見知らぬ地
景色が移り変わる。
あれだけコンクリートに溢れた世界が木造の建物ばかり目に入る。
景色は江戸時代の建物に近く感じる。いつの間にか黒い手はなくなっているし、私は道のど真ん中にいた。
道のど真ん中だからか行き来する者が多い。その者達は皆、着物を着ている。
そんな事よりも、気になったのは彼らは人の姿ではなかったことだ。
道行く者達は耳が生えてたり、首が長かったり、目が一つだけだったりと個性的。
「ここ…どこ…?」
私は慌ててスマホを確認する。やはり圏外だ。
やけに視線を感じる。見渡してみると、辺りの者が私を珍しそうな目で見つめてきていた。
このままだと嫌が予感がして、私はハンカチで顔を隠して、裏路地の方へ走っていった。
「はぁ…はぁはぁ…」
呼吸が荒い。
私…どこに来ちゃったんだろう? 何でこんなことに……。
その時、おばあちゃんの声が蘇る。
『狐の嫁入りだけは絶対に見てはいけないよ』
「あ…。もしかして、あれって狐の嫁入りだったの……。じゃあ、私神隠しにあって……。……もう帰れないのかな」
私はしゃがみ込んで下を向いて涙を流す。
「お嬢ちゃん…」
呼び声が聞こえる。やがて草履で歩く音が近づく。
「お嬢ちゃん…!」
私…? 裾で涙を拭ってから見上げる。そこに居たのは腰の曲がった老婆だった。
人間…?
私はその老婆の姿を見て、また泣いてしまった。だって…もう人には会えないと思っていたから。
「お嬢ちゃん、迷い込んだのかい? 私は人間だよ、安心しておくれ」
老婆は私に手を差し出す。その手を握って立ち上がり、私は老婆に抱き着いた。
「その様子じゃ迷い込んだばかりのようだね。ほら、話は私の家で聞くよ」
老婆はにたりと笑いかける。
「ありがとうございます…。私…このまま帰れないんじゃないかって不安で」
「その気持ちよく分かるよ。私も若い頃はそうだった。じゃあ、家へと案内するよ」
私を抱き離し、手を握る。そうして、ゆっくりと裏路地から出ていく。
このおばあちゃん、長年ここに住んでいるんだ…。心強い。
でも、この人が長年居るってことは現実に戻る手段がないってことかな…。だったら私は一生……駄目駄目駄目! 会えただけでも奇跡なんだから、ポジティブに考えよう。
「私みたいに迷い込む人ってよく居るんですか?」
「いるよ。私の生きがいはその者達を我が家に向かえ入れることさ」
へえー。こんないい人に会えて本当についてるな。
「ここが私のお家だよ、さあ…お入り」
老婆は玄関を指差す。
私は指示に従い、中に入ろうとした。けれど、その前に誰かに手を掴まれた。
振り向くと仮面を被って耳の生えた者が居た。背が高く細いが筋肉はありそう。容姿的に男だろう。
「貴方は確か……」
あの時、振り返ってくれた人?
「その老婆には関わらない方がいい。ソイツは人喰いで有名だ」
「え」
私は老婆の方を見る。
「う、嘘ですよね…? だって人間って……」
「果たして三百年以上も人間が生きられるかな」
老婆は舌打ちをして、裾から包丁を取り出す。
「久方ぶりの獲物だったのに…よくも邪魔してくれたな…!」
包丁が私の首元目掛けて振りかぶる。私は狐?に引っ張られ、事なきを得る。
「逃げるぞ」
私は肩に担ぎ込まれた。老婆が追いかけてくる様子が目に入る。
ここから私達の鬼ごっこが始まった。




