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古の庭で  作者: 槍田歩馬
第一章 幕開け
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第17話 私は私だ

「私が…死ぬ未来を回避する?」

「そうだよ」と瑠璃さんは平然と言った。

「え、何言ってるか、分からないんですけど…」

「こんなこと言うつもりは無かったんだけどね。私が…今度こそ、守るつもりだと」

 今度こそ?少しもやもやした。

「輪廻は廻る。死んだ魂は生まれ変わる。でも、魂の運命は変わらないの。歴史は繰り返す、って言うでしょ?まあ魂が一緒だからね。本人たちに自覚はないけど」

「何言ってるんです…?」

「言ったでしょう?松本は私の兄の転生した魂だ。それと同じように──悠湖、君の前世たちも私は知っているんだ。魂の運命…つまりその人にとって重要な人との関係性は生まれ変わってもおおよそ同じだし、死に方だって、運命を辿るように同じなんだ。」

 瑠璃さんは淡々と言った。

「…」

「驚いただろ?でも、私は知っている。人類の何百年、何千年歴史を見てきて、わかるんだ。『ああ、この人はあいつの生まれ変わりか』って。何となく似ていて──良い性格も、悪い性格も、環境も、死に方も。私だけだ。輪廻に還れない…」

瑠璃さんはそう言うと頭を抱えた。

「元はと言えば私が不老不死(こう)なったのだって私のせいなのだけれど…私は皆を不幸にする。だからいい加減…」

「死にたい、と?」

 私は恐る恐る聞いた。ずっと思っていた。瑠璃さんはずっと生きてきて、偶に昔の話をしてくれるけれど、悲しそうな、寂しそうな、怒りのような、虚ろなような…そんな顔をしている。

『いつか会いたいなあ、もう叶わないけれどね』といつだったか、瑠璃さんは言っていた。

「そうだね──死にたい」

瑠璃さんはきっぱりと言い放った。迷いなんてなくて、ただ、全て諦めたような目だ。

「何で」

「『何で』?悠湖にはわからないよ。人は、命は、終わりがあるからいいんだ。死は、ある意味救いなんだよ。結局、皆死に果ててさ…忘れ去るんだよ。誰にも知られることも無く村の片隅で消えた命も、国を救った英雄だって。歴史に残る?残った人のことは、皆記録だけでしょう?実際のその人なんて、ほとんど幻像みたいなものだ。誰が、どれだけ無意味に生きようと、命を懸けて戦おうと、抗っても、結局は死ぬ。兄も、ヴィオレッタも、キャロラインも、リュカだって!数えきれない魂が、もう、誰にも覚えられていないんだ…」

 それは、その人の怒りだった。『瑠璃さん』なんて、型なんて、言い表わすものなんて無くて──抱きしめても、すり抜けてしまうような、儚さと、何をしても消えない火のような──。

「…何?」

 気が付くと、私は瑠璃さんを抱き締めていた。

「じゃあ聞かせて下さい。それでも瑠璃さんが憶えているのなら、意味があるんじゃないですか?」

「…私が最初に悠湖の魂と出会ったのは、私がまだ人間だった頃だ」

今も人間でしょう、という言葉は飲み込んだ。また揉めても駄目だ。

「キャロラインは…私の兄の妻だった…そして兄に殺された」

息を飲む。

「兄たちには子供がいた。兄はその子──ヴィオレッタも殺そうとしたから、私は、兄を…理由も聞かずに殺した」

どう?、と瑠璃さんは笑った。

「言い訳はしないさ。私がキャロラインを守るべきだったんだ。なのに…」

 まるで、瑠璃さんは、こんなことになるのなら、早くお兄さんを殺せば良かった、とでもいうような口振りだった。

「だから、今度こそ、守る」

私はその台詞で、何かがもやもやしていた理由がわかった。

「『今度こそ』って何ですか」

「だから、今度こそ、悠湖を──」

「私は、私ですっ!」

瑠璃さんの顔を両手で挟む。

「私っ…魂とか知りませんけど…人生は一周目です!死んだことないですし、全力で生きてます!他の誰かと一緒にしないで下さい!あと…死ぬつもりもありません!」

言い切って、呼吸を整える。

「そこんとこ、勘違いしないで下さいね!」

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