第3.5話(第3話その後)
男性寮のインターホンを鳴らす。
「こんばんは」
「え、佐倉先生!?こんばんは!どうされたんです?」
「食堂でご飯でも振舞おうかと思ってね」
「え、嬉しいです!」
食堂でラザニア、餃子、コロッケ、白米を一口ずつ口に運ぶ新任を眺めていると、新任が肩をすぼめて、
「さっきはすみませんでした」
と言った。
「え?」
新任が私の肩をちらりと見る。さっき傷を見たことか。
「ああ、全然大丈夫」
「・・・僕にも、傷があるんですけど」
そう言うと新任が前髪を上げて額を見せる。
「僕、学生時代結構ヤンチャだったんで・・・まあだから大したことはないものです。こんなものであいこになるとは思っていませんが」
額には小さな傷があった。少し痛々しい。
「ふうん」
「まあこの傷が教師になるきっかけではあったんですけど・・・あ、自分語りしていいですか」
「別に。興味ないしいいや」
人の自分語りには興味がない。だからついそうそっけなく返してしまって、あ、しまった、と思った。
「えっ・・・佐倉先生って案外クールというか、ドライというか・・・。僕は佐倉先生の話結構気になったりするんだけどなぁ・・・」
悠湖に、『おちゃらけの明るいキャラでやっていくならそれを通す努力をしてくださいね』と言われたのに。なんかもうダメな気がする。
「あ、語りたいならいいよ?」
「じゃあ聞きたくなったら言って下さい」
「なるかなあ」
そう言うと目が合って、ふふ、と笑い合った。
「本当に気にしていないんですか?」
「まあ、別になんともないからね。」
「じゃあなんで『歴戦の戦士みたい』って僕が言った時、黙ったんですか?悲しそうに見えました」
「ああ・・・それは」
昔、同じようなことを言った人が何人もいた。そう言う人は決まって続けるのだ。『でも──』
「でも、その時は痛かったですよね」
もういない人々の面影と重なって、なんとも言えない気持ちになった。
「どうだったかな」
「だって僕、この傷出来た時めちゃくちゃ痛かったんですよ。針で縫われたの初めてだったのもあるんですけど。だから、」
「?」
「いつでも話して下さい。自分語りしたくなる日もあるでしょ・・・今日の僕みたいに」
「語っていいよ」
「また今度にします」
こうして、佐野くんとの距離が一歩縮まったのだった。




