」

 そう言い、コンセントを外すと小さな機械が出てきた。

「外見だけじゃ、分からないな」

 津田は、私の家から発見された装置をじっくりと観察しながらそう言った。

「待って、なんなの? どういうこと?」

 私がそう言うと、神蔵さんがテレビの方を見た。

「このテレビ、ネット接続してるんですよ。さっき結城さん、家にはWi-Fiがないって言ってましたよね」

 神蔵さんはリモコンを操作し、動画再生サイトを開いた。

「これは普通じゃ見られません。つまり、結城さんのテレビは誰かが手を加えたってことになります」

「そして、これだ」

 津田は、さっき外した小さな機械を見せた。

「詳しいことは調べてみないと分からん。ただ、Wi-Fiを設置してまでやることだ。ろくなもんじゃない」

 津田は寝室近くのコンセントへ視線を戻した。

「場所が場所だ。お前が寝室に入ったタイミングを見てたんだろ。寝込みを襲うつもりだった、とかな」

 津田の言っていることにも一理あるが……。

「寝込みを襲うって言っても、どうやって家に入るの?」

「そんなの俺に聞くなよ。でも現に部屋に入られて付けられてるじゃねぇか」

 実際そうだった。私の家に誰かが入り込み、これを仕込んだ事実に変わりない。

「でも、テレビをネットに繋ぐ意味は? 私みたいに押し間違えたら、すぐにバレるじゃないですか」

 神蔵さんが首を傾げる。

「Wi-Fiがちゃんと機能してるか、テレビで確認したんじゃねぇか?」

「だったら、確認したあとに外しますよね?」

「急ぐ事情があったんだろ。例えば予想外に家主が戻ってきたとか」

 二人が話していることの意味は分かるが、頭の中は「?」で埋め尽くされていた。神蔵さんは私の手を取り、

「怖かったですよね? ストーカーされてたかもしれないなんて……」

 と同情してきた。

「いや……まぁ……」

 まだ恐怖よりも情報量が多く、処理できていないだけだったが、そう見えたらしい。

 津田はこのまま署に戻り、装置を鑑識に回してくれることになった。

 そして神蔵さんは、今晩は一緒にいると宣言し、リビングで寝ていた。

 日常が少し戻ってきた気がして、その日は薬も飲まずに眠れた。

 翌朝、熟睡している神蔵さんを起こし、一緒に朝食を食べた。

 その後、管理会社に鍵の交換を依頼した。

 交換には立ち会うことになったので、私は少し遅れて出勤することにした。

 署に着くと、津田が検査結果を教えてくれた。

 テレビ側にあったのは、先払い式のWi-Fi機器だった。契約なしでも使えるものらしい。

 寝室近くのコンセントに仕込まれていたのは、感知式センサーと送信機だった。

 センサーの反応を、送信機とWi-Fiを使って外へ飛ばす仕組みになっていたという。

「思い返してみたんだが、普通に考えてお前の家に入るって、かなり無理があるぞ? あのオートロックのマンションで、神経質で細かい奴がそう簡単に侵入させるとは思えん」

 津田には喧嘩を売られた気がするが、そこは流す。

「でも、今まで違和感はなかった」

 今朝、念のため家の中を調べたが、何かが移動したような形跡もなかった。本当にコンセントの中とテレビ裏という、私が触らないところだけ異常になっていた。

「そうなのか? なら家の中以外の出来事は?」

「ええ……なかった」

 そう言いかけて、一つだけ思い出した。

 浅井さんが見つかる直前、私は鍵をかけ忘れたと思って、一度家に戻っている。

 でも、それだけだ。

「……本当にかけ忘れだったのか?」

「あの時は寝不足だったし、閉め忘れだとは思うけど……」

「もし、鍵をかけ忘れたんじゃなくて、盗まれていて誰かが中に入っていたら? お前が戻ってきたから、そいつは慌てて作業をやめて、脱出する前にわざと鍵を落とした。お前は拾った時に、かけ忘れだと考える。そう考えれば、昨日の話とも繋がる」

 確かに、それはありえるかもしれない。

 あの日の記憶は、はっきりしていない。

 私は閉め忘れたと思い込んでいただけで、鍵に触れたかどうかすら覚えていないが……。

「もし貴方がストーカーで、同じ状況だったら何をする?」

 私の問いに、津田は驚いたような顔でこちらを見たが、すぐに考え込んだ。

「……だったら、盗聴器か、余裕があればカメラだな」

 そう。私も同じ考えだ。

 だったら、なぜ感知式のセンサーなのだろう。

 仮にストーカーなら、生活音や日常行動を知りたくなるはずだ。小型カメラや盗聴器の方が確実性がある。

 なのに、このストーカーは、あえて一定の場所に移動した時だけ反応するものを設置したことになる。

 そう伝えると、津田は「確かに……」とまた考え込んだ。

「例えばカメラやマイクだと、設置や調整に時間がかかる。でもセンサーなら、多少ズレても感知さえすれば良い。それに相手が合鍵を作っていた場合、お前が外出したことだけ判明すれば、いつでも侵入可能になる」

 そう言われると筋は通る。私がいるのかどうかを知るのが目的になる。

「でも私物は取られてないし、家具も動いた感じはない」

「だと本格的に動く前にバレたのか?」

 津田のトーンが、少しずつ落ちてきた。

 納得はできない。

 けれど、私の家に誰かが侵入し、これを取り付けたのは事実だった。

 この人物が何をしたかったのかは分かっていない。

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