第12話 その人を知るということ②
過去編の続きの話です
『悠湖の母親が、帰ってくることはあるの?』
私が瑠璃さんと出会って1か月ほど経った頃、公園で瑠璃さんが私に尋ねた。
『一ヶ月に、一回くらい・・・』と私は答える。
『帰ってきたら、少しのお金を置いて、出て行くの』
『そうかあ』瑠璃さんは空を見上げて、それからズボンのポケットを漁ってソフトクリームを出した。
『・・・それ、ポケットに入れてたの?』私は驚いて訊いた。
『ふふ、どうだと思う?』
瑠璃さんはその頃から、不思議な人だった。瑠璃さんはそのソフトクリームを私に手渡して、もう一方のポケットからもう一つソフトクリームを取り出した。
『昔、ある人にポケットに食べ物を入れるな、って怒られたなあ』
『汚いよ』
二人で笑い合った。実際のところは、ポケットにソフトクリームを入れていなかったのだろう。ソフトクリームは原型を留めていたし。
すると、公園の入り口から声がした。
『あんた、何で外にいるのよ・・・』
母だった。ガリガリの腕に、露出の多い服。濃い化粧に、ぐるぐるに巻いた髪。母が家に帰ってくるときは、仕事の格好のままだった。
『誰よ、あんた。うちの子に何食べさせてんのよ』
母が瑠璃さんに詰め寄る。
『夏は暑いですからね、ソフトクリームを食べていたんですよ、お母さん。一人で食べていても寂しいから、私が一緒に食べるようお願いしたんですよ』
瑠璃さんは涼しい顔で言った。
『はあ?・・・悠湖、この人に何か吹き込んだんじゃないでしょうね』
『吹き込むって、何を?ただのご近所さんですよ、お母さん?』
『その「お母さん」って言わないでちょうだい!』
母は私の腕を掴んで連れて行こうとした。
『痛いよ・・・』
と私がつぶやくと、瑠璃さんが母の前に立ち塞がって言った。
『お母さん、お金に困っているんじゃありません?』
爽やかな笑顔だった。でも、冷え切った、ガラスみたいな、心の全てを見透かされそうな目をし
『・・・だとしても、何よ。片親なんだし、私は一生懸命働いているわ。キャバクラで好きでもないおじさんたちの話し相手を毎日してね!』
母は瑠璃さんを押し退けて行こうとした。
『こんなところに私の預金通帳があるんだが・・・見てみる?』
瑠璃さんが先ほどソフトクリームを出したポケットから預金通帳を取り出す。母はそれを受け取って開いた。
『なっ・・・一、十、百・・・い、一億!?』
母の目が点になる。思わず通帳を落としてしまいそうになっていた。
『これで、あなたの娘を育てようかと思うの。食費も、学費もこれで賄えるでしょ?』
『は?私の・・・娘を?』
『ええ、だから養子縁組させて頂戴。あなたにとっても悪い話ではないはずよ。』
『どういうこと!他人の子を取り上げようっていうの!?』
母が瑠璃さんの胸ぐらを掴みかかる。ちゃっかり通帳は握りしめている。
『ああ違うな・・・お願いをするときはこうやるんだとアイツに習ったんだった・・・』
とぶつぶつ瑠璃さんは言うと、頭を下げて言った。
『責任持って育てます──だから、あなたの子供を下さい』と。




