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狐は私を帰さない  作者: こもりみかん
始まりと再会

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2/17

見知らぬ地

 景色が移り変わる。

 あれだけコンクリートに溢れた世界が木造の建物ばかり目に入る。

 景色は江戸時代の建物に近く感じる。いつの間にか黒い手はなくなっているし、私は道のど真ん中にいた。

 道のど真ん中だからか行き来する者が多い。その者達は皆、着物を着ている。

 そんな事よりも、気になったのは彼らは人の姿ではなかったことだ。

 道行く者達は耳が生えてたり、首が長かったり、目が一つだけだったりと個性的。


「ここ…どこ…?」

 私は慌ててスマホを確認する。やはり圏外だ。

 やけに視線を感じる。見渡してみると、辺りの者が私を珍しそうな目で見つめてきていた。

 このままだと嫌が予感がして、私はハンカチで顔を隠して、裏路地の方へ走っていった。


「はぁ…はぁはぁ…」

 呼吸が荒い。

 私…どこに来ちゃったんだろう? 何でこんなことに……。

 その時、おばあちゃんの声が蘇る。

『狐の嫁入りだけは絶対に見てはいけないよ』


「あ…。もしかして、あれって狐の嫁入りだったの……。じゃあ、私神隠しにあって……。……もう帰れないのかな」

 私はしゃがみ込んで下を向いて涙を流す。

「お嬢ちゃん…」

 呼び声が聞こえる。やがて草履で歩く音が近づく。

「お嬢ちゃん…!」


 私…? 裾で涙を拭ってから見上げる。そこに居たのは腰の曲がった老婆だった。

 人間…?

 私はその老婆の姿を見て、また泣いてしまった。だって…もう人には会えないと思っていたから。

 

「お嬢ちゃん、迷い込んだのかい? 私は人間だよ、安心しておくれ」

 老婆は私に手を差し出す。その手を握って立ち上がり、私は老婆に抱き着いた。

「その様子じゃ迷い込んだばかりのようだね。ほら、話は私の家で聞くよ」

 老婆はにたりと笑いかける。

「ありがとうございます…。私…このまま帰れないんじゃないかって不安で」

「その気持ちよく分かるよ。私も若い頃はそうだった。じゃあ、家へと案内するよ」


 私を抱き離し、手を握る。そうして、ゆっくりと裏路地から出ていく。

 このおばあちゃん、長年ここに住んでいるんだ…。心強い。

 でも、この人が長年居るってことは現実に戻る手段がないってことかな…。だったら私は一生……駄目駄目駄目! 会えただけでも奇跡なんだから、ポジティブに考えよう。


「私みたいに迷い込む人ってよく居るんですか?」

「いるよ。私の生きがいはその者達を我が家に向かえ入れることさ」

 へえー。こんないい人に会えて本当についてるな。

「ここが私のお家だよ、さあ…お入り」

 老婆は玄関を指差す。

 私は指示に従い、中に入ろうとした。けれど、その前に誰かに手を掴まれた。


 振り向くと仮面を被って耳の生えた者が居た。背が高く細いが筋肉はありそう。容姿的に男だろう。

「貴方は確か……」

 あの時、振り返ってくれた人?

「その老婆には関わらない方がいい。ソイツは人喰いで有名だ」

「え」

 私は老婆の方を見る。


「う、嘘ですよね…? だって人間って……」

「果たして三百年以上も人間が生きられるかな」

 老婆は舌打ちをして、裾から包丁を取り出す。

「久方ぶりの獲物だったのに…よくも邪魔してくれたな…!」

 包丁が私の首元目掛けて振りかぶる。私は狐?に引っ張られ、事なきを得る。


「逃げるぞ」

 私は肩に担ぎ込まれた。老婆が追いかけてくる様子が目に入る。

 ここから私達の鬼ごっこが始まった。

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