第4話
一瞬過去編です
「どうしたの?」
この一言で、私の人生は変わった。
私は幼少期のほとんどを、陽の入らない家で過ごした。
私の母はシングルマザーで、父の顔を知らずに育った。そして、母は、いわゆる毒親というやつだった。
「あんたなんか生まれて来なければよかったのに」と母は私に何度言ったことだろうか。
ありきたりな台詞だったが、当時の私にとって、家は世界だったから、苦しい日々だった。
母が家に帰って来なくなって一週間ほど経った頃、家の食料も尽きて当てもなく外を彷徨い、近所の公園に辿り着いた。ベンチに腰掛け、楽しそうに遊ぶ子どもたちを虚な目で見ていた。彼らと自分の住む世界の違いと、そこにあるどうしようもない溝に絶望していた。
その時、
「どうしたの」
と声を掛けられた。
顔を上げると、目の前に長い白髪に、薄いシャツを着ていて、靴は草履を履いている大人がしゃがんでいた。
確か、私は首を振ってこの大人を追い払おうとした。そうしたらその瞬間、お腹が盛大に鳴った。
「お腹が空いているんだね」
するとその大人はポケットからお金を取り出して、しばらく考え込んでから仕舞った。余計な絶望を味あわされて怒りを覚えた。
その人は手を差し出した。
「これからお昼ご飯を食べるんだけど、一人だと寂しいんだよね」
その大人の優しい目に、勝手に涙が溢れた。
「ここで食べてもいい?」
彼女に手を引かれて行ったのは例の教員寮だった。その頃はあと3人の人が住んでいた。
「えー、──先生、その子どうしたんですか」
「私の新しい友達」
「え」
驚きのあまり掠れて出なくなっていた声を上げた。
「お、ようやく喋った」
「誘拐は犯罪ですよー。なんつって」
太ったおじさんが笑って私の頭を撫でる。
「おじさんたちの分まで食べていっていいからね」
「・・・ありがとうございます」
そこまで言ってから咽せた。「水持ってくるね」といなくなった女の人を待ちながら、彼女の『一人だと寂しいんだよね』が私を連れてくるための嘘だったことに気がついた。そうか、この大人は私のためではなく、自分のためという理由にすることで、私を連れ出しやすくしたのか、と遅れて気が付く。
ほれ、と水をたっぷり注がれたガラスのコップを渡される。
「ありがとう」
コップを受け取って飲み干す。
「何か食べたいものとかある?」
何て答えるのが正解なんだろう。答えに迷っていると、私のお腹が盛大に鳴った。
「はは、じゃあ色々つくってあげる」
その人は驚きの手際で料理を何品もつくってしまった。
「すごい…」
「でしょ」
その人はドヤ顔をしていた。
全部の料理を平らげて、このひとときの幸せを噛み締めていると、
「またおいでよ」
とその人は言った。
「え…」
「そうそう、うちらも若い子がいると楽しいし」とおじさんたちも微笑む。
「…いいの?」
「もちろん」
それから私の手を引いてくれた人が公園まで送ってくれた。
「お昼頃にこの公園にいるから」
「…うん」
そうして、私のくらい生活に光が差し込んだのだ。
「ああ…私の名前は佐倉瑠璃。あなたは?」
そう、その人こそ──瑠璃さんなのである。今と全く同じ姿でそこに立っていた。
「長田悠湖…です」
「ふぅん…ハルコ、ね。素敵な名前だ」
その瞬間、私は魔法にかかった。瑠璃さんがとても愛おしく思えて、夢中になった。
それからもひと悶着あって──
「…おーい、悠湖?」
「ふぇ?」
昼寝から目覚めると、目の前に瑠璃さんの顔がある。
「なんでうちにいるんです?」
「だって合鍵あるし」
答えになっていない…と内心ため息をついて起き上がった。
「ほら例の新任が寮にいるから、迂闊にくつろげないっていうか。やっぱり悠湖が一番だわー」
「…ふーん」
「どうしたの?何か嬉しそうだけど」
「…別に?」
えーどうしたの?と笑う瑠璃さんを見て、私はなぜだか、とても嬉しかった。
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(切実に!待ってます!)
拙い文ですが、これからも頑張ります!




