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人魚の宝石  作者: ふさふさ
19/19

最終話,人魚の宝石

――大丈夫だよ、大丈夫だよ。

 耳に残るジークのその言葉。

 リズは白い貝殻でできた壁に背をもたれさせ、ぼんやりと自分の、空っぽの宝物入れを眺めていた。

 リズの鱗と同じ、珊瑚のような色をした貝殻。

 この間までは蓋を開けば、きらきらと美しい宝石達が待っていたのに。

 今貝殻の中は、何もない。見ていると、不思議な虚無感に襲われた。

 リズは貝殻を重ね合わせて蓋をして、ドレッサーにその貝殻を置いた。

――やっぱり、黒い珊瑚の意思がだなんて、考えすぎというか、気のせいだったかしら。

 リズは先日の会話を思い出し、どこか決まり悪い気分になった。

――だって、あれ以来何も無いし。それどころか今じゃ宝石が水を呼ぶ理由とか、黒い珊瑚が生まれた理由とか、なんであんなにも確信があったのかが分からない。

 リズは自分の中の、あの時の感覚がどんどんと薄まっていくのを感じた。体の中の水が入れ替わっていくと共に。




 「答え合わせ」が済んだ後、体は元に戻っていく。

 そして何もかも忘れていく。




 「きゃあー!」

 燦然と輝く太陽の下。リズは湖で泳ぐ生き物を見て悲鳴をあげていた。

 「あっはははは!」

 ジークは側で笑っている。手にはリードを持ったまま。

 泳いでいるのは、首輪をした犬。ふさふさした見事な毛並みの犬が来て、最初、リズは可愛い可愛いと喜んでいた。

 しかしジークがにやりと笑って、犬を湖に入れた途端。

 犬の毛は水に濡れてぺたんこになり、犬はまるで別の生き物かのように細く小さくなってしまった。

 それを見て、リズは驚き悲鳴をあげた。

 ジークは思った通りだと笑いながら、変わり果てた犬の姿から後ずさるリズを見ていた。

 「リズ、前に俺の髪が濡れた時驚いてたでしょ。だから、絶対いつか濡れた犬を見せようって決めてたんだ。驚くと思ったから。」

 それを聞いたリズは、もう、ひどい! と言いながら笑っていた。

 濡れた犬は、まるでしぼんだ風船だ。しぼんだ風船が犬かきで近付いてきて、リズがまた身を硬くする。

 しかし恐る恐る手を前に出し、寄ってきた犬をリズは両手で抱きしめた。

 「す、すごく不思議な感触。毛が……なんだっけ、濡れる? んだったっけ。私達にはそれが無いから……」

 犬に頬や唇を舐められて、リズはそれ以上喋れなくなってしまった。くすくすと笑いながら、犬を抱きしめる。

 そんなリズに、ジークは声をかける。

 「犬は体温高いから、火傷しないように気をつけてねー!」

 「はーい!」

 

 人魚が住む湖には、宝石があふれていた。

 その宝石は全て、人間達が捨てたもの。


 宝石と水の織りなす美しい世界で、少年と少女は恋に落ちた。


 貝殻に入れられていた、人魚の宝石はもう無い。

 人魚の宝石は、今も水底で沈んでいる。

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