第6話
「・・・そうなんですか?へえ!え?僕ですか・・・」
何やら大きな声がすると思ったら、佐野くんが門の所で何かを話していた。きっと警備員の八代さんだろう。
「え?まあ・・・そうですね、気になっているというか、お近づきになりたい人はそりゃあいますよ・・・好意うんぬんではなくって・・・近づきたい人というか・・・」
校門で大声で一体どんな話をしているんだ、と呆れる。どうせ瑠璃さんの話だ。
「僕は・・・その人とどうこうなりたいって訳じゃなくて・・・に・・・るような・・・」
「おーい、そろそろ体育館に向かって下さーい」
いつまでも話していそうだったので、声を掛けると、佐野くんは相手に一礼してこっちへ走ってきた。
「すいません、何だか不思議な人だったんで、つい話し込んでしまいました」
へにゃりと笑う。大体、話し相手もまだ生徒も保護者も登校時間ではないのに、迷惑な人だ。
「何の話をしていたの?」
「え!」佐野くんが顔を赤らめる。「何になりたいかって尋ねられたので、『人に誇れる教師になりたい』って・・・まあ僕の目標です。」
「ふうん、立派でいいんじゃない?」
と微笑んで言うと、「照れるなあ」と言って佐野くんは頭を掻いた。
「そういえば一つ疑問があるんですけど」
と体育館に着いて座っていると佐野くんが言った。
「僕って二年三組の副担任じゃないですか」
「そうだね。私のクラスの副担任だ。」
「何で二年二組の佐倉先生のクラスは副担任がいないんですか?他のクラスはどこもいるのに」
それは、瑠璃さんは一人で何でもこなすことが大きいが、もう一つ理由がある。
「あのクラスはね・・・」
と話そうとすると、瑠璃さんがひょっこり顔を出して言った。
「問題児を集めたクラスなんだよね」
「え、大丈夫なんですか!?」
佐野くんが大きな声で言った。
「しー・・・まあ大丈夫。毎年のことだし。まあ所詮女子校だから抑え込めるわけ」
「三年生になる頃には暴れん坊も大人しくなりますよ」と付け足す。「佐倉先生怖いし・・・」
「ん?何か言った?」
「いえ・・・何でも」
怖い。瑠璃さん、私の腕をつねってきた。見た目に反して怪力だから、一瞬だけれどとても痛い。
そうこうしているうちに始業式が始まって、すぐ終わる。
『担任発表です』
とアナウンスがあって、教師が皆立ち上がった。
『二年二組、佐倉先生』と言われたその瞬間、二年二組の列からブーイングが起こった。
「はーあ?うちの組が問題児クラス?マジで信じられない!」
「よりによって佐倉かよ!」
「・・・僕、男子校出身なんですけど、女子校でもこんな怖い生徒いるんですね・・・」と佐野くんが私に耳打ちする。
「・・・お静かに」
瑠璃さんの声が落ち着きつつ、強かに響いた。
「いやあ、昨今の教師不足の影響で、今年も私、副担任無しですか?校長もスパルタだなあ」
そう笑いながら言う。どっと笑いが起こった。
「まあ、不満があるなら我々に直訴してくださっても構いません。世の中理不尽なことも多いです。自分でどうにかしようとするのは良いことだ。でも、」
「合理的かつ我々を納得させるようなお話をお待ちせています⭐︎あ、すいませんね、ベラベラ喋っちゃって」
てへ♡とでも言うような動作をする。それがあざといって言われる原因にもなっているんだけど・・・という言葉を飲み込む。
「これが、佐倉先生式の始業式。毎年恒例だよ」
佐野くんはそんな言葉は聞かずに目を輝かせていた。これだから『恋は盲目』っていう言葉が生まれるのだ。




