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狐は私を帰さない  作者: こもりみかん
始まりと再会

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3/17

自己紹介

「巻けたな」

 随分と走ったのに狐は息を乱さず、平然としている。

 私は内心ヒヤヒヤしていた。ずっと追いかけられる様子を見ていたのもあるが、最後に包丁をこちら目掛けて投げられた時は死を悟った。


 狐は担いでいた私を降ろす。

「怪我はないな」

 体中を細く見られる。私は頷き、疑問に思ってたことを聞く。

「どうして助けてくれたんですか?」

「異界に連れ去られたのは俺達の責任だ。無様に引きづられていった姿を見て、無視しては狐の誇りに泥を塗る。決して貴様のためではないぞ。それだけは誤解するな」

 私のためではなく、誇りのためか。それでもよかった。もしも、この人が来なかったら私は今頃あの老婆の胃袋の中だっただろう。


「助けてくれてありがとうございます」

 私は頭を下げる。その様子を道行く人達が見守る。

 周囲からの視線を感じる。私が人間だから目立ってしまっている。

「このままだと目立つしこれをやる」

 狐は自分の仮面を外し、私に渡す。周囲はそれを見て、何故か歓声をあげた。

 狐は端正な顔つきで少し色気も感じる見た目だった。少しだけドキッとしてしまう。

「いいのですか?」

「ああ。人間は餌が出歩いていると思われやすい。仮面をつけて狐のふりをした方がいい」

 私は周囲の態度に疑問に思いながらも仮面をつけた。


「あと、はぐれてしまえば大変だ。印をつけるぞ」

 そう言い、狐は私の手に触った。すると手の甲に何かが浮かび上がった。

「印ってなんですか?」

「アンタが何処にいても場所が分かるようにするもの。魔力で作ってる」

 魔力…。不思議なものがある世界なんだ。ほんとに現実とは懸け離れているな…。


 私は落ち込みながらもとあることに気がついた。

「あの、名前は何ですか」

「そう言えば名乗ってなかったな。俺は琥珀だ。貴様は何だ?」

「私は松井唯です。よろしくお願いします、琥珀さん」

「松井…」

 琥珀は顎に手を当て、思考を巡らす。

「そうです松井です。よくある名字ですよね」

 琥珀は納得したのか顎から指を離した。


「それなら早速、現実への出入り口に行く…と言いたい所だが、俺は用事がある。ここら辺でぶらぶらしておけ」

「えっ!? 一緒じゃないんですか?」

 私は不安になる。さっきみたいな事が起きたらと考えたら恐ろしい。

「すまないな。大事な用事なんだ。まあ、心配するな。仮面をつけた以上、松井は狐の一員だ。相当な馬鹿でもない限り襲われないだろう。それに印がある。いざという時は助けに行ける」


  それなら納得だ。けれど、まだ不安が拭えない

「あの…私もその用事に付き合ったら駄目ですか?」

 恐る恐る聞くと、琥珀は

「駄目だ。部外者は連れて行けない。松井がもし…」

 琥珀はまた顎に手を当てて考え出す。

「いや、何でもない。ただの偶然だろう」

 自分に言い聞かせるように琥珀は言って、彼は歩き出す。


 琥珀は一度私に振り返り、

「用事が終わったら必ず迎えに来る。それまでの間…観光でもしておけ。ここは滅多に来れない場所だからな」

 そう言って琥珀は初めて笑いかけ、言ってしまった。


 これからどうすればいいのだろう。観光を……? でも、そんな悠長にしていていいのかな…?

 そう言えば、この世界にお金ってあるのだろうか? 観光…できるかな。

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