第9話 怒り
「まあ、そういうことだから」
と瑠璃さんはさも何でもないことかのように言った。
「え、もしかして瑠璃さんが教員寮からほぼ出ないのって、命を狙われているからなんですか?」
「いや、それはただのズボラだね」
「そうなんかいっ」
ついツッコミを入れてしまった。
「命を狙われてるのはまあどうでもいいんだけど・・・相手が厄介なんだよね」
「いやいや、良くないっすよ」
そこで呆けていた佐野くんも前のめりになる。
「それと松本先生に関係があるんですか」
「・・・そう。本題はそこなのよ。松本先生は・・・」
瑠璃さんが何かを言いかける。すると数学準備室の扉が開いた。
松本先生だ。何かいつもと雰囲気が違う。
「ま、松本先生!今日は休みじゃ・・・」
と佐野くんが言った。これでは密談をしていたと白状しているようなものではないか、とため息をつく。
「佐野先生・・・あなたの声は廊下までよく響いていますよ・・・」
と松本先生。
「じゃあ・・・俺が佐倉先生の代わりに答えます・・・俺は・・・」
「私の兄の生まれ変わりなんだ」
松本先生の声を遮り、瑠璃さんが言った。
「話している途中なんだ。割り込まないでもらえる?」
「初対面のときから、敵意丸出しすぎです・・・」と松本先生が笑った。「そんなに仲が悪かったんですか、お兄さんと貴女は」
「・・・佐倉先生の、お兄さん・・・?」
「の、生まれ変わりね」
瑠璃さんが生まれたのはそれこそ何百年か何千年か前のこと。ならばお兄さんはずっと昔に亡くなっていることになる。
「別に大したことじゃないさ。生まれ変わった兄には何度も会ったことがある。君は10人目だ」
「どういうことですか?」
佐野くんはまだ状況を掴めていないようだ。当たり前だ。これは瑠璃さんが不老不死であることが前提の話なのだから。
「色々聞きたいことが増えましたけど、今は良いです・・・」と佐野くんは言った。「今度、言いたくなったら教えて下さいね」そう言って瑠璃さんにウインクする。
「それで松本先生は、金庫の中身、持ち出したんですか?」
そうだった。とんでもない話たちのせいで、本題をすっかり忘れていた。
「いいえ?佐倉先生です」
「・・・は?」思わず声を荒げる。
「何言ってんの?佐野くんだってあなたが盗んでいるのを見ているんだよ?」
「ちょっと御酒先生、落ち着いて」と瑠璃さんがなだめる。
松本先生が口を開いた。
「・・・逆に訊きますけど、何故佐野のことは信じて、俺のことは信じないんですか・・・?」
「・・・どういうこと?」
「佐野の証言が嘘かもしれないと、疑わないんですか?出会ってからの日数は大して変わらないじゃあないですか」
はっきりした口調になった。
「そうやって論点のすり替えをして・・・」
怒りが湧く。
「佐野くんはどうだっていいんだよ。でも、佐倉先生は・・・瑠璃さんはそんなことしない!」
「何故そう言い切れる?」
ドスの効いた声になる。少し気後れしたが、耐える。
「瑠璃さんは億万長者だから、そんなみみっちいことしないもの」
「金が目的とは限らないでしょう。例えば・・・」
「あなたをを追い出すこと、とか?」
瑠璃さんが口を開いた。瑠璃さんはいたって冷静だ。
「ええ。よくわかっていらっしゃりますね。さすが──」
「それはあんたの目的でしょう?瑠璃さんになすりつけて、学校を辞めさせようと──」
「何のことだか」
「落ち着いて!」
佐野くんが叫んだ。
「ヒートアップしすぎです。一旦頭を冷やして」
「だって・・・」
「僕だって許せませんよ」
一瞬、佐野くんがひどく大人びて見えた。
その後、校長が来て松本先生を連れていった。
「あとは任せて下さいね」
「大丈夫なんですか」と佐野くんが私に囁いた。「暴れたりしたら…」
「大丈夫。私こう見ても柔道黒帯なのよ」
校長がウインクした。
去り際に、元の口調に戻った松本先生がこう言っていた。
「あなた達は佐倉先生のことを知らなさすぎる・・・本名だって、知らないでしょう?」
本音を言えば、もやもやしたし、一発殴ってしまえば良かったかとも思う。
でも確かに、私は瑠璃さんの全てを知っている訳じゃない。けれど、私たちが過ごした日々を、私はちゃんと知っている。だから今は、それで十分だ。
いつか、瑠璃さんが色々なことを打ち明けてくれるその日まで…
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拙い文ですが、これからも頑張ります!




