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臨終速報  作者: 紅小豆
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第7章「疑惑」

 伏見明正の遺体が発見された後、警察はその別荘を中心に捜査を開始した。捜査本部の編成が決まり、上層部からの指示で、事件は一気に“重大案件”として扱われることになった。

 だが、捜査の手は智遥さんには及んでいない。

 理由は明確だった。伏見智遥は、亡くなった市議・伏見明正の一人息子であり、地域に影響力を持つ一族だった。

 「まぁ 相手が相手だ。慎重になるのは当然か」

 津田はそう言うとテレビを付けた。テレビではどのチャンネルでも、話題は伏見明正の死一色だった。そして臨終速報も、“都市伝説”として広まりつつあった。

 「噂によると、深夜になると突然テレビが点き、次の死者の名前を言うらしいです」 とコメンテーターが言う。その発言に、スタジオの空気は半分冗談、半分戸惑いといった様相だった。

 「でも、これで3件目だったらしいです。警察はどうするんでしょうか?」

 別の出演者が真面目な顔で問いかけたが、その直後には“宇宙からのメッセージ”だの、“故人が告発を試みている”だのと、話題は飛躍していった。

 「まだ誰にも話してないのに……」

 少数しか知りえないはずの“臨終速報”が、今や全国放送で語られている。誰が流したのだろうか?なぜ、広まってしまったのか?

 そしてテレビに取り上げられた事でやはり起こってしまった。連日警察に届く通報『自分も見た』『芸能人の名前が出た』『警察は何をやっているんだ』等、電話応対で全国の警察署は大混乱となっていた。

 「おい 見てみろよ」

 津田はスマホの画面を私に見せてきた。そこにはXで多くの人が預言者として挙げられているユーザーだった。拡散されている画像に映っていたのは、意味を持たない英数字の羅列。自動生成のようなIDに、投稿者の素性を隠す強い意図を感じた。

 「これでバレるような馬鹿はいないよな」

 津田はスマホを操作しながら投稿を読み上げた。

 「浅井誠人、宇佐美英充、伏見明正か……しかも投稿時間は全員発見される前だ」

 これらはニュースになる前に投稿されていた。名前だけの投稿だった為、誰の目にも止まらなかったが3件目から変貌を遂げ、一気に日本中に知れ渡った。

 この犯人は楽しんでいる?今や時の人となっている。もう警察に届く情報は信憑性がなくなり、初動捜査が悪かったと無能の烙印を押されてしまったこの状況を?

 津田が言うには、アカウントの行方を追おうとしたが、追跡は困難らしい。

 中古のスマホを使い、駅のフリーWi-Fi経由で投稿された形跡だけで持ち主にはたどり着けないという。接続ログの保全期間も短く、端末はIMEI偽装の可能性まである――そう付け加えられた。

 正直、IMEIが何を指すのか私にはさっぱりだ。ただ、津田の言うとおりなら、追跡の糸口はほとんど残っていないということだけは理解できた。

 「取り敢えず、動くしかない」

 津田はそう言うと足早に出て行った。

 「どこに行くの?」

 「他の2件だ。優先順位が変わったからスマホの解析もすぐだ」

 私も津田に着いて行く事にした。

 「やっと解析結果が出たってよ」

 津田が2人の最後の連絡だったスマホのやり取りを持ってきた。スマホの損傷が酷くデータの確認が難しく秘匿性の高いメッセージアプリで時間が必要だった事と単一事件として優先順位も低く見向きもされていなかった。

 「日雇いだったらしいな」

 津田が報告書を読みながら言った。被害者はSNSで見つけた“高額バイト”に応募していたようだ。浅井さんのスマホには、夜間のビル点検、屋上へのアクセス方法、そして“ロープを持参で”という指示——。宇佐美さんは河川工事の準備、遺体発見現場への道のりについて書かれていた。

 「そうなると呼び出した奴が2人とも殺した。足がつかないようスマホを壊して、解析不能にしようとした」

 津田は連絡相手の者を指で叩いて言った。

 「でも、誰だかは分からない。動機もないし」

 「こんな事をする奴の考えなんて分からねぇよ。」

 通り魔的犯行なら、快楽殺人となる。そして終わりのない事件になってしまう。しかし、理由もなく人を殺せるのだろうか?

 私は胸の奥に、拭いきれない違和感を抱えていた。本当に、これは“理由のない殺人”なのだろうか?もし本当に無差別だったのなら、なぜわざわざ秘匿性の高いアプリを使い、証拠となるスマホを壊し、さらに犯行前に名前だけを投稿するという手の込んだ真似をしたのか。注目を浴びたいだけの犯人なら、もっと堂々と目立てばいい。にもかかわらず、証拠を消し、足取りを隠す。慎重さと派手さが同居する違和感に、私は何か別の意図を感じていた。

 「ちょっと確認して欲しいことがあるんだけど」

津田はすぐに近づいてきた。

「“預言者”って言い始めたのは誰?この騒ぎの最初の声を追える?」

「投稿の時刻を追えば、ある程度は分かると思う」

しばらくして津田が戻ってきた。

「“預言者”を名乗った最初の投稿は見つけたが、どれも一般人のアカウントだった。意図的か偶然かは分からん」

「分かった。もう十分」

私は画面を見つめたまま、胸の奥でひとつの線が繋がっていくのを感じた。

 何か手はないだろうか?私は3件の事件の情報の整理した。

 津田に印刷してもらったあの預言者の書き込みと事件との共通点について調べてみると、朝倉さんは書き込みがなく、浅井さんは2日前、宇佐美さんは3日、明正さんは当日と書き込みに対する時間にばらつきが見られた。そして3件の事件で唯一撲殺された伏見明正さんの件。これまで念入りな準備をしており、痕跡すら残さなかった犯人が数々の証拠を残していた。例えば凶器の放置や伏見さんによる目撃情報がある。これは何かが狂ったのだ。――そうとしか思えなかった

 そして今回の藁細工、鶴・亀ときたら次は何だろうか?

 津田が藁細工を見て言った。

「今回のはなんだこれ?バットか?綻びもあるし杜撰だな」

私もその写真を見るも確かに棒状の藁細工としか見えなかった。だが、これは同一犯の可能性が高い。だからこそ意味がある。よくよく見ると先が広く手元が狭い、一目で権力を象徴するなら、これしかない。

「これって笏じゃない?昔の肖像画とかで持ってる木のやつ」

「まぁ言われてみれば…」

「正明さんは市議会議員で地元でも名手と言われていた権力者に近い存在。ならこれは正明さんを示す犯人からのメッセージになる」

「でも流れとしておかしくないか?」

津田はどこか納得が言っていないらしい。

「でも犯人の考えは分からないって貴方も言ってたじゃない」

 津田は黙ってしまった。ここまでの法則が一切通用しない犯人に私達はどう動けばいいのだろうか?

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